第31話帰宅

 ー前回のあらすじー

 元気いっぱいの中二病、朝貝栄一は《戦乙女ワレキューレ》の間引きにより仕事が増えたことに絶望する。しかし、《戦乙女》が王都でも有名なことを知り、自らも名を上げるために《戦乙女》を打倒することを誓うのだった……。

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(side.栄一)


「それじゃ…あとは…任せました…よ…?」


一週間の泊まり込み勤務と低級ポーションのガブ飲みでヘロヘロになりながら、先輩に勤務交代を連絡する。


「あ、ああ..分かった..ま、任せろ…」


次は自分の番だと気付いた先輩はこの世の終わりのような表情を浮かべ、ギルドの奥の勤務室に向かっていった。


その哀れな姿を横目で見ながら、ギルドの外に出る。


外は少し肌寒く、何時もの2つの月もランランと光っており、綺麗だ。

それに、しばらく外に出ていなかったためか、空気が新鮮に感じられる。


そんな新鮮な空気を一気に吸い込み、叫ぶ。


「……やっっと終わったああ!!!」


いや、ガチでこの一週間は死ぬかと思った!!

一週間泊まり込みて!?ブラック企業もびっくりだわ!


もちろん、こうなった理由は戦乙女ワレキューレのせいである。


ほんとにアイツらは頭おかしい!

マジで1日で500匹ぐらいの魔物を持ち込んでくるんだもん!死んじゃうよ?


その上、他の冒険者の魔物の鑑定もしなくちゃいけないから何時もの忙しさの比にならないほどキツい。


現代にギルドがあったら労働基準法で訴えられるのでは?と何度思ったことか……!


「だが、それも今日で終わり!」


フッ、待っていろ《戦乙女ワレキューレ》!


すぐさま装備を整え、俺の仕事を増やした恨みでボコボコのボコにしてやる!


「そのためにも今日は早く寝ないとな。<転移>テレポート!」


人目のつかぬ場所に移動したところで<転移>を発動し、自宅に転移する。


(フフッ、明日はついに武器選び!カッコイイのがあるといいなぁ。)


なんかこう、大鎌みたいな中二病チックなものとかね!






「帰ってきたんですか?」


「うおッ!び、びっくりしたぁ……!な、なんだ、アイかよ…」


そんな感じでウキウキしていると、突然背後から声がかかった。


アイである。


急に声かけないでよ!変な声出ちゃったじゃん!悪役の尊厳が台無しだよ!


「た、ただいまぁ……」


「……はい。」


そう言うとアイはズンズンと奥に歩いていく。


んっ?なんか不機嫌?

一応帰れなくなるのに備えてご飯用意したり、お風呂の使い方について教えていたはずなんだけど……。


「ねぇ、なんか不機嫌?」


気になったので聞いておく。

部下の健康管理はラスボス系悪役の義務だからね!


「……たです。」


「えっ?なんて?」


「だから!一人で留守番はさみしいです!」


あまりの声の小ささに聞き取れずに聞き返したら大声でそう言われた。


ああ、そういうことか。

確かに俺も小さい頃は親が忙しくて家にいなかったから、テレビで寂しさを紛らわせてたなぁ。


まぁ、それでアニメにハマることができたんだけどね。


それはそうと、一応謝っておく。


「そうか、それはすまなかった……」


「…………。」


だんまりである。


焼き鳥残業事件(24話参照)のときはキレッキレの毒舌をかますくせに、こういうところは年相応なんだよなぁ。


ここは、俺が小さい頃寂しくて泣いたとき、母がよく言っていた伝家の宝刀を使うしかないようだな……!



「寝る前に本の読み聞かせしてあげるから、ね?」


優しく諭すように俺が言うと、プクーと膨れていたアイのほっぺがしぼんでゆく。


「……はぁ、しょうがないですね、今回はそれで手を打ってあげます。ほら、行きますよ!」


そう言うとアイは俺の手をつかんでずりずりと寝室へ引きずっていった。







―――ヘヘッ、チョロいぜ!








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*あとがき*

読んでくださりありがとうございます!

「面白いッ!」「主人公オカンか!」「先が気になる!」と感じた方はぜひレビューをください、励みになります!

最近は暑くなったり、寒くなったりで大変ですね。風邪にお気をつけください。

設定26ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今回、栄一が読み聞かせした本の名前は『勇者戦記』。王国のベストセラー小説で、

かつての勇者が魔王を封印するまでの話が描かれている。

栄一は街の市場でこれを見つけて、衝動買いした。

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