21 冬川 胸ぐら掴む

 少し覗き込んでから中へ入る。電気は付いていない。天気のせいか薄暗かった。なんとなく忍び足で進んでしまう。悪いことしてるみたいじゃないか。見ると三台あるベッドの一つがフコッとしている。


「夏焼……? いるのか?」

 僕がそう呼ぶと、寝そべっている物体がピクリと反応した。そして勢いよく起き上がる。

「冬川~! げほげほ!」

「わうあぁぁ! 来るな寄るなうつすな暑い! こんなとこで何やってんだよ」

「実はだな、家が爆発して寝床を失った俺は寝不足のため今日は一日サボることにしたんだ! これは誰にも言うなよ」


 夏焼はそう言って再びベッドに寝転んだ。

「普通に風邪こじらせて具合悪いから寝るって言えば良いし、雅也たちにとっくにバレてるよ」

「ええっ!?」

「あぁ、デカイ声出すなよ、喧しいなぁ。だいたいなんでジャージに着替えて寝てるんだよ。家で寝てればいいじゃないか」

「言っただろ、爆発したんだってば……。げほげほ」

「天気も悪いのにわざわざ学校来て……。何がしたいんだよ」

「家で寝てるより、学校にきてみんなの顔見た方が健康にいいじゃないか。はっ……! 冬川の顔見たら治った気がするから、もう教室に戻ろう!」


 夏焼はなおも明るく振る舞い、上半身を起こそうとした。笑顔をつくっているけど、どこか腫れぼったい。何を無理しているのか。

 僕はそんな夏焼がまったく理解できず、すこしムシャクシャしてしまった。こいつの胸ぐらを掴み、力一杯ベッドに押し倒した。ガタッとベッドが軋んだ。


 夏焼はなにが起きたのか分からず目をぱちくりさせたまま黙った。ジャンプに失敗して仰向けに転がった大型犬みたいだった。

 僕は押さえていた手を離し、何も言わずに保健室内を物色した。夏焼の体はものすごく熱かった。そしてデスクにあった体温計をベッドに放り投げ、「計れ」とだけ言った。


 次いで棚を開けまくって冷感シートを見つけると、開封しながらベッドに戻り、フィルムを剥がして夏焼の額に叩きつけた。ゴミ箱を探しながら「何度?」と聞くと、ピピと体温計が鳴る。「38.7」と掠れた声が聞こえた。本当にさ、来るなよ。

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