その小娘が夢を語るのは別にいいのですが、その迷惑を周りが受けるので大人しくしててほしいものです
「んー、今日は良い事をたくさんしました。これでお店仕舞いです」
「したよ! 良い事!」
なんか小娘が腕を振り上げてきゃんきゃん騒ぎ出しました。全く何時まで経っても落ち着きがないですね。
神御祖神は自分のやった『良い事』を指折り数えて高らかに並べていきます。
「ダンジョンを作ったでしょ。そのダンジョンで人が死なないように死に戻り設定したでしょ。カフェにしてみんなが安らげる場所を作ったでしょ。
「それ、ダンジョンを作ったっていう最初のやらかしがなければ全部世は事もなかったんじゃね?」
「はあ!?」
灯理の間を置かずに入れたツッコミに神御祖神が反射で声を跳ね上げさせました。いいですね、そのまま飛んで行って空の星に消えそうな勢いでした。
ところでこの小娘、今日の仕事は終えたとか言っていますけど、奥では嵐と澪穂解冷茶比女が仲良く食器や茶葉なんかを片付けています。仕事は後片付けまできちんと済ませて一流なのですよ。
神御祖神はちらっとカウンターの奥でお喋りしながらカチャカチャと片付けの音を鳴らしている嵐と澪穂解冷茶比女を振り返って、今から合流は無理だと諦めて何も見なかったふりをして海真秀呂支斗和羅神をぎゅっと抱き締めます。
そのあざらしのぬいぐるみは嵐にあげたのですよね。置いてあったからといって勝手に使っていいのですか。
「兎も角、今日の日替わりエントランスは純喫茶『シャワーズランプ』がばっちり最初を飾ってくれたから、明日はみんなはお休みでいいからね」
「……日替わり?」
灯理が呆然と聞き返していますが、わたしも全く同じ気持ちです。日替わりって言いました、この小娘? どうして貴女はそうやってより面倒臭い方に付き抜けたがるのですか。
「心配しないで、だいじょうぶよ。エリアの取り換えは任せて!」
この小娘、エントランスを空間ごと組み換えてしまうつもりなのですか。どうしてそう豪快にしないと気が済まないのですか。
「神霊が増えたらもっと種類は増やしたいよね。取りあえず執事喫茶に灯理と陀輪天は使えるでしょ」
「灯理さんが執事喫茶!」
ガン、と嵐が勢い良く食い付いてきました。この娘、彼氏が好き過ぎでしょう。
嵐の反応に神御祖神も得意げな顔になって見るからに調子に乗っています。
「そして女子は勿論メイド喫茶! どうよ、灯理!」
「答えにくい話題をこっちに振ってくんな」
バッと全身で風を切って神御祖神は灯理に向き直りました。
その勢いに灯理は何とも言えない嫌そうな顔をして後退りしています。しかし何時の間にか嵐がその背後を取って灯理の体を押して逃げ道を塞ぎます。
「あかりさん、あたしのメイド姿見たくない?」
「いや、見たいか見たくないかっていうより他の奴に見せたくないっていうか心配っていうか」
嵐に言い寄られて灯理はたじたじしています。面白いくらいに彼女に弱いですね、彼は。
「はいはい、はーい!」
そこで小娘が元気良く手を上げて、しかもぴょんぴょん跳ねて自分に案があるとアピールしてきます。
貴女の案は大抵碌でもないので聞きたくなのですが。
「そんなに心配なら灯理も一緒にメイドになって店に立てばいいんだよ!」
「あかりさんのメイド姿!?」
「おい、バカ、ふざけんな、女装なんかしねぇぞ!」
神御祖神の投下した爆弾発言は焼夷弾以上の速さで燃え上がって閉店して暗くされているエントランスの中をまた騒がしくしました。
「何言ってるの、女装じゃないよ?」
女装を頑ななに拒否する灯理に神御祖神がきょとんとします。え、まさかの時間差爆撃だとか嘘ですよね。
「そんな半端な事しないで性転換させるから」
「女子なあかりさん!」
嵐の食い付きが本気過ぎて、わたしからしても怖いのですが。
灯理なんて身の危険を感じて言葉も失って全身を強張らせています。
「出来るの!?」
「出来る出来る。灯理も女性として生まれた時あるから。なんなら嵐も男の子にして執事もさせられる」
「お揃い!」
自分が性転換するのをお揃いと嬉しそうに言う嵐の感性が恐ろしく怖いです。なんですか、この娘、恋愛に対して貪欲過ぎませんか。
そして嵐ははっと気付いたように神御祖神を見下ろします。
「それはもしかしてあたしが男であかりさんが女で一日過ごすとかも出来ますか」
「よゆーで出来ますよ」
自分の願いが簡単に叶えて貰えると聞いて、嵐が太陽もかくやと言う程眩しい笑顔を灯理に向けます。
当然ですが、それと全くの真逆で絶望に打ち拉がれた灯理は深い闇を全身に被さっています。
「やだ……やだって、ふつうに、嵐に何されるかこわい」
がたがたと震える灯理はもう既にか弱い女の子みたいです。許してあげたらどうですか。
嵐と違って神霊である灯理はこれまでに輪廻してきた人生の記憶が朧気ながらも持ってしまっているので、どんな目に遭うのか分かってしまう分、恐怖も
「灯理さん、そんなに震えて可哀想に」
背中を丸める灯理を優しく抱き締めて撫でる嵐ですが、彼を恐怖に陥れているのは貴女の本能と欲望ですよ。
「でも執事もメイドももっと欲しいよね。読者諸君、君らのキーワードに期待しているからね!」
小娘がびしりと天井に向けて指を突き付けます。カメラを狙っているのでしょうけど、そこにカメラなんてありません。むしろ何処を向けてもそこを正面としてわたしが拾えます。
「あとは動物系のふれ合い喫茶もしたいしー、コンカフェもいいしー、生演奏の音楽カフェも入れたいしー、天井を星空にしての天文カフェもしたいでしょー、ブックカフェも用意しないとねー。うん、夢が膨らむね!」
この小娘はやりたい事があり過ぎるようで、わくわくと胸を弾ませています。別に好きにしたらいいのですけど、兎に角他人を迷惑に巻き込むのは止めて欲しいのですよね。現在進行形でいうとその被害を被っているのは灯理です。
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