第1章 空想少女2 イケメン二人、何する人ぞ2

 同じような色違いのロングジャケットを着ている。


「間に合ったか?」

 急いで駆け付けたらしく、肩で息を切っている。


「下手な芝居はよせ 。お前、俺がやられるのをずっとそこで見てただろ?」

「まさか。たったいま着いたんだ」

「嘘ついてんじゃねえよ。俺が手出しできねえのが分かっているから、楽しんで見ていたくせに。とんだサディストだよ。お前は」

 途端に怜の口調がガラリと変わった。

「ふっ。一人で手に負えないのなら『助けて下さい』といえ」

「冗談じゃねえよ。一人で十分だ」

「だったら僕は帰ってもいいんだぞ」


 二人が額を突き合わせてにらみ合いを始めた時「あのう……」と男が声をかけた。

「なんだよ?」二人が同時にこちらを見た。偶然雲が晴れハッキリと見えた二人の顔は驚くほどの美形だった。神なのか・・・。と、男の目は一瞬釘付けになったが

「あっちはどうするんですか?」と暗闇の化け物たちを指差した。


 すでに人型を再形成した巨大な化け物がそこに立っていて、無数の顔が気味悪くケラケラと笑い声を立てていて、その声が鎮守の森に響いた。


「知るか! お前がスピリットを呼んだんだよ」

「スピリット?」

「鬼だよ、鬼。 日頃の行いが悪いんだろ?」

「いえ、僕は全く……」


 怜は男の目の前にしゃがむと男の目をじっと見つめた。

「僕の目を見ていえ。火神かがみとは鏡。お前はあいつらに何をした?」


 怜が男を見つめてそう尋ねると男は

「俺は…あの女たちで散々遊んで飽きたら捨てて、逃げてきた」と男は答えた。

「何人くらい?」

「じゅ…」といいかけた男を見つめる怜の瞳が青く燃え上がると

「百人以上」と男は答え、それからハッとして我に返った。

「なるほど」怜はすっと立ち上がった。


「じゃあ、殺されても仕方ねえんじゃねえのか?」

 桃李が怜にいった。

「そうだな」

「じゃあ」と二人が同時に手を挙げて、その場からさっさと立ち去ろうとすると

「待って待って待って。待って下さい。助けて下さい。何でもしますからぁ~」

 男は怜の足にしがみついて、地べたに這いつくばった。


「おっさん。あんた恨まれてんだよ。念って本当にあるんだぜ。人の恨みは買うもんじゃないよ」

 それを聞いていた怜が、今度はふと何かに気づいていった。

「あんた、テレビによく出てるIT長者じゃないのか?」

「そ、そうです。お金ならいくらでも出しますからぁ」

 泣きわめく男の目の前に、桃李はしゃがみ込んだ。

「こういうの何ていうか知ってる?」

「い、いいえ」


 桃李は男の耳元に口を近づけて囁いた。

「天罰」


 桃李がすっくと立ちあがると、怜と一緒に参道をさっさと帰り始めた。そのあとを白い獣と黒い獣が「タベナイノ?」と不服そうにぶつぶついい合いながら、のそのそとついて歩いて遠ざかっていった。


「嘘だろ…」

 そう呟いてから、男が恐る恐る振り返ると無数の女の顔で形成された怨念に満ちた表情をした巨大な女の顔が、こっちに向かって歩いてくるところだった。男はもう声も出せず死を受け入れた。

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