第11話 電気ビリビリ

「お願いなんで殺さないで下さいぃ!」


 サツキは目の前にいる加能の強まっていく閃光が恐怖でしかなかった。


「丸こげにしてやるよ!!」


 突っ込んでくる加能。


 彼には武器など必要がない。彼は手につけられているケーブルに電気が通っており、それに触られただけでアウトなのだ。

 そして、明らかにその手でサツキを殺そうとしている。


「うわぁっ!?」


 ビビりながらもサツキは急いで床に転がっていた死体を盾にした。


 だが加能の腕力を舐めてはいけない。


「邪魔だ!」


 彼はサツキが盾として使っていた死体を掴み上げ、カウンターへと投げ捨てた。


「死ね死ね死ね死ね!!」


 加能はとにかくサツキを殴り殺そうと拳を振るう中、受け止めること自体が危ないのでサツキは避けるしかない。


 ならば触れなければいい。


 隙を見てテーブルの上に置いてあった酒を加能の目にかけた。


「ぐわああぁ!!!」


 加能はそのあまりの痛さに目を抑えた。


「あっ、勝った?勝ったかな」


 だが倒すのはそんな簡単なものではない。


「ふざけんなこの腐れ外道が!!」


「ひえええっ!!ごめんなさい!」


 サツキはまたすぐに暴れ出した加能にビビり倒した。


「あっ、あの。お願いですから加減してくれたりしませんでしょうか」


「このゴミ野郎めがぁ、、、。俺はお前を全力で殺してやる」


「そんなぁ、、、」


「ボスから一億もらえんだ。テメェを殺さないともったいないだろ」


「え?ボス?」


 一体どういうことだ。

 こいつはボスを知っているのか。


 ボスに関して詳しく知る必要があるため、一度話し合いをするべきだ。


「あっ、あの。その、ボスっていう人、、、」


 サツキは加能に尋ねようとする。


 しかし、そんなことを聞こうとするはずがない。


「うるせーよ。死ね」


 加能はサツキの話など聞かずに銃を持つような構えをして電撃を飛ばして来た。


「うぎゃあ!!」


 これは本当にやばい。

 ギリギリ当たらなかったが当たったら普通に死ぬ。簡単に死ぬ。

 何度も撃ってくる中、命の危機を感じたサツキは急いでカウンターへと逃げ込んだ。


「おい!とっとと出てこいよ。決着をつけようぜ」


 加能はカウンターからサツキが頭を出した瞬間に撃ち殺す気だ。


「あ、あのっ!ごめんなさい!今ちょっと準備中なんでっ!」


「準備中?」


 準備とは何か。

 加能はサツキの準備という言葉が非常に気になった。

 こちらへの攻撃のことなのか、もしくは降参する準備か。死ぬことを覚悟する準備かもしれない。


「うっ、、、。なんかひでぇ臭いが、、、」


 突然吐き気がするような異臭に加能は鼻を抑えた。何かが焼けているのだろうか。


 あらゆる可能性を考えていたら、サツキがカウンターテーブルの上に乗っかった。


「準備完了」


 そう言ってサツキはカウンターから手錠を取り出した。


「なっ、、、!!」


 加能は準備されたものを見て大きく目を見開いた。


 なんと、手錠には気味が悪いことに人の頭が片方につけられている。まるでハンマー投げの道具のようだ。


 死体から切り落としたであろう頭は両目を抉られており、そこに手錠の輪を通してつなげている。おまけにその頭が燃えているというのだから意味がわからない。


「な、なんだぁそれはぁ!!」


「俺はとにかく武器がないので、、、。だから作りました」


「はあ!?」


 加能は撃ち殺すのを忘れるほどに驚いた。

 そして、彼はサツキのその頭のおかしさに恐怖した。


「ソイヤァ!!」


 お手製の武器を振り回し、サツキは加能に当てて気絶させようとした。


「ひいっ!!」


 加能はビビりながらも何とか避けることができた。


「さあ!いつでも来い!なるべく遅いペースで!」


 決着をつけるべくサツキは再度武器を振り回した。


「な、なめてんじゃねぇぞ!蛆虫がぁ!!」


 加能が閃光を発しながら立ち向かってくる。


 サツキは身構えた。武器をぶつけて気絶させる、それを目的として。


 そして、サツキは加能の顔に目掛けて作戦通りそれを行った。


だが、それはやってはいけないことだったのだ。


「ぎゃああああ!!」


 なぜか突然加能が燃え始めたのだ。


 そりゃ燃えているものをぶつければ燃えるのは当然。

 しかし、今回はそうではなさそうだ。明らかに炎の量がおかしい。


「ああああ!!ぽわあああぁぁぁ!!」


「え!?何でこんなに燃えて、、、」


 ふと、サツキはあることを思い出した。


 そういえばそうだ。


「さっきお酒かけちゃったの忘れてた、、、」


 またしてもミスをしてしまったようだ。

 とりあえずこの炎を消すべきだ。


「えっと、消火器、、、。いや何で消火器無いのここ!?不用心だな!」


 普通なら消火器くらい置くべきだ。一般家庭でさえ置いてあるというのに。


「そうだ!!水だ!お水があるはず!」


 サツキは急いでカウンターにあったボトルをジョッキに何杯か注ぎ両手で持ってそれを勢いよくかけた。


「ぼわああああ!!」


 かけた瞬間、炎はさらに大きくなっていき加能は暴れ続けていた。


「なんで、、、。あ、これお酒だわ、しかもアルコール凄そう。確かにこんなボトルにお水入れないよな」


 自分のまたしてもやってしまったうっかりにうんざりした。


「うぼぅ、、、」とその言葉を最後に加能は倒れた。


「、、、死んじゃった。ボスの情報聞きたかったのに」


 サツキは自分のした事が今のところ何も成果を出せる事につながっていないのにひどく落ち込んだ。


 だが、そんな落ち込んでいるサツキを慰めるかのように苦手な人が話しかけて来た。


「おお〜!!素晴らしい!さすがっすよ先輩!いいもの見れました!」


 ツツジが笑顔でこちらにトイレに続く扉から駆け寄って来た。


「え、見れましたって、、、。ちょっと待て、君ずっとそこの扉の隙間から見てたの!?」


「ええ、はい。なんか大勢に囲まれ始めたところからずっと見てました」


 サツキは唖然とした。


 こいつはサツキを助けることができたのに助けようともせずにいたのだ。普通の仲間ならそんなことはしない。


 いや、やっぱり撤回。サツキは特別にされるであろう。なぜならツツジはイカれてるし、特バツのみんなはサツキを嫌っているからだ。


「まあ、、、。いいや」


 サツキはツツジのことなので気にしない事にした。


 それよりも困ったことがある。


「ところでさ、こっからどうやって出るの?」


「え?」


「あの出口、どんなに引いても出られないんだ。どこか裏口でもあればいいんだけど、、、」


「はい?」


 ツツジはサツキの言っている事がよく分からず数秒ほど考えてしまった。

 そして彼女はサツキの言っている事の意味に気づいた。


「あの先輩」


「なに?」


「いや一つ言いたいことがありまして」


 ツツジはそう言ってドアまで歩いた。

ドアを"押す"と当たり前のように開いた。

 開かないと思ったのは"引く"ことしかサツキはやっていなかったからだった。


「恋は押してダメなら引いてみろと言いますが、、、」


 ツツジは微笑んだ。


「先輩って引くの好きっすね」

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