第4話 レモンサワー・濃い目

「うっわ、ホントに魔王城の中に酒場がある……」


 暖簾をくぐってきたのは、初見の客。

 トゲトゲ禍々しい暗黒ボディライン出る系甲冑を来た金髪女騎士だった。


「らっしゃい」

「あっ、どうも……店主も人間だ……都市伝説じゃなかったんだ……」


 この世界、というか魔王城では、禍々しいデザインの鎧はリクルートスーツみたいなものなので、俺はもう気にしない。

 察するに、この子は今年入った新しい闇落ち女騎士だろう。


「お好きな席へどうぞ」

「あっはい……」


 

 肩アーマーのトゲトゲに積もった雪を入口でぱっぱっと払う、闇落ち女騎士。

 慣れない居酒屋だから警戒してるのか、一番入り口に近いカウンター席に座った。

 それが、座ってから急にビクっとする。


「わぁっ! 魔王様!?」

「んぇ……」


 隣の席でべちゃっと寝ていた、幼女魔王に気付いたのである。

 空のジョッキ4個に囲まれ、安らかな寝起き顔の、幼女魔王。

 威厳もなにもあったものではない。


「……たいしょー、わたしどれだけねてたー?」

「1時間程度ですね」

「終電どらごん……はまだよゆーかぁ、よかったぁ……って」

「あわわわ」


 席に座ってすぐなのに、もう立ち去りたそうな、闇落ち女騎士。

 仕方ないだろう。

 残業明けの居酒屋で、急に上司……社長クラス……と相席したのだから。


「か、私帰りまっ」

「しんじーん!!」

「わひゃっ!?」


 幼女魔王に抱き着かれる、闇落ち女騎士。

 鎧のトゲトゲは幼女魔王のタックルによって砕けた。痛くないのだろうか、闇落ち女騎士。


「ってうっわ酒臭い!? かわいい魔王様が酒臭い!?」

「そとまわりおつー! さむかったろー、おごるー うぇっへっへ……」

「ぎにゃー!?」


 闇落ち女騎士が撫でまわされている。

 外見年齢12歳が大人美女を撫でている絵面だが、中身は1万5千歳が20代女性を撫でている事になるため、出るところを出れば犯罪だった。


「魔王様。そのくらいにしてあげてください」

「うぇー? いいじゃんべっつにー……たいしょー! 若い子がすきな、あの、あれ。なんかおさけとあったかいやつー!」

「…………へい」

「あわわわ…………」


 こうなってしまってはしょうがない。

 魔王様と喧嘩したら魔王城が崩壊するので、大人しく従う。


「た、大将さん……ですか? 私どうなっちゃ」

「諦めて奢られてあげてください」

「わひゃぁ……」

「うぇっへっへ」


 とりあえず、新人の闇落ち女騎士さんが良く頼むやつを注ぐ。

 度数が高い酒をベースに、炭酸水と、果汁たっぷり。


「へい、おまち」

「……!?」


 魔王城の客は酒飲みばかりなので、少し濃い目の……。

 レモンサワーである。

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