エクソシスト・アデル物語

夢月みつき

第1話「エクソシスト・アデル=シルフィード=クロック」

ここは、異世界のシルフガーランドと言う街、代々由緒正しき、エクソシストと言う悪魔祓いを行う家系、シルフィード=クロック家の長女として、生まれたアデルは、物心つく前から兄と共に父親から、厳しくエクソシストとしての全てをその身に叩き込まれて来た。


そのおかげで、二十三歳の現在でも男勝りで浮いた話の一つもないが、

蒼いウェーブが掛かったロングヘアに緑の瞳、その肢体はしなやかで、容姿は女神かと見まごうばかりの美しさだった。

厳しいが優しい父、アデルを一人の女性として扱ってくれる兄。


エクソシストの名家に嫁ぎ、全てを受け入れ愛情を注いでくれる母、まだ幼く、目が離せないやんちゃで、可愛い弟。

アデルは、そんな家族が大好きだった。



◇+◇+◇



そんなある日、アデルはクロック家が護り代々、挑んで来た試練の塔に登る日が来た。

試練の塔には、様々な罠や魔物が待ち構えていて、その最上階には邪悪な悪魔達に対抗出来る聖魔。悪魔でありながら、正しき心を持ち聖なる力を持つ“サタン・フレイ”が眠っているのだと言う。


それを使役出来た者には、一族で未だ成し遂げることが出来ない、最高の称号、

“デビル・スレイヤー”の能力が手に入るのだと言い伝えられている。

その日は風の強い日だった、アデルは蒼く長い髪をかき上げると、そびえたつ塔の入り口の扉に手を掛けた。


「父さんも兄さんも、代々のご先祖様達も誰一人敵わなかった聖魔に、あたしが勝てるのだろうか…」


そう思うと、足がすくんだが持ち前の負けん気でその迷いを振り払った。

アデルは次々と魔物と戦い、罠を交わして塔を登って行った。

そして、ついに塔の最上階に降り立つと、そこには開けた広場が広がっていた。



レンガ造りのその部屋の真ん中に、光の六芒星ろくぼうせいが浮かんでおり、その下に祭壇と祭壇に突き刺さった剣が見える。

アデルは、祭壇に近づくと両手を伸ばして、鋼の剣の柄を握った。


「この古ぼけた剣を抜けばいいんだな…?」


柄を握りしめ、思いっきり引っ張ってみる。

所が、剣は一度も抜かれた事が無くビクともしない。

ふと、彼女は父に教えられた事を思い出した。

自身の左肩に生まれた時からある、一族の証の六芒星の紋章を見つめて

「これに祭壇の上の六芒星を共鳴させれば、いいのか」と呪文を唱え始めた。


「我、エクソシスト、シルフィード=クロック家の者なり、アデル=シルフィード=クロックの名において。汝を解き放たん…降臨せよ、聖魔サタン・フレイ!!」


紅い閃光と共に彼の者は現れた…。

二本足で立つ、犬のような姿、銀色の体毛に覆われた体、真っ赤に光る鋭い双方の眼。

頭には、四本の角が生えていてその者がただ者ではなく、悪魔なのだと知らせている。


『――我は、サタン・フレイ…汝が我を眠りから覚ました者か』

重々しい言葉が発せられる。


アデルは、一瞬、たじろいだように見えたが、自身を奮い立たせて名乗る。

「そうだっ!あたしは、アデル=シルフィード=クロックだ!」


『フッ…また、クロック家の人間か、どれ、波長を見てやろう』

サタン・フレイは落ち着き払い、慣れた手つきで自身の胸の宝玉とアデルの紋章を共鳴させた。



宝玉と紋章が光りだす。

「わっ、これは!?」

「ふむ!女、これは一族で、初めての共鳴者が現れたぞ!本来は我と波長が合えば、戦わずに我を使役出来るが、我としても力の無い人間の女に使われる気はない。」


アデルは、聖魔の物言いに段々と腹が立って来た。

「なんだ、偉そうに!黙って聴いてれば、女、女って馬鹿にするなっ!あたしだって、クロック家のエクソシストなんだぞ、この犬ッコロ!」

聖魔の眼が怪しく光る。


「――この姿を見ても、犬っころなどと、たわけたことがいえるか!」


聖魔が宝玉に力を込めると、体が光り出し、変化して行く。

次の瞬間から、聖魔は犬のような姿から、銀髪で長身の凛々しい青年へと変化していた。   

「この姿が、俺っちの本来の姿だ!名を呼んで欲しくば、戦いに勝つが良い。来い!」

「言われなくとも!」


アデルは、自分の鞘から、抜いたばかりの鋼の剣を振りかざし戦った。

聖魔の強力な魔力と鋭い爪が彼女に襲い掛かる。

しかし、戦いは、サタン・フレイの勝利に終わった。


聖魔は無傷だが、アデルは満身創痍だった。

「つっ、強い!ハア、ハア…くやしいが、もう、戦う力も残ってない!さあ、殺すなら殺せっ!」


覚悟を決めて、仰向けになり叫ぶアデルに、聖魔はこれまで見せなかった優しいまなざしを向けた。


「殺すつもりなどない…それに見てみろ。頬に傷が付いてるだろう?この俺っちに傷をつけたのは、お前が初めてだ。それより、こんなに傷つけてしまってすまなかったな…治してやろう」


サタン・フレイが手をかざすと、アデルの体が淡い光に包まれ、傷が完治してしまった。     


「どうして助けた!負けたのに」

「女に傷が残っては、いけないだろう?おっと、これは禁句だったな。」と、ウインクした。

「気にしててくれたんだ…」


アデルが体を起こすと、聖魔が手を掴み、グイッと引っ張る。

「――アデル=シルフィード=クロック、お前に俺っちが使いこなせるかな?」

 

気がつくと、聖魔に抱かれる形になっていてアデルは赤くなって腕の中で、もがいた。

「負けたのに納得いかない!理由を言え!」


すると、聖魔は少し頬を赤らめ「俺っちが思っていたより、お前がいい女で俺っちが愛してしまったから…では、理由にならないか?」


ニヤリと笑うと、アデルに触れるだけの口付けをした。彼女は真っ赤になって絶叫し、聖魔にパンチを食らわせた。

こうしてサタン・フレイは、アデルの良き相棒となったのである。



そして、デビル・スレイヤーの力を手に入れたアデル=シルフィード=クロックは、サタン・フレイと共に街へと戻った。

しかし、その頃、街では悪魔の大群が出現し、長である父と、兄と仲間のエクソシスト達が戦い始めていた。





-終わり-


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