2 冬川 霜介

 学校に来るだけでも暑いってのに、クラスには朝っぱらから暑苦しくて喧しい奴がいる。夏焼だ。いったい何が楽しくて朝からあんなにハイテンションなのか、僕には全く理解不能だった。


 僕からしたらあいつって見るからに陽キャだし、クラスでのカテゴリっていうかジャンルっていうのか? それもぜんっぜん違うのにさ。

「おはよ! 冬川。今日も暑いな!」

 って言って声かけてくるんだよ。なんてったって、席が隣なんだから。この万年パリピ夏男は……。


 そのくせさ、夏焼って成績いいんだよ。この間のテストが帰ってきた時に、生物が満点だったって発表されてだな。僕はめちゃくちゃ驚いた。人は見た目じゃ無いっていうけどさ、神様はもう少し人を見てステータスを割り振った方がいいと思うんだよね。まぁこいつ、古典とかは苦手みたいだけど。たまに図書室で見かけるけどあれって勉強してんのかな。


 僕? 数学と英語は得意だけど……。ってそうじゃないか。今、この夏男に名前呼ばれた通り冬川っていいます。名前の通り、夏より冬の方が好きなんだ。名前は霜介。ここは冬場は根雪になるくらい積もるけど、ピカピカ光を反射する雪の結晶とか、きれいなんだあ。それに冬って寒かったら服を着ればいいけど、夏って脱いでも脱いでも暑いから。それがたまらなく嫌なんだ。


 あ、嫌なこと思い出しちゃったじゃないか。今日、二時間目が体育なんだよ。なんだっけ? あぁ、バスケか。外で走らさせるよりはいいけどさ、あの熱の籠もった体育館も地獄だよ。憂鬱だなぁ。


 藤間先生のホームルームが終わると、僕は教室の後ろに並んだ個人ロッカーから一時間目に使う国語の教科書を取り出した。ついでに僕がクラスで唯一仲が良いといえる山本くんに声をかける。この地味な感じの安心感……。はやく席替えにならないかな。ならないよな、先週やったばかりなんだからって、僕は自分の席を振り返って見た。


 夏焼は彼と同カテゴリっぽい雅也や小林と駄弁ってる。あいつら軽音部なんだよな、確か。

 いわゆるクラスのイケてる奴らの一人なんだよ、夏焼は。

 明るくて、元気でみんなに好かれてる。先生たちだって、他のヤンキーっぽい奴には厳しいけど、夏焼にはどこか甘い。そういう星の生まれなのかもしれない。


 そうそう、クラスに学年のマドンナって言われてる田口さんって人がいるんだけど。田口さん美人すぎて僕ら男子は未だに緊張するんだけどさ、夏焼はそういう所、微塵も見せずに話しかけてく。女々しさとか下心一切なしであの美人に話しかけられるってのは、もう才能だと僕は思った。それなのに仲がいいってこともない。僕はあいつのポジションがいまいちわからない。


 あっという間に体育の時間になって、男子は体育館に移動しチームに分かれてバスケをした。不幸な事に僕は夏焼と同じチームになってしまった。夏焼は準備運動も全力だったのか、試合が始まる前から汗だくだった。そして満面の笑みで僕に

「冬川ー! 相手チームにバスケ部がいるからって落ち込むなよ! 勝つのは俺たちだ!」

って言って背中を叩いた。いてーな、と思いつつ、僕は苦笑いをした。暑い、熱い、うっとうしい! 帰りたい……。


 え? なんで僕がこんなに夏焼を苦手かって?

 中学時代に、僕をいじめた奴に似てるんだよ、あいつ。

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