第9話 穴場な墓場

 明らかにヤバそうな奴らばかり集まっているバーだというのに、サツキは全く気にもせずに入っていった。


「この店なんかヤバくないすか?流石にやめといた方がいいんじゃ、、、」


「分かってないなぁ、ツツジは。いい?こういう穴場スポットってのは美味いものが食べれたりするんだよ、ガイドブックに載ってなさそうなやつがね」


 流石のツツジでさえビビっているというのに、サツキは何故かこういう時に危機管理能力が無いのだ。


「へー。先輩詳しいっすね。でもこういうところってお酒くらいしかないんじゃないすか?」


「そんなことないでしょ。こういうレストランとかカフェ最近ありそうだし」


 呑気にそんなことを抜かしながら、サツキはカウンター席に座った。


「腹が減っては戦はできぬ!調査もいいけど大事なのは腹ごしらえでしょ」


 いかにも頭の悪そうなセリフだ。


「それよりもさぁ、君の運転ヤバすぎ。二度とあんな怖い思いしたくない。いつもあんなことやってんの?」


 サツキは今日起こったツツジが起こした恐怖の出来事を思い返した。

 あの暴れようはやはり苦手だ。

 彼がツツジを嫌う理由には十分である


「いや?この前見た映画の真似してみただけっす。まさかうまくいくとは思わなかったんすけど」


「マネなんてしてたのか。そりゃよくないよ。そんなことするから世の中いろんなものが規制が厳しくされ始めているんだ」


 サツキはため息をついた。


「規制ってなんすか」


「ほら、よくあるでしょ?この映画にはこれが出るからダメだとか、教育に良くないことするから見せれないとかそういうのを考えて制限することを規制っていうんだよ」


「つまり映画は道徳的じゃないってことすか?」


 そういうことなのだろうかと言うように疑問を抱いたツツジは首を傾げた。

 だが、それは極端な考えである。


「一部の映画ね。ガキンチョが見るものから大人が見るものまで。その中でよくないものってのがたまにある」


「でも、そのためにフィクションだって書いてるんじゃ?それ書いとけば大丈夫っすよ、規制なんていらない」


「確かに普通の人は"この話はフィクションです"って書かれなくても分かってる。どこどこの建物が破壊されたり、どこでどのように何人が殺された。そんなのあったらとっくに新聞か教科書にでも載ってるよ。でも、君みたいにイカれたやつが真似することもある。だからフィクションだって書いといても規制が必要になっちまうんだ」


 簡単に言うとサツキは"ツツジは頭がおかしくてそのうえ悪い人間だ"と悪口を言ったのである。


「おー!今ので完全に理解しました」


 ツツジは自分が悪く言われているのには気付かずに納得した。


「あ、ていうか私トイレ行きたいです」


「そうなんだ。多分あっちじゃない?行ってきなよ」


「んじゃあ寂しくて泣かないでくださいよ」


 誰が泣くかよ、と言い返してやりたいがサツキはツツジには黙っておいた。


「ふう、、、」


 サツキは一安心した。

 久しぶりにやっと一人になれたからだ。

 ここのところずっと忙しいし、何よりツツジがいるのが嫌だ。


 というか、そもそもここに来たことが原因だ。

 何でよりによってここに飛ばされたんだろうか。簡単に人を殺しにくる街に。


 ああ、なるほど。きっと自分は殺されるために飛ばされたんだ。

 みんな死んで欲しいと思っているんだ。

 しょうがない。自分はこんな人間なんだから。当たり前の仕打ちだろう。もう生きている意味なんて、、、。


「なあ、お前なんて名前だ?」


 ウザったいマイナスな考え事をしている最中に、突然男がサツキの隣に座ってきた。


「え!?」


 男のいかにも"強そう"というような肉体と190センチはある高い身長にサツキは驚き、椅子から転げ落ちそうになる。


「ひゃ、あ、えとえっと、、、」


「なにビビってんの?」


「あ、いや。急に話しかけられてびっくりして、、、」


「何だそれ。お前変なやつだな」


「いやまあ、よく言われます」


 困った、また変なのに絡まれたなぁ。

 サツキは根暗な雰囲気が出ているせいでよく不良に絡まれてしまっている。

 あまりにも回数が多いのでもういい加減慣れっ子になったが、今回は何だか普通の不良ではなさそうだ。


 ツツジのやつ、早く戻ってこないかな。


「なあ、こいつ知ってる?」


 男はポケットからスマートフォンを取り出すと、そこに保存してある動画を見せた。


「まあ、、、。はい」


「お前そっくりだよな」


「そうですね」


「俺、こいつ探してんだわ」


「え?どうしてですか」


「こいつ殺したら1億もらえるんだよ」


「すごい大金」


「そうだな」


 ふと、サツキはただならぬ気配を感じた。


 動画からゆっくりと目を逸らし周りを見渡してみた。


 ああ、最悪だ。ナイフを持っている者もいればメリケンサックをつけている者もいる。


 これは完全に危ない状況だ。


「なあ、お前つえーらしいな」


「いやそんなことないよ」


「その根暗な性格はわざとか?俺たちを油断させるためか?」


「いやこれは元々で、、、」


「お前がどんな奴かすげー気になるんだわ」


「し、知らなくていいと思うよ?」


「特バツの仕事、見せてくんねぇかな」


 加能の言葉にサツキは危険を感じ、椅子から急いで降りた。


「えっと、ごめんなさい。俺、ちょっと用事思い出しちゃった!ツツジー!早く戻ってきてー!!こっから帰るよ!」


 出口の方へサツキはビクビクとしながら向かった。


 だが、ドアを引いて開けようとしてみたがなぜか開かないのだ。


 サツキは血の気が引いた。

 これは完全に閉じ込められた。


「帰すわけねえだろ」


「いや本当!そんなこと言わないで!帰るから!ツツジー!ツツジー!!助けて〜!!」

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