第2話 食事

           1


「こんなんじゃ、腹の足しにもならない。腹無いけど」

「文句を言うな。食べられるだけありがたいと思うがいい」


 二つの生首は言い争っていた。

 片方は勇者の生首、もう片方は魔王の生首である。

 二人の生首の前には、小さな木の実が数個ほど置いてあるだけであった。


「だが魔王よ。お前はこれで満足なのか」

「決まっておる。まったく足らぬ」


 勇者がため息をつく。

「この土地が放棄された理由はこれだな。土地が不毛だから食べ物がとれない」

「おそらく、封印から漏れ出た我の呪詛じゅそのせいだろう」

「お前のせいかよ」


 勇者がため息をついている間、魔王は目の前に置かれた木の実をじっと見ていた。

「しかし幸先悪いな。これで世界征服などできるのか」

「大丈夫だろ。俺、冒険の始まりに50Gしか貰えなかったけど、魔王のとこまで行けたし」

「…なぜ貴様はそれで命をかけようと思ったのだ」

「まあ、端的に言えば、勇者に祭り上げられて浮かれていたからかな」

 魔王は何か言いたそうな顔をするが、何も言わなかった


「とりあえず食おうぜ」

 勇者は眼の前の木の実を半分食べる。

「まあ我も、最初はこんなものだったな」

 魔王は木の実を残り半分たべる。

「うむ、食べた木の実は魔力に変換されておる。食べ続ければ力が戻るだろう」


 魔王の言葉を聞いた勇者は、満面の笑みを浮かべた。

「いいこと思いついた。大きい街に出れば食い物があるだろ。街を支配してたらふく飯食おうぜ」

「気楽なことだ。さすがに食べ物の確保が先だろうに」

「不満なのか?」

「いいや、豪勢な食事は権力者のステータスだ。異存はない」

「決まりだな。サクッと支配しよう。食べまくって飽きたら壊す」

「ククク。お前との会話は飽きんな。食事がこんなに楽しいのは初めてだ。食べ物は貧相だがな」

「そりゃどうも」



           2


 勇者が先ほどの笑顔から真面目な顔になる。

「なあ、魔王よ。お前、これからどうするつもりなんだ」

「どうするとは?」

「俺は、世界を見て回って、支配か破壊かを決める。お前は俺についてくると言ったが、どうしたいんだ」

「…そうだな。我も保留といったところか」

「保留?お前も裏切られて、呪詛じゅそ吐くほど憎んでるんだろ」

「裏切られるた理由による。国のためだったら責めることはできん」

「それは魔族の王としての意見だろ。魔王個人としてどうなんだ」

「もちろん呪詛を吐き散らすほど、憎んでおるわ」

 そう言うと、二人の生首は大声で笑い始めた。

「魔王も十分面白いな。俺もこんなに笑うことなんてない」

 勇者は涙を浮かべるほど笑っていた。


「たくさん笑ったし、街に行くとするか―

 待てよ。勇者とか魔王とか言って、街で変なトラブルになるのは避けたいな。

 魔王、お前の名前は何だ。俺はアレックスだ」

「ふむ、それもそうだな。

 我の名はヴァ―ルだ。勇者、いやアレックスよ」

「ヴァ―ルだな。よし覚えた。行くぞ」



           3


 そう言うと、二人の生首はコロコロ転がって行った。

 街を目指してコロコロ転がって行った。

 豪勢な食事を夢見てコロコロ転がっていく。


 自分たちの待ち受ける運命を知らずに転がって行く

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