第13話 マルゲリータ

 座敷の賑わいを後ろに、厨房に戻る。

 すると、背後からちらっと覗き見てくる気配に気付いた。


「みんなぁ、こっちゃこっちゃ」

「へ?」


 幼女魔王と闇落ち女騎士、そしてクラーケン賢者である。


「あれ……新型の魔法ですか? 賢者様」


 闇落ち女騎士があげた声からするに、今はじめた俺の作業を見ているのだろう。

 たしかに、自分も子供の頃は不思議だったものだ。


「いや、小麦の塊を投げているだけのようだ……発酵した生地だね、あれは」


 賢者の予測通り、俺が空中に投げた生地は発酵させたものだ。


「むふふふ……」


 怪しい、しかし嬉しそうな笑いの、幼女魔王。

 ちらと振り向けば、俺の手で回り、広がっていく生地に目を輝かせている。


「魔王様、何か知っているんですか?」

「むふふ……みてのおたのしみ」

「ほう……」


 という事で、美味い具合に広がった生地に、また色々と乗せていく。

 トマトソースをぬり広げ、切った柔らかいチーズをがんがん乗せていき、ブラックペッパーとオリーブオイル。彩にバジルも少し。


「がまんしたかいが、あったねぇ……」


 そして、幼女魔王が我慢した加工食品、サラミの類もトッピング。

 ……少し具沢山になったが、ここはイタリアではないので怒られない。


「えっ 大将さんがゴーレムを窯に……!?」


 ということで。


「へい、おまち」


 マルゲリータである。

 マルゲリータなのだろうか。俺は洋食はちゃんと勉強していないのでハッキリしないが、とにかくピザにトマトソースとチーズとサラミを乗せた、ピザだ。


「まぁーってました!」


 座敷に出せば、幼女魔王がピザカッターで切り分ける。

 ザクザクという音と、オイルやソースがじゅわりとする音、そして切られたチーズの塊がでろりとした。


「わひゃ……!?」

「具を乗せて焼いたパンか。ずいぶん大きいが……酒には合うのかな?」

「わかんないけどおいしいよぉ」

「た、食べきれますかね?」


 反応を見たいのはやまやまだったが、ピザ1枚では流石に足りないと思うので、厨房に戻る。

 聞こえるのは、楽しそうな声だけだ。


「……不味いのでは? 私は捕まるのでは?」

「ざく とろ ぱぁ!!!!」

「これ主食で良いね」

「のび……え、なんでチーズが伸びてるんですか? 不味いですよ、不味いんです」

「ぱぁ……」

「もぐり……む、 ……あー……」

「無くなっちゃいますよ魔王様!?」


 魔王城の炎は魂を焼き尽くすので、窯さえ準備できれば、ピザが早く焼ける。

 という事で、2枚目も焼いて出した。


「たいしょー だいすきぃ!!!!」


 さっき出したマルゲリータは、もう無くなっちゃっていた。


「大将さん、不味い事態なのでもういっぱい」

「大将、ボクのも頼む。空だ」

「たいしょー! ねーえ、がんばったからぁ、もういっぱぁあい……」


 大丈夫かな、と思ったが。


「へい」


 楽しそうだから良いか、となった。

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