第14話 スーパーGT オートポリス

 9月、九州は秋風がさわやかな季節となっていた。朱里は、一流ドライバーと認められ、近くのホテル住まいをしている。阿蘇の景色が見える気持ちのいいホテルである。

 昨年と違い、チャレンジチームは3人体制なので3スティント制を採用することにした。サクセスウエイトは61kgと重たいが、燃料流量リストリクターは通常にもどしている。他の有力チームも同様のウエイトを積んでいるので、さしたるハンディとはなっていない。

 今回も予選Q1は朱里の担当である。ランキングトップのH社10番野沢の後ろにつく作戦をとった。ウエイトの差は3kgしかない。一昨年のチャンピオンの走りをじっくり見ているうちに予選Q1は終わった。6位でQ2進出である。終わってから野沢とすれ違う時があり、

「ありがとうございました」

 と言うと、

「ずっとケツにつかれていたので、気持ち悪かったよ」

 と返された。元チャンピオンの野沢に嫌がられたのは、一流ドライバーとして認められたようでうれしく感じた。

 予選Q2は、山木の担当である。快調にとばすが、伏兵が現れポールポジションをとれず、予選2位に終わってしまった。ポールをとったのは、N社14番樋口である。今季、表彰台はないが毎回ポイントをとっている。サクセスウエイトは22kgしかない。山木とは39kgの差があるので、この差は大きい。

 監督の館山は山木にねぎらいの言葉をかけている。フロントロゥをとれたのは期待以上である。

 夕方、作戦会議が行われた。明日の天気予報は晴れである。3人の走行配分を決めなければならない。今回の450km戦から、最低3分の1規定がなくなり、最低4分の1規定に変更されている。女性ドライバーが増えたので負担を減らすためである。ただし、2人体制の場合は最低3分の1以上を走らなければならない。

「94周をどう分けるか、また順番をどうするか? 皆の考えを聞きたい」

 と監督の館山が聞くと、山木が早速口を開いた。

「オレにスタートをやらせてくれ。前半で樋口についていく自信はある。その後に朱里でトップに立ち、最後は庄野がそのポジションを守るということでどうだ?」

 と言ってきた。館山が朱里と庄野の顔を見た。庄野は不安そうな顔をしている。

「私は最後に走りたいです。庄野さんが2位をキープしてくれていれば、トップにでる自信はあります。守りの走りよりも攻める走りをする方がわたしにあっています」

 との朱里の言葉に館山も山木も納得した。トップを守る走りを2人の女性ドライバーに期待するのはまだ難しいと感じたのだろう。周回数は山木が半分近くの40周を走り、庄野が4分の1の24周、そして残り30周を朱里が担当することとなった。他のチームの配分とは異なるので、ピットインが重要な要素となることが予想された。

 翌日、決勝日。13時スタート。山木は無難に走って樋口の後についている。立ち上がりの加速では負けるが、コーナーが多いサーキットなので、それほど離されるわけではない。山木のプレッシャーを感じるのかラインが不安定だ。これが常勝チームと伏兵チームの違いなのかもしれない。

 41周目、山木は庄野と交代した。同じタイミングで樋口も伊藤に代わる。女性ドライバー同士の戦いだ。ここからはGT300との戦いだ。どこで抜くかがポイントだ。だが庄野は伊藤にぴったりついている。決して無理はしない。堅実な走りだ。

 65周目、庄野から朱里に交代。伊藤はまだ走り続けている。朱里のタイヤがあたたまるまでペースをあげる作戦だ。

 70周目、伊藤から栗原へ交代。朱里の5秒前にでてきた。朱里のタイヤはあたたまっているが、栗原はまだあたたまっていない。1周走ったメインストレートでは朱里がぴったりついている。後はGT300のマシンをよけながら、栗原にプレッシャーを与える。そしてチャンスがあったら抜く。残り10周が勝負だと思っている。

 80周目、そのチャンスがやってきた。栗原がミスをしてオーバーランをしたのだ。朱里は難なくトップにでることができた。残り14周。ところがレースは何があるかわからない。

 84周目、後続のマシンで事故が起きた。GT500とGT300のマシンが接触して、スピンをして1台がコース上に止まっている。SC(セーフティカー)導入である。

 86周目、メインストレートにならぶ。トラブル車両が撤去され、コース整備が終わるとレース再開である。朱里が先頭でSCカーの後ろを走る。監督の館山と山木は手に汗を感じている。トップにいる朱里の重圧がわかるからである。ルマンの時と同様にミスをしなければいいなと願うばかりであった。

 88周目、SCカーがピットイン。残り7周の勝負だ。耐久レースなのに、スプリントレースになってしまった。GT300を抜くこともない。朱里の後ろにはN社14番栗原・N社3番マリア・H社5番リリアが続いている。一列縦隊でコーナーに飛び込んでいく。栗原だけがウエイトが少ないが後の3台は似たような重さを積んでいる。

 90周目、栗原がメインストレートで朱里に並ぶ。だが、朱里はインを譲らない。ブレーキはほぼ同時だ。栗原はオーバーランしていった。朱里はかろうじてコース内にとどまった。そこにマリアがせまる。タイヤをいためた朱里とタイヤを温存しているマリアとの勝負だ。コーナリングのたびに差が詰まる。

 94周目、ファイナルラップ。左のヘアピンでマリアが強引にインに飛び込んできた。一瞬マリアが前にでる。しかし、朱里は立ち上がり重視のラインで抜き返す。ピットではモニターを見ているチームスタッフが一喜一憂している。館山と山木は手を合わせて神に願っている。最終コーナー、朱里とマリアが並んでメインストレートにでてきた。レースアナウンサは

「どっちだー!」

 と叫んでいる。スタンドは騒然となっている。

 ボードの一番上には1が提示された。朱里の勝利である。タイヤひとつ分の差だった。これでランキングトップになった。次回の最終戦鈴鹿450kmはサクセスウエイトがなくなるので、イーブンで戦える。ランキング2位のN社5番とH社10番とは11P差がある。優勝できなくても3位に入れば、チャンピオン確定である。だが、朱里も山木もそんなことは微塵も考えていなかった。ハンディがないのだから勝つ気満々であった。

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