#03 怖がりひなちゃん おとうさん

《前回までのあらすじ》

・———ぶすり。


 「そうか……そうだよな……」

 「反論しなさいよ主役なんだから」

 そんな慌ててない二人であった。

 「私は人間の自由と平和のために戦う」

 「仮面ライダーみたいだ」

 「……貴方、悪魔の力を使っているでしょう」

 「なぜわかんだい」

 「悪魔はただじゃ死なない……というか純粋な人間のものでは傷ひとつ、つけられません。悪魔に憑かれた時点で、身体がそうなるのです」

 「へーそーなんだー」


 「……久しぶりに見ましたよ、オーバーロード」

 

 弱々しく発声する、這いつくばった女がそこにいた。

 「まだ息があるか」

 謎の少女は再びその手の日本刀でフォカロルを刺しにいく!

 しかし———


 「そうはさせない」

 瞬時に移動した安藤が、その日本刀を、見事に素手で掴んだ!

 「そんな経験まで」

 「俺も不思議だよ」

 「……何故、邪魔をする?」

 「……何故、助けるんです?」

 「俺は聖徳太子じゃないぜ……別に、暇だから手伝ってるだけさ。助けることもな」

 「……何故そうまでする。貴様、人間のはずだろう」

 「さぁね」

 「……」

 彼女は不可解な表情を浮かべ、瞬時に消えた。

 

 「う、うぅ……」

 フォカロルは苦しそうにベンチの上でうずくまっていた。

 「事実この悪魔同士ならダメージが入る、というのはほぼグラシャ=ラボラスのための法則だったのですが……まさかこんなことになるとは」

 「大丈夫なんだよな?」

 「まぁ今日中には回復するでしょう」

 「ならよかった」

 

 「……わたくしもお馬鹿ですね」


 「何を言う」

 「……さっさとバックれていれば、こんなことにはなりませんでしたので……」

 「あんたは好きなように着込んでんだ、それを広げるだけだろう」

 「いいことを言う」

 「それほどでもないよ」

 

 「……しくじったな、フォカロル」


 彼女を見守る二人の背後に、今度はスーツ姿の男が現れた!

 「だ、誰あんた?」

 「……バアルッ!」

 ダンタリオンが稀に見る顔面の歪ませ方をしている。多分マジギレ。

 「あんたがへーこら言うこと聞いてるから、こんなことになったんでしょ!早く大いなる意志に返還を要請しなさい!」

 「何故未だに疑いを持つ」

 「そんないいシステムでもないからよ……オーバーロードまで作り出して、あんたどう落とし前つけるつもり?」

 「すべては主の意志だ。我々に介入できるものでもない」

 するとおもむろに安藤の方を向いた。


 「お前は、無言で否定するのだな」


 瞬間、フォカロルと共に消え去っていった。


 「……あれが、バアル?なんか嫌なやつだな」

 「凝り固まった保守ですよ。大いなる意志以外はなにも信じやしない」

 「それで、オーバーロードってなんだよ」

 「簡単に言うと、悪魔を調伏した人間ですね」

 「調教?」

 「悪魔が高次元の言語で構成された情報生命体であり、それを人間はうまく理解できないから悪魔は人を乗っ取れるわけです」

 「へー」

 「しかしそこで、稀に悪魔を理解してしまう人間が存在します。その結果彼らは人間の意識で悪魔の能力を使えるようになるわけですね。人知を超えた能力を好きに脳から発動する。過剰復元。ゆえにover loadです」

 「俺はやっぱり違うの?」

 「貴方はお情けだって言ってんでしょ!!!」

 「そんな怒らなくても……」

 「……オーバーロードは御業も効きません。なので悪魔の所業を止めようとしたり、私情で能力を好き勝手に使ったりします。過去も何人か出てきて、大体ろくなことをしませんでした」

 「ひでー」

 「なので数日使命を果たさなければ強制的に引っ剥がされるシステムが生まれたのですが———今の主にそんなこと期待できません」

 「てことはつまり」

 「そう、ヒーローの出番です」

 「やだーーー!」

 

 しかし帰らなければならない。

 安藤はそこそこ歩いて家のある住宅街まで戻ってきた。そんなビル街まで近い家に住んでるわけでもないのだ。

 ダンタリオンは電源を切って先に寝ている。いくらなんでも数年ぶりに自分の機能を動かしているらしく、流石に時々電源を切らないと体がもたないらしい。

 彼を眠気が何やら襲ってきた。

 流石に能力を使いすぎたのかもしれない。あくまで理解したのではなく、貸し与えられている状態であるからかもしれない。

 

 しかしそんな彼は———


 「答え合わせに来たのかい」


 ———背後から現れた謎の少女のことは察知できていた。

 なんだかんだで感覚そのものは鋭いのだ。


 「お前と話したいと思ってな」

 「へぇ、じゃあどこかに座らせてくれよ、眠たくて仕方ないんだ」


 近くの公園に二人並んで座る。

 「……お前は、どうやら悪魔に対して甘い対応をしている、というわけでもなさそうだな」

 「なんで知ってるんだ」

 「あの時木の上に移動したんだ」

 「忍者かよ」

 「お前らが、何かしらの中立的な立場で動いていることがわかった。理由を教えてくれ」

 「あー、えーとね」


 「…………なるほど。悪魔がこんなにいる状況は本来あり得ない、と」

 「だから解決するために動いているんだ」

 「……だが私は、正直な話、怖い」

 「なにが」

 「結局、悪魔はその依代の真似をし続けているわけだろう?それは、何も変わらないのに別人で……すごく、気持ち悪い」

 「まぁ本来はそんな長い期間いるわけでもないからなぁ」

 「私は、嫌悪感の方が先に来てしまう。何より私は、脳内で悪魔の姿を見た」

 「うん」

 「全身を舐め回すような目をしていた。私を肉から骨から利用することを目論んでいることがわかる、な」

 「……そうか」

 「だから私は、やめられそうにないんだ……止めて、くれないか。お前らなら信用できる」

 「それは……」


 「おとうさん!こっちこっち!」


 すると公園にひとりの少女が走ってやってきた。

 見たところ小学校低学年ほどだろうか。

 

 しかし問題は。


 「急ぐな急ぐな!くたくたに俺疲れてんだ」

 そのくたびれた父親が、昨日見た悪魔……マルコシアスその人だったことである。


 (なんで今来るんだよバカヤロ〜!)

 安藤は珍しく唇を噛み締めて目を充血させていた。

 今なんかすごい重い話をされて決断まで問われていたのにこの仕打ちである。ひどい話だ。

 「悪魔、だな……」

 「……見てみよう。そうすれば変わるかもしれない」

 「顔が真っ赤だぞ」

 「にしてもおとうさん、いきなりゲームなんかはじめてどうしたの?」

 「いやぁはじめて……いや、あんまやったことなかったからなぁ」

 「それに、どようびはいつもしごとだったじゃん」

 「まぁ、働きたくないのさ。めんどくさくてめんどくさくて」

 「おとうさんじゃないみたい。まえはおとうさんしごとのはなしばっかだった」

 「仕事の話なんて家でするもんじゃないよ」

 「おとうさんも、つかれてたんだね」

 「ほんとにねー疲れてたんだろーねー」

 「おとうさん!かえったらいっしょにゲームしよ!なまえなんだっけ」

 「卍暗黒絶対騎士XXX卍」

「トリプルエックス?」

 「いやダブルクロスエックス」

 「わかんないよ!」

 「そうかな……そうかもな……」

 「おとうさんわけわかんなーい!」

 少女はいきなり走り始めた。

 「おい待て!ガキ!」

 マルコシアスもドタドタ走り出した。

 どこか手加減したような走り方だった。


 「……エンジョイしてるな」

 「……人を変えたからといって、私が変わるわけがないだろう」

 「まぁそれはそうだな」

 「だが———まぁ、流石に刺す必要はないな」

 そういう彼女は、笑っていた。

 面食らったような、いい意味で裏切られたような。

 少し潤んでいたのは、自分の考えを破壊されたからだろう。

 間違っていたことの証明。

 しかしそれは決してネガティブなだけではないはずだ。

 「……私は相川陽奈。お前は?」

 「安藤春樹」

 「ラインやってるか?」

 「あ、あぁ」


 こんな人でもラインぐらいはやってるよなぁ……と、安藤は自分の認識を改めた。


 明後日の月曜日。

 「あーやべぇやべぇやべぇよ」

 安藤は寝坊してしまっていた。

 ちゃんとパンを口にくわえている。そういうところはちゃんとするべきなのかはさておき。

 バッグを急いでからって下がっていく。

 

 しかし机の上には、彼の生命線が置いてあったままだった。


 「いってきまーす」

 そう言ってドアを開ける———



 ———その眼前に飛び込むのは刃の如き美貌の彼女———相川陽奈だった。


 「遅いぞ」

 「……ごめんなさい」


 謝るしかなかった。


 

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