第15話 夜のマチにご用心
殺人現場帰りにサツキはディスカウントストアでいくつか買い物をして店を出る。
スタジャンのポケットに手を突っ込み、どこだったけかとキョロキョロと方向を確かめると家へ帰るため歩き始めた。
サツキが夜の繁華街を歩くのは久しぶりである。
ここに来る前も一応パトロールの仕事で彷徨いていたが、まあ大体察しはつくだろうがいい思い出などない。
特バツは裏社会の住人からはとても嫌われているので仕方がないが、街を歩いていればゴミは投げられるわ罵倒はされるわで散々な目に遭うからだ。
こういう時にすることは二つ。
一つはその場で黙らせる。手段は特に決められていない。殴るとかでも良い。ツツジのようにナイフで刺し殺したりするのもよし、ショットガンで顔を誰だかわから無くさせるのもよし。
もう一つはどっちかというと平和的な方法、警告をすることだ。
「おい!こっちは札なしで逮捕できるんだぞ!」とか言えば大抵は黙らせることができ、そして過剰ならば逮捕をすることができる。
これだけで犯人を捕まえることは可能なのだが、サツキはあることでずーっと悩んでいた。
それは例の殺人鬼に関して警察に言われたことだ。
「この事件、もし勝手に犯人捕まえたりしたらよ、、、。マジ殺すから」という警察の言葉。
とても人々の治安を守るものたちのセリフとは思えないが割と本気で殺されそうなので困る。
事件に関わると警察に殺される。でも、調べなきゃ沢城は怒る。サツキはまたしてもどうすれば良いのか途方に暮れていた。
だが大丈夫だ。サツキはいわゆる巻き込まれ体質、何もしなくても事件は向こうからやってくるのだ。
「誰か助けて!!」
さっそく助けを呼ぶ声が暗い道、左折する路地裏から聞こえた。
「じ、事件!?大変だ!」
サツキは慌てて路地裏の暗闇に突っ込んだ。
走って行くとそこには女性を2人の男で襲おうとしている最中だった。
女性の上着が脱げていた時点で何をしようとしていたのかすぐにわかる。これは完全に逮捕して良いやつだ。
「このクソ女!ぶっ殺してやる!」
男は暴れる女性を2人がかりで押さえつけている。これ以上押さえつけていると女性は死んでしまうだろう。
サツキはさっき店で買ったホイッスルを鳴らした。
「あ!?」
男2人がこちらを振り向いた。
「コラー!やめなさい!」
「誰だよ」
そう言われサツキは特バツの証明のために手帳を出すべくジーンズのポケットを漁った。
「えっと、あのちょっと待って確かここに、、、」
慌てているせいで中々見つからなかったがズボンの後ろのポケットから見つけると急いで手帳を見せつけた。
「俺は特バツだ!」
何とか間に合った。
「クソッ!特バツかよ!!」
「そうだぞ!よし、逮捕してやる!そのままでいろよ!」
サツキは今日は久しぶりに付けていた革製の手錠ケースを開けた。
「ちょっと待っててね。今手錠出すから」
「、、、ねえ、あのさ。ちょっと質問なんだけど、銃とかナイフとか武器持ってんの?」
彼らのイメージだと特バツは捕まえるなら手段を選ばない、警察よりも厄介な存在だというものだ。
武器だってきっと持っているだろう。
だが、サツキは違う。
「いや持ってないけど。武器はなるべく持ち歩かない主義なんだ」
それを聞いて突如男2人の態度が変わった。
「何だよじゃあ全然やばくねーじゃん」
二人は挙げていた手を下ろした。
「お前バカなの?」
「武器ないんだったら怖くねえよ」
男は床に置いていた金属バットを引きずりながらこちらに向かってくる。
「待てって!なんでそうなんの!?」
せっかく平和的に逮捕できるかと思ったのにサツキは予測していなかった状況変化にビビり始めた。
「特バツなら殺しても大丈夫そうだ」
「殺していい人とかいないから!あ、やっぱりいるかも。いやでもそうしたら俺が殺されるかもしんないし、、、。あーもう知らん!とにかく俺を殺すなって!」
「ペラペラとよく喋るヤツだな」
男はそう言うとサツキに向かってバットを振り下ろした。
「フンヌッ!!」
本気で勢いを込めてサツキを殺す気だった。
しかし予想外なことに金属バットはサツキを殴る前で止められた。
「はあ!?」
男が自ら止めたのではなく、サツキが金属バットを軽々と受け止めているのだ。
「あれ?君って結構力弱いんだね」
サツキはそう言った直後に素早く男の喉をついて顔面に回し蹴りをした。
「グホッ、、、!?」
男はバットを床に落として気絶した。
その様子に圧倒され立ち尽くしていた仲間はハッとするとスタンガンを持ってサツキに向かって走り出す。
「うおおおおお!!」
バチバチと音を立てながらサツキを後ろから狙う。
しかしそれは簡単に避けられた。
「何がうおーだよ」
サツキが男の背中を蹴り飛ばすと、男は路地裏の壁に叩きつけられた。
「いってぇ、、、!!」
男はぶつけた頭をさする。痛みが和らいだのでやり返すべく顔を上げた。
だがそこには金属バットを片手に持ったサツキがこちらを見下ろしていた。
これはまずい。
そう思った直後には男は顔面に経験したことのない衝撃を受けて意識を失った。
「あー、怖かった」
何とか片付けたことでサツキは一安心した。
「あ、あの。助けてくれてありがとうございます、、、」
「いえ!仕事ですんで!」
助けた女性に目立った怪我はない様子だ。
「特バツの方でしたっけ?丸腰だったのに武器を持ってた二人を相手にするなんて凄い、、、。もしかして特バツのお偉いさんですか?」
「お偉いさんに見える?でも少し考えてみようか。お偉いさんだったらこんな治安が笑っちゃうくらい悪いところにいないよね?」
「じゃあ特バツのエースだったり、、、」
「それもない、俺は本当に弱いし出来損ないのだし何やってもダメだし、、、。みんなに迷惑かけて嫌われるばかりの存在だよ」
「そんな自分を卑下しないでください。暗いことを考えると幸福度が下がりますよ?」
「いや卑下なんてしてないですよ」
持ち上げられる度に自身の無力さを自覚させられる。早くどっかに行って欲しいが、こんなことがあった後だ。特バツとして送り届けるべきであろう。
「じゃあ私帰りますんで、、、」
「あ、待ってください。家まで護衛させていただきますよ」
「いや、ほんと大丈夫なんで」
「そうですかね」
まあ確かに自身の家まで着いてこられるのはさすがに助けてくれた相手でも抵抗感はあるだろう。不安だがここは一人で返すのが正解なのだろうか。
「本当にありがとうございました」
女性はファサッと上着を着ると、サツキはある瞬間を見逃さなかった。
女性の上着のポケットからくるくると何かが落ちたのだ。
「あ、なんか落としましたよ」
サツキは落とし物、四角い紙に文字が書いてあるものを拾い上げた。
「ああ、名刺か」
あまり人のものを見ないようにするのが常識だがサツキはどうしても見逃せないものが名刺には書いてあった。そこには名刺の中心に一文字だけ。
「A」の文字だった。
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