第22話 芋焼酎・お湯割り

 暖簾をくぐってきたのは、アンデッドだった。


「よォ大将、やってるかい?」

「へい」


 血まみれの武者具足を着た骸骨。

 眼があるべき所に青白い炎を浮かべて、その骨の手で……紙袋をくれた。


「こいつ、天空都市みやげの雷おこしな。“腐敗”とでも食ッてくれや」

「ありゃ、ありがとうございます。名物ですな」

「代わりと言っちゃァなんだが、今夜は一杯やったら帰らせてもらうよ」

「へい」


 見た目の割りに気さくな、武者具足のスケルトン……武者髑髏である。

 良いおっさんだ。


「むしゃどくろー! かえってきたかぁ!」


 おっさんを呼ぶ声。

 奥の座敷で新人闇落ち女騎士と飲んでいた、幼女魔王である。


「おう、帰ったぞォ幼女」

「ようじょいうなクソじじい」


 憎まれ口をたたきつつ、座敷に合流する、武者髑髏。

 闇落ち女騎士がちょっとビクっとした。怖い顔なので仕方がない。


「このこは しんじんさんねー」

「ほーほー、立派な面だ。女騎士が闇落ちする季節だねェ」

「ど、どうも……よく聞きますけど、そんな季節あるんですか? 本当に?」

「ある」

「やっぱり冬が多いな」


 腹を空かせたゴブリンが村を襲う時期である。

 ゴブリン相手に実戦経験を積もうという女騎士は、やはり絶えない。


「へい、おまち」

「うわくさ」

「待ってましたってなもんでねェ」


 ということで、武者髑髏のいつもの品……芋焼酎・お湯割りである。

 芋と酒の香りが、湯気でふわっと漂っていた。


「お湯……ですか? それ」

「れっきとした酒さァ」

「私のはサイダーで割る感じですけれど、お湯もあるんですねぇ」

「ふわッ……と広がるのが良い所でな、嬢ちゃんもその内試してみな」

「くっっちゃいから、まねしちゃだめだよ」


 焼酎の臭いが苦手な人には無理な飲み方だろうなぁ、とは思っている。

 幼女魔王は苦手らしい。


「……強そうなお酒ですねぇ」

「じっさいつよいよ」

「レモンサワーほど酷くはねぇよ」


 飲みやすい酒はすぐ酔うから注意な、と武者髑髏。

 飲みにくい酒なら、たしかに多少は飲むペースが落ちるから、マシかもしれない。


「ほい、んじゃァいただき」


 その飲みにくい芋焼酎をカッと一飲みにする、武者髑髏。

 骨だが中身が零れたりはしない。壊れる肝臓がありそうで心配である。

 お代を置いて、がしゃりと席を立った。


「じゃァな、家族サービスが待ってんだ……また魔王城で」

「へい。またどうぞ」


 それだけ言って立ち去る、武者髑髏。

 所帯持ちの背中は、独り身の身からすると妙に強そうである。


「……あの人、誰なんですか? 魔王様たちと仲良いみたいですけど……」


 見送った新人闇落ち女騎士が、ぽつりと漏らす。

 そういえば、新人闇落ち女騎士が入った時期には、彼は出張していた。


「んっとねー……」


 言い方を考えている、幼女魔王。

 やがて、ピンと来たらしく指を一本立てた。


「たいしょーの次に、つよいひと!」

「微妙じゃないですか?」

「わはぁ」


 まぁ、若い子にとってはそんなものである。

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