フレッシュ(没)

石鬼輪たつ

第1話 fresh "mate-rial flow" ①

 ここはりし未来。

 朝10時の小さな公園を、一人の待ち合わせをする子どもの姿ばかりが占めている。


「しずりん! お待たせ」


「おっ。じゃあ行こっか」


 そこへやって来た待ち人。一人と一人は合流し、公園から去る。

 コンクリートの通学路。へい意匠いしょうのすき間から、じっとりと人の目がのぞいていた。

 小路こーじほの暗さにともる、二人のきめの細かい肌のクオリティが気になってのことだろう。


 透見川うおせ水鈴みすずはかくも味気のない小路を、優雅らしいタップと足取りで歩んでいた。


「なんか良いことでもあったん?」


 水鈴みすずの友人が後ろをついてたずねる。


「えへへ、今日のお弁当にお母さんがミートボール入れてくれたんだ!」


「へえ、よかったじゃん」


「あー、興味きょうみないんだ!」水鈴みすずが決めつけるみたいに言う。「今日のは中にチーズが入ってるんだよ。チーズ!」


 それを聞いて、友人の日月しずみしずりがまゆをひそめていることを水鈴みすずは知らない。


 小路の先は大路おーじ、それも交通量の多いストリートに接続している。

 ここを右にまっすぐ行って、いくつかの交差点を曲がれば学園がくえんに着く。

 二人にとっては馴染なじみの道。足もとなど見ずに進んでいく。


 あるところでぱっと目の前が開ける。

 南中しようとする太陽の光が一面に飛び散って逃げ場がない。

 二人は目を細めながら右折うせつする。

 そうしてしばらく道なりに進む。

 ストリートは背の低い植栽しょくさいが少しあるばかりで、日傘ひがさになるのは昼間の電光看板くらいのものだ。


「へえ、あそこ、カラオケできたんだ」


 しずりが言うと、水鈴みすずが賛成して笑う。

 二人は新しくできたというカラオケボックスの下のコンビニで鮮やかな清涼飲料水を買い、次の交差点に向かう。

 学園へ行くためには、その交差点を西へ曲がることになる。


 二人が大辻おーつじの入口へ差しかかったとき、二人の進行方向から見て、正面の信号が黄色に変わる。裏側もそうだろう。

 すると真っ赤な普通自動車が、向こうからもうスピードで突っ込んでくる(自分の番だと思ったにちがいない)。

 しかしながら交通ルールははばからない。

 信号によって、ストリートに交差した道の青い車両は先に行きなさいとつき動かされ、交差点へと飛び出す。

 二者は見解の相違により、瞬間、衝突しょうとつ! 

 赤い普通車は回転とともにクラッシュし、青い車両は歩道を歩く水鈴みすずとしずり目がけて飛んでくる。

 それから間もなくして、ショート動画としてネットに上げれば一日くらいは話題になりそうなシーンとともに、水鈴みすずの友人はくしゃくしゃの肉塊にくかいとなり、破壊されたコンクリートとともに瓦礫がれきとなり果てた。


「……ぃったあ。何?」


 衝撃でその場に尻もちをついた水鈴みすずは気がつくなり、壊れたビルの中へようすを見に行く。

 じゃまな瓦礫がれきを手ではらいのけ、少し進んだその先で、水鈴みすずはしずりの頭部を見つけた。

 そのときはカツラがどこにいったかわからなかった。

 ただし、神の悪戯いたずらかしずりのつらの皮だけはしっかりと表情筋ひょうじょうきんりついており、水鈴みすずへ断末魔のかけらもない無表情を見せつける。

 水鈴みすずはそこでちくしょうという気持ちになったという。


「あちゃー……せっかく、しずりんにミートボール分けてあげようかと思ったのに」


 水鈴みすずはぽつりとぼやき、冷静おもむろにスマートフォンを取り出す。

 じっくりとみる。

 スマフォの本体は角がヘコみ、画面液晶が割れているのをみると、水鈴みすずはがっかりしながらも淡々とFHOスキン衛生機関につながる電話番号をネットで調べ、これをもって緊急の連絡とするのだった。


「すみません、あの、友だちが車に轢かれて……はい、あ、『スキン』はもうだめです。あ、えっと場所は――」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

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