第4話 温室

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「こちらです」

 そう言って少女が案内したのは、無機質な町の中とは打って変わって、緑あふれる空間だった。

「ここの温室はお気に入りの場所です。誰でも見れるように開放しています」

 移動に不便ということで兵士の腕に抱かれた二人の生首、勇者の生首アレックス魔王の生首ヴァ―ルは思わず感嘆の溜息を漏らす。

 二人に草花を鑑賞する趣味はない。

 しかし二人は圧倒されていた。


 温室にはたくさんの鮮やかな花が植えられており、来た者の目を楽しませる。

 単調になるのを避けるためか、花の背丈も様々であり、アクセントとして大きな木が植えられていることが、この風景に立体感を感じさせた。

 場所によって植える花を変えることで、異なる雰囲気を演出しており、見るものを飽きさせない。

 頻繁に手入れされているのか、花壇には枯れた草や雑草はなく、道にも葉っぱ一枚も落ちてはいない。

 たくさんの人々が長い時間をかけて作り上げた一種の芸術のようだった。



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 しばらく景色を眺めて楽しんでいると、急に開けた場所に出た。

「アレックス様、ヴァ―ル様、こちらにおかけになって下さい」

 少女が指し示す先には来客用であろう、きれいなテーブルとイスが並べられてた。

 テーブルには、もてなしのために用意された料理が用意されている。

 兵士は少し迷ったあと、抱いていた生首をイスにではなくテーブルに丁寧に置く。

 それを見てから少女は自分の椅子にゆっくり座った。

「ここが好きなので、お客様と話すときはいつもここに招待しています」

 少女は年相応にはにかんだ。


「では、自己しょう―」

「あー、悪いが、食べながら聞いていいか。ここ何日も食ってない」

 アレックスは、食べ物に目が釘付けだった。

「我からも頼む。マナー違反ということは承知だが、魔力が枯渇しそうなのだ」

 ヴァ―ルは、少女の方を見て話すが、食べ物をチラチラ見ていた

「はい。構いません。ゆっくり食べてください」

 少女の許可が出ると、二人の生首は目の前の料理を食べ始めた。


「ではそのままお聞きください」

 少女は姿勢を正す。

「改めまして。アレックス様。ヴァ―ル様。私のことはクレアとお呼びください。この街の教会で司祭をしています」

「司祭?それにしては若いな」

「この街の司祭は、代々あるものを管理するがある人間が付きます。歳は関係ないのですよ。

 お二方は、停戦協定が結ばれた当時の勇者アレックスと魔王ヴァ―ルで間違いありませんか?」

「間違いない。信じるのか」

「信じましょう。

 人を見る目には自信があります」

 クレアは大きくうなずいた。

「さて、お願いというものは他でもありません。

 そのあるものを破壊か封印して頂きたいのです」

 クレアが合図すると、兵士が小さなガラス製の箱をテーブルに置く。

 その中は幾重にも結界が張られており、中心には黒い点のようなものがあった



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「これはか!」

 ヴァ―ルが驚嘆の声を出す。

「なんだそれ?」

 アレックスは箱を見ながら、魔王に尋ねる。

「ここに特定の魔力を当てると、黒いモヤのようなものが溢れて来てな。それを吸うと不老不死になれるという言い伝えがある」

「信じられねぇな」

「その通りだアレックス。モヤの正体は純粋な高濃度の魔力でな。一定量取り込むことで、モヤが体内の臓器や筋肉にとって代わる。身体能力や、新陳代謝が上がり、絶対ではないが結果的に不老不死となる」

「すげえ」

「だがそんな都合のいい話があると思うか?これにはがってな。

 が無いと、体内の魔力が暴れて激痛にのたうち回ったり、理性が無くなったりする。簡単に死ねないから地獄だと聞く」

 アレックスはへぇと感心していた。


「いまいち緊張感のない奴だ。しかしなぜこれがここに?」

「押し付けられた、と言うのが正解でしょうね。

 元々これは不老不死に目がくらんだ者たちが使っていたようです。

 当時、私は生まれていないのでよく知らないのですが、の無かった魔族が腹いせに、八つ当たりで攻撃魔法を使ったところ、暴走してモヤが止まらなくなったそうです。

 それで、街一つが消え、どうしようもなくなって、嫌われ者の我々に押し付けたようです」

「嫌われ者?」

「はい。私たちは人間と魔族が仲良くしている頭のおかしい奴らと思われています」

「なるほど。事情は分かった。我々が封印されてから特に変わっていないようだな」

「はい。それで、封印か破壊できそうですか?」


 ヴァ―ルが箱をじっと見る。

「無理だな。見たところ強力な結界が張ってあるが、今の我の魔力ではこれ以上のものは無理だ。急ぐのか?」

「はい、時折活動が活発になることがあって、その時に封印を破り街に被害が出るのです。

 の様子を見ると活発になるのは時間の問題、そうなる前に手を打ちたいのです」

「ふーむ。おいアレックス貴様はどうだ?」

「俺か?まあ、いけると思う」

「そうか、無理―いけるのか」

「本当ですか」

 クレアが体を前に体を乗り出す。

 周囲の兵士たちも動揺している。


「これ、どっかで見たことあると思ったら、王城で見たんだ」

「城で見た、だと?」

「ああ、勇者の選定の時にな。確かを見るだとかなんとか言って、他の勇者候補たちにモヤをかがせてたな」

 アレックスは昔を思い出すように語る。

「でも俺の時はモヤが出なくって、チャンスをくれって懇願こんがんしてさ、まあ候補者の最後の人間だからって、食って異常無ければ特例で勇者に認めるってなって―」

「食べたの?」「食べたんですか?」

「食べた」

「「ああ」」

 クレアとヴァ―ルは呆れた顔をする。

「食った後も腹壊さなかったし、特に調子が悪いとかもなかったから、今回もいけるんじゃね」



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 ということでアレックスは、を食べることになった。

 アレックスは張られている結界ごとを丸飲みする。

 

 アレックスに見た目の変化はなく、クレアが調子を聞くと一言。


「これ、意外と魔力はらの足しにならないな。

 魔力を生み出すだけで、魔力じゃないんだな、これ」

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