最終話 使命とかないので個人的な幸福に浸って良いと思う

 王城警備府の魔窟討伐の参加者が決定したら、個人所有になる分の霊核と銀を持って来てもらって、先に銃とガンベルトを作った。

 翁児狩りの希望者が多くなって、戦力的には士官学校組だけで魔窟までの往来が出来る。

 有志として、佐官が数人休みを取って付いて来る。

 戦力が十二分なので、栗丸も連れて行く。


 二日でノルマの五級を集め終わり、翁児狩りが終わるまでに取れた霊核で銃を量産させられた。

 富加姐さんの所為で、銀は呆れるほど出る。夕香は金も取れた。

 有志の一人が持っていた金の強撃の指輪を、複写させてもらう。


「いざ、空走鳥の棲み処へ」


 武人達の意気込みが怖い。

 一番銃が育っている俺が十二発撃ち込んで、駄目そうだったら全員で撃ってしまえばいいと言う、杜撰な計画。

 途中不運な狼の群れに遭遇して殲滅、俺が索敵を取れた。

 技能玉は出ないが足の爪に伸斬が入る五位鷲が三羽、ヘラジカより大きな鹿が一頭、文字通りの行き掛けの駄賃になった。


 空走鳥も擬態と隠密力で上手く隠れているのだけど、なんだてめえらは! みたいな気配に向かって十二連射、作ったばかりの五位爪刀で斬殺してしまった。


「思った以上に弱いのですが」

「恫喝の絶叫の前に息を吐く暇のない十二連射では、たまったものではない」


 大佐の討伐隊長殿からお言葉を賜った。

 出現率は四分の一だったが、富加姐さんのお陰か、二匹目で出た。

 栗丸にいそうな場所を聞いて、俺が見つけて、誰かが獲る。

 平均二匹目、三匹目では運が悪い感じ。

 五人空跳持ちになって帰る。


「このまま、居続けには出来まいか」

【我はいやだよ】


 富加姐さんの速攻で、大佐殿の居続け案は潰された。

 俺、富加姐さん、栗丸が揃っていないと、こうは上手くはいかない。

 佐官が全員取れてから、大尉殿の順番になった。平均的な二匹目で取れる。

 見つけ難い、倒し難いのでドロップ率が高く設定されていたと思われるが、通常なら手に入りにくい物が、裏技でいくらでも取れてしまう感じ。

 夕香も取れたが、作ったばかりの銃では威力が足りずに逃げられる。 

 自分の銃を育てた者だけが参加出来るイベントになった。

 思ったよりずっと早く取れてしまったので、時間が余った。


「今から緊急連絡をすれば、二日後には自身の拳銃持ちが来れると思う」

【我は帰るから、入れ違いになるよ】


 国家権力に屈しない富加姐さん、偉大です。

 授かりの技能を無理に使わせようとするのは、創造神に対する反逆になるので、国王でも出来ない。

 余った一日は、魔窟の五級層に入れてもらった。


 間引かれているので囲まれるようなことにはならず、一対一で確実に倒せる。

 栗丸に任せて歩くと、金がごろごろ取れる。


【こっちー】


 言われた方に行くと、半腕くらいの高さの土饅頭がある。

 少ない刺激で上手く崩すと良い物が出る。通称宝の山。

 未だに採集が生えない俺だが、ちょんと突っつくのは上手い。

 突っついたらサーと崩れて、ピンポン玉くらいのオレンジ色の球が出た。


「技能玉?」


 手に取ってみたが判らないので、収納した。


「じゃない、これ従魔玉だ!」

「ひどい」

「なんでだよ」


 従魔玉は最初に触った者の霊気が入り、他の者は使えない。

 従魔玉の製作は、自分に従魔がいないと出来ない。

 残りの宝の山は夕香が崩したが、金しか出て来なかった。


「富加姐さん、延長して」

【やだよ】


 富加姐さんには、小娘の泣き落としも効かない。

 無事に期日通りに帰って来たのだが、翌日、内大臣祐筆頭なんて、とんでもない身分の人が来た。

普通なら俺を呼び出して、それなりの官僚辺りが相手をするのだが。


「国王陛下におかれましては、其方を上士格大夫としたいとのお気持ちをお持ちです」


 下士官が下士、尉官が中士、佐官が上士。職務はないが、同等の身分と言う事。


「謹んで、お受け致します」

「大変に、宜しい」


 断ったら国を出るしかないが、どこに行っても扱いは一緒になるはず。

 軍の依頼を断り辛くなる以外に有難味のない身分を授かってしまったが、日常に影響はない。

 落ち着いたら、まずやらなければいけないのは、従魔選びである。

 専門家の夕香と検討した。


「従魔は主人の一部と見なされるから、一緒に戦闘しても玉が出るんだよな」


 魔女の使い魔的な小動物ではなく、戦闘補助の相棒を期待する。

 取れるのは六級までで、戦闘力のある蹴殺鳥か、大き目の猫か。鷲鷹の類もあり。山羊や羚羊なら乗れる。


「六級は断られるかもしれないよ。後から従魔に技能取らせられるから、七級でもいいんじゃない」

「狂蹴鳥の方が一緒にいやすいか。空跳取らせられるから、イタチもありかな」

「一緒に暮らすなら、イタチか猫が可愛い」

「確かに、可愛いは大事」


 冷静になれば、大きさ的に蹴殺鳥はない。六級は森狼が限界か。


「枝跳び山羊もありだな。取り敢えず、森に行ってみるか」


 増えた拳銃を宝飾科の教官にも渡し、生徒に付き合う必要が無くなったので、魔窟に行かないとほぼ自由時間になってしまった。

 浅層なら二人だけで行ける。

 毛長鼬か猫の色合いの気に入ったのがいないか見に行ったのだが、猫がリスを追い掛けていた。


 出会いかもしれないと思い、致命傷にならないように足を撃つ。

 従魔玉を吸収させれば、死ななければ部位欠損も治る。

 右手に拳銃左手に従魔玉を持って近づくと、覚悟したのか動かない。

 差し出したら左手が重くなった。リスが縋り付いている。


「おい、よせ!」


 慌てて手を閉じたが、従魔玉がゆで卵みたいに手から逃げて、リスの胸に吸い込まれた。


 地面に落ちたリスが鈍く光って、赤茶色の毛が栗丸に似た明るい茶色に変わった。

 座って俺を見上げる。


「ちゅう」


 可愛い。自分の気を入れた従魔玉を吸収されると、主人は従魔に愛情が湧く。


 「があ」


 撃たれ損の猫が鳴いた。

 どうしようかと思ったら、夕香が撃った。魔物だものね。

 でかいリスを拾って抱く。


「ダメだ、こいつ可愛い」

「もう、しょうがないね。色々玉を取らせたら、斥候は出来るかな」

「その線で育てるしかないか」


 しがみ付いて頬刷りをして来る。


「その子、女?」

「かもね」

「降ろして」


 取り敢えず降ろす。


「ちゅう?」


 逆らっちゃダメ。


 帰って、まず師匠に見せた。


「なんでリスだよ」

「いや、無理に従魔にされた? じゃないくて、どう言えばいいのか」

 

 されたでもさせられたでも、俺が従魔になっちゃったみたいだもんね。


「何言ってやがんでえ。名前はどうした」

「コムギ」

「なんだそりゃ」

「なんとなく」


 白黍が主食の所為で品種改良されなかったのか、この世界には麦系統の食用穀物がない。

 でも、見たらコムギ以外の名前が思い付かない。


「コムギ、揚げ豆やるよ」

「ちゅっちゅう!」


 こんなもんで喜んでる。安上がりの女で助かる。


 コムギを育てる。農業ではない。

 狂蹴鳥の小刀の柄を細長くしたら両手でなら持てるので、リスを狩らせた。

 俺が撃ってコムギが仕留めても、出た玉をコムギが吸収出来る。

 抵抗はない。もう魔物ではないのだから。

 ツタヘビは落として斬首。

 野干は、足元を駆け抜けて刃物を振り回すリスに斬殺された。 

 ウサギもリスが襲ってくるとは思わないよね。


 跳躍が取れたところで、モデル2を作って持たせたら持てた。

 リスがイノシシを射殺。ファンタジーでもあまり聞かない話である。

 残酷童話系か。

 次の魔窟討伐までに空跳も取れた。影猫と平角ウサギは出が悪すぎる。

 お腹に拳銃の付いたコムギを見て、王城警備勢が苦笑いする。

 リスに先を越されたら、笑うしかないね。


 女性の将校が、自分にもモデル2を作って欲しいと言ってきた。

 夕香が従魔玉を作れるようになったら、リスの従魔に持たせたい。

 魔窟に着くと、俺と夕香は別行動になった。

 俺は森に翁児狩りに、夕香は五級層に宝の山崩しに。

 何が何でも夕香に従魔を持たせたい。

 一人で四級を獲れそうな宝飾師は、夕香しかいない。


 翁児狩りの間は富加姐さんが俺の側にいるので空振りだったが、加わった翌日昼前に従魔玉が出た。

 帰りにリスに見せると、自分から寄ってきて取り込んだ。

 森にいても喰われて死ぬまでの一生なので、従魔になった方がいいのかもしれない。


「ねえ、この子の名前考えて」

「うん、チャチャ」

「どういう意味」

「ま、なんとなく」

「そんなのばっかだね」

「二件目だけど」


 茶に相当するものがないので、翻訳されない。

 茶色に相当する言葉は栗色。

 文句は言ったが、チャチャは採用された。

 国を挙げて空前のリスブームが起きるが、夕香が四級を倒せないと従魔玉は作れない。

防御力はあっても敏捷性が低い方が安全ではないかと、陸生のモササウルスみたいなオオトカゲ、太鰐が候補に選ばれた。


 気が早すぎ。まず、コムギとチャチャが瞬歩を取れないと危険。

 俺が四級獲ってピースメーカーかm1875を作って、使い込んでから夕香にやらせる。

 モデル2は使い込んでも五級の渾身の一撃までなのだから。


 コムギとチャチャが瞬歩を取ったら、国から支給された能力強化の装身具をじゃらじゃら付けて、五級の魔物を獲りまくる。

 レッグホルスターとショルダーホルスターにも二丁いれ、六丁が熟してから、単独で四級を狩れる将官に守られて太鰐に挑んだ。


 格下のものとは言え、渾身の一撃を四十二発受けて、半分怪獣な鰐は倒れた。

 一匹獲れたら後は作業である。

 六個の霊核を取り終え、最初にm1875を作った。

 更にSAAを作ると銃製作が生えた。

 製作用に用意された霊核でSAAを量産し、夕香に使わせる。

 俺の使い込んだ二丁と合わせて、二十四発で太鰐に勝てた。


 従魔玉が量産され、深層に挑む武人の安全が強化された。

 空跳で空中を駆け回り、五級の渾身の一撃を六連射するリスは、四級の魔獣にも脅威だった。

 授かりの技能に識別を希望する職人も増え、銃職人になる者が現れた。

 四級を獲るのには、他人が使い込んだ銃を使える。

 創造神は満足してくれただろうか。

 俺は夕香との間の子だけでなく、妹や叔父や、叔母ちゃんの子や、橡丸と栗丸の子に懐かれて、幸せに暮らしている。




 お読みいただき有難う御座いました。

 もっと長いものを書きたかったのですが、主人公が負けなしに強くなると、話が止まってしまうのです。

 

 




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平民転生 袴垂猫千代 @necochiyo

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