その神殿は自然カフェなのですが、そんなことより小娘の躾をどうにかしたいです
鏡に映る光景に、
その鏡だってわたしでもあるので、わたしの姿が見ていられなくなったと言われているようで傷付きます。その得体の知れない光景を造り出したのは貴方の近くでちょこんと椅子に座ってテーブルに乗せたあざらしのぬいぐるみに顔を埋めてだらけきっている小娘です。
「……なぁ、
灯理はそんな事を訊くのも嫌だという気持ちを隠しもしないで疲れ切った声を苦しそうに漏らします。
「そうだけど、あれよ。掛詞的な」
「掛詞……」
「運んでる姿が完全にスライムの捕食だよね、これ」
「
誰のせいですが、誰の。貴女が変な形で言葉の意味を引っ掻き回して存在を生み出すからわざわざ注釈入れないと行けなくなったのでしょうが。
こら、都合が悪くなったからって
「きゃっ」
「なんかトカラちゃんちょっと楽しそう」
くっ、どうして誰も彼もこの小娘に甘いのですか。みんなして長いものには巻かれると言うのですかっ。
「落ち着け。なんか建物が見えて来たけど、あれが神殿代わりか? コテージみたいだな」
失礼、小娘が余りにもふざけた態度なので取り乱しました。
灯理の言う通り、蜜園は神御祖神が用意した
どちらにせよ、その内装は隠れ家チックなカフェになってまして、自然の中でオーガニックなレシピを提供するというコンセプトで設置されたものであります。
森の中に空いた空間にひっそりと構えたそのロッジは蜜蜂が飛び交い、側には立派な檸檬の御神木が白い花を咲かせて爽やかな薫りを放っています。裏手に回れば蜜蜂の巣箱が幾つも並んでいるのが見付けられるでしょう。
「そう、ここが檸檬と蜂蜜のナチュラルカフェ『レモンダーリン&モンスターハニー』、略してレモハニだよ!」
いきなり立ち上がって声を張らないでください、煩いですよ。あとどや顔もうざいので止めてください。ちょっと凝り過ぎて店舗名が長くなっているところとか、言葉のチョイスとかがギャル感が抜けないままに年を重ねてやっと自分の店を持った主婦みたいになってますよ。
「……なんかお前らの口喧嘩聞いてると頭痛くなってくるわ」
「あかりさん、だいじょうぶ?」
「あの、頭痛にいいらしいんですけど、バナナのお茶を淹れましょうか?」
ほら、灯理が限界に来てテーブルに肘を立てて頭を押さえているではありませんか。
そんな灯理を心配して嵐と
「今のはわたしだけじゃなくて天真璽加賀美もだもーん」
なんですか、貴女と一緒にしないでください。大体、貴女のやる事なす事、言いたい事が一つで収まらないから情報量が多くなるのですよ。むしろ貴女が順序立てて常識的な発想で段階を踏んで行動すればいいものを、ぽんと全部ごちゃ混ぜにして結果だけ出してくるからツッコミが間に合わなくなるのです。
「お前ら、いいからまずは美登の心配をしようぜ、頼むから」
嵐に頭を撫でられるままにさせている灯理が力なく呟きます。
彼の頭痛を酷くするのも申し訳ないので今はこの辺にしておいてあげましょう。
「ふっ、勝った」
灯理済みません、暫く頭痛は堪えてくれませんか。ええ、こんな小娘、一年程で分からせてやりますから安心してください。
「年単位で母娘ゲンカすんな、家でやれ!」
「ここはわたしが造ったダンジョンなので実質家ですー」
わたしの神体もこのダンジョンに納めされていますので、住処という意味なら家で間違いありません。
「……おれ、もうやだ」
「うそ、灯理さんがたった数時間で投げ出す相手なんて初めて見た……あたしがどんなに駄々こねても決して諦めずに叱り続けてきた灯理さんが……」
む。嵐と比べて聞き分けがない奴扱いされるのは受け入れ難いですね。
そこの小娘に対しては妥当な意見ですが、それと同じ評価を受けるのは避けたいです。
「つまりわたしの勝ちを認めるのね」
良いでしょう、その態度が貴女の残念さを積み重ねていくのです。軌道修正しなかった自分をいつか後悔するがいいです。
それと灯理は神霊だった性根が人間に生まれ変わっても残っていたせいで、他人に対して寛容な性格な訳ですが、神霊については対等な為に面倒見る気持ちが人間に対してと比べて低いという注釈はきちんと嵐に伝えて頂きたいです。
「何が悲しくて自分の性格診断を彼女に言わされなきゃならないんだよ、勘弁してくれよ」
「め……気になるけど、聞くと灯理さんが泣いちゃいそうだから聞かないであげるね」
嵐、貴女は良い子ですね。うちの小娘に爪の垢を煎じて飲ませたいです。分けて貰えませんか。
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