第14話 お茶漬け

 カウンター席の、幼女魔王。


「たいしょー、おちゃづけ」

「へい」


 座敷には泥酔して眠っている2人……触手が綺麗なピンク色になったクラーケン賢者と、新人闇落ち女騎士。

 宴は終わったが、手配したタクシードラゴンが来るにはまだ時間があった。


「はー……のんだ、たべた」


 という事で、幼女魔王はシメの時間である。


「何、のせます」

「しおこぶ。うめぼし、あとー……いいや、そんなかんじでー」

「へい」


 飲んだ食べた、とぽっこりしたお腹を撫でる、幼女魔王。

 お腹いっぱいで幸せそうな割には、お茶漬けのリクエストに淀みがない。


「ぽー……」


 ただお酒は回っているので、真赤な顔はぽーっとして、綺麗なルビーの瞳はうるうるとしていた。


「……ふふ」


 何は言わずとも微笑む、幼女魔王。

 空のジョッキの代わりにお冷を片手に、慈愛の瞳で見つめるのは、座敷で寝ている彼女の部下2人。


「へい、おまち」

「あんがと」


 スッと置いたお茶漬けに、静かに息を吐くようにお礼を言う、幼女魔王。

 箸を握りはするが、食べ始めるまではいかない。


「ね、たいしょー」

「へい」

「わたしね、わたしさ」

「へい」

「……まおーさま、できてるかなぁ」


 魔王、経営者ができているか、否か。

 中々難しい質問だった。できているとは何か、なんて、ただ居酒屋でツマミとビールを出しているだけの俺には、分からない。

 だけれど。


「へい、少なくとも……」

「すくなくとも?」

「お二人は、魔王様を信頼なさっているようですが」


 座敷で寝息を立てる、新人女騎士。

 クラーケン賢者はそこまでだらけ切ってはいないが、すぅすぅと眠る様は、酔っ払いとは思えないほど、少女らしい。


 嫌いな上司の前でこんなに眠れる奴は、そうそういない。

 ……と、思う。


「そっかぁ」


 幼女魔王への返答は、これでよかったらしい。

 慈愛の目をいっそう細め、お茶漬けに向き直る、幼女魔王。


「いただきます」

「へい」


 さらさら……っと、お茶碗の中をたべていく、幼女魔王。

 いつものような元気なぱくつきとは違うが。


「んふふ……しょっぱすっぱ、すっきりぃ……」


 綻ぶ表情は、いつも通りである。


「たいしょー」

「へい」

「おかんじょ!」

「へい」


 幼女魔王は、酔っぱらった部下2人を、しっかり家へと送ったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る