第5話 モツ煮

 レモンサワーの透明としゅわしゅわ、突っ込んだレモンと氷。

 それを眺めて、幼女魔王に抱き着かれた闇落ち女騎士は、ほぅっと息を吐いた。


「綺麗な……お酒ですね?」


 透明なグラスに、きらきらした金色の瞳を注ぐ、闇落ち女騎士。


「びーるのほうがきれい!」

「葡萄酒や麦酒とは違って、本当に透明で……はわぁ……」


 幼女魔王の言葉も届いていないらしい。

 忘れがちではあるが、うちで取り扱っている酒の大半は自家製である。他所にはあんまりない。たまに俺と同じ異世界人がやっている程度だ。


「たいしょー、ツマミもはーやーくー!」

「へい」


 普段は中々見られない、初見のお客さんが喜ぶ顔に見入ってしまっていた。

 ツマミの注文もあったので、そちらも作り始める。

 あったかいやつだ。


「あれ、なんか良い匂いが……」

「しんじんもー、きにいる。ぜったいに!」

「スゴイ自信ですね魔王様……」


 作り置きをあっためる。

 どちゃっと掬って、お椀に入れる。


「へい、おまち」

「こっちはあんまり綺麗じゃない……けど、へぇ……」


 湯気の立つ、モツ煮である。

 茶色い。こんにゃく、大根、にんじん、モツ、味噌。そりゃ茶色い。

 刻んだ葱を乗っけたがそれでもいい茶色さだ。


「臓物……? なのに、あんまり臭くない……はむ」


 ぱくつく、女騎士。


「……」


 無言でレモンサワーを傾け、ぱくつく。


「……」


 再び無言でレモンサワーを傾け、ぱくつく。


「不味いです。大将さん、これは不味いです。不味いんです」


 美味しくないという意味での不味いではなさそうだった。

 段々顔が赤くなって、ぱくつく速度があがり、グラスが空になり、無言で俺を見てくる。


 ……レモンサワーを濃く作りすぎたかもしれない。

 が、まぁ、良いか。

 いっぱい食べるお客さんは好きである。


「…………たいしょー」

「へい」

「ねぇねぇ」

「へい、なんでございましょう」


 闇落ち女騎士に2杯目のレモンサワー(ちょっと薄め)を注いでいると。


「わたしにも……ちょうらい?」


 上目遣いの、幼女魔王。


「あったかいねぇ……」

「不味い。あー、これはまずい。よろしくないです。ご理解ください」

「くにっ、くにっ、もぬゅ……ごくん。ぱはぁ…………」

「まずいんですよ、ねぇ大将さん? お分かりいただけるでしょう? 外回りで極寒の地獄を練り歩き勇者を三人斬り飛ばした後にこれは……」

「しゃーわせぇー……」


 冬だなぁ、と思った。

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