僕は終わった人間だ

久石あまね

アゲハ蝶

 精神科の外来は患者でいっぱい。人が居過ぎて、息がつまりそうになる。小学生もいたら、お年寄りもいた。ちなみに僕は17歳の高校二年生。


  精神科に通院して六ヶ月たった。


 主治医の書いた診断書の病名の欄を見ると、統合失調症と書かれていた。


 僕はネットで「統合失調症」と検索した。


 自分の考えや感情が支離滅裂になったり、幻聴や被害妄想がでたりする病気らしいということがわかった。


 「僕、終わったんかな、人生」


 受付で通院代と診断書代を払った。親にもらったお金はほぼなくなってしまった。


 病院の外に出ると、花壇の上をアゲハ蝶が飛んでいた。どこまでも自由なアゲハ蝶。しかしこのアゲハ蝶もいつかは死ぬのだろう。人間の生命と比べると遥かに短い生命だ。それに天敵も多い。アゲハ蝶からすれば、人間の生活など、楽なことに極まりないだろう。


 僕はしばらくアゲハ蝶を観察していた。


 病院の前に1台の空のタクシーが停まった。病院に来た人が帰るために呼んだのだろう。そんなことを考えていたら、いつの間にかアゲハ蝶の姿が消えていた。


 どこだ。どこいったんだ。


 アゲハ蝶は残酷な現実に直面していた。


 大きな蜘蛛の巣に引っ掛かってしまったのだ。

 蜘蛛がアゲハ蝶に近づき糸をアゲハ蝶の身体に絡めた。


 アゲハ蝶は身悶えしていたが、しばらくして抵抗するのを止めた。諦めたのだ。生きることを。


 僕はいつの間にかアゲハ蝶を自分に置きかえていた。

 自分はいま、蜘蛛の巣に引っ掛かっているのだ。どんなに暴れて抵抗しても、蜘蛛の巣からは抜け出せないだろう。

 自分はもう終わってしまったのか。


 そんなことを考えていたら1羽のスズメがさっきの蜘蛛の巣にいる蜘蛛をくちばしで掴まえて、飛んでいった。まさに青天の霹靂だった。


 アゲハ蝶は糸に絡まっていたが、まだ息をしていた。


 僕はアゲハ蝶に絡まった糸を丁寧に一本づつ取り除いた。


 キラキラとしたアゲハ蝶はまた優雅に飛んでいった。


 

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