特バツの陰キャ

第2話 爆発!爆破!爆撃!大爆発!

 街の建物や道が爆破されて人々が逃げていく。その原因となっていたのは古いコートを羽織った大男だ。


「逃げろ逃げろ!逃げ惑え!お前らは俺より弱い!俺に恐怖しろ!この俺、"クラッシャー"に殺されたくなければな!!」


 クラッシャーと名乗る男は街中に体中にジャラジャラとぶら下げた手榴弾やダイナマイトなどの爆破物を投げて回っている。


「ガヒャヒャヒャヒャ!!」


 投げた爆弾が人々の体を吹っ飛ばし、道には頭や腕が転がっている。クラッシャーはそれが愉快でたまらなかった。


「ストーップ!!」


 いきなり聞こえたその声にクラッシャーは後ろを振り向いた。 


「特バツだ!爆弾を下に置き手をあげなさい!」


 現場に着いたサツキは足をガクつかせながらも、特バツの手帳を見せ攻撃をやめるように言った。


「特バツ?ああ、特バツか。特バツなら何人も殺して来たよ。今回で何人目になるかな」


 爆弾を片手で投げては掴んで手玉のように扱う動作をしている様子から完全にサツキをなめくさっていた。

 まあ、そうであろう。サツキは高身長ではあるが16歳という年齢のせいで威圧感はないし、服装もTシャツの上にネルシャツというグランジなのかオタクっぽいのか中途半端。こんな人間は夜の街を歩いていればカツアゲされること間違いなしだ。


「まあ、話を聞いて。爆弾ってさ、よくないよね。俺なんてほら武器も持ってない。手錠と電話だけだ」


「武器もないのに俺に交渉を持ちかけているのか?」


「だからこそ!フェアじゃないから腹を割って話すべきだと俺は思うんだ。そうすればハッピーに逮捕できるだろ?うん」


 サツキは自分は武器を持たない人間ですよというアピールのために手を挙げた。


「俺を逮捕?特バツも警察みたいにアマちゃんだな、ここで殺すタマもねぇ。それに俺のことを逮捕しようとしても俺にはボスがいる。さっさと娑婆に出たらまた大暴れしてついでにお前を殺してやるよ」


「ボスだかドスだか知らんが、そんな脅し通用しないぞ!ごめん、やっぱり嘘だ。今のめちゃくちゃ怖い、殺すのはやめて」


「良く喋るやつだな」


「いやまあ、焦ると余計なことを喋りやすいというか?そんで友達がいなくなることが多いんだよな、あはは」


 緊張感も無さそうな空間だが、サツキは至って真面目だ。怖くてしょうがない。だから友好的な態度を示して解決することが一番だと彼は思っていた。


 だが、サツキの丸腰な態度はサディスティックなクラッシャーの快感のための殺意をより昂らせる。


「もうお前のお喋りには付き合っていられねえ。二度と話せないようにしてやるよ」


「えぇっ!?なんでぇ!?」


 容赦なくサツキに向けて手榴弾を投げた。あたり一面に煙が立ち込める。だが、それがクラッシャーにとって不利となった。


 普通なら手榴弾を食らったらバラバラの死体が転がるのだが、サツキの体のパーツは一つも見当たらない。


「あいつ、どこに消えやがった」


 キョロキョロとあたりを見回すしたその時。何者かが背後から彼の首に腕を回して固定させるように締めた。


「確保!逮捕です!」


 サツキは力強くクラッシャーを締め上げた。


「やった!沢城さん!やりましたよ俺!」


 サツキは初めての手柄と言うように嬉しそうに声を上げる。

 しかし残念。サツキという人間はここぞという時に油断する哀れなやつだ。


「ふんぬっ!!」


 クラッシャーが勢いよく前方へ力を入れ、背中にくっついていたサツキを背負い投げのような形で地面に叩きつけられた。


「うおっ!?こいつ力強っ!?」


 サツキの力ではとても敵わなさそうだ。


「っいてぇ、調子に乗るとすぐこれだ。もう嫌だ俺の人生」


「お前ー!!何のつもりだ!」


「うわああ!!ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!」


 サツキは恐怖に力が抜けて地べたに座りこみ、もしものために自分の頭を庇うよう手で隠した。


「ふん!何が特バツだ。情けないくらい怯えやがって。俺が怖いか?」


「怖いです」


「殺されたいか?」


「こ、殺されたくないです。はい」


「助けて欲しいか?」


「お助けください」


「嫌だね」


 ニヤリとクラッシャーが笑うと、彼は右腕の袖口に隠していた小型のロケット爆弾を向けた。


「あぶねぇっ!?」


 だが反射神経が人並み以上はあるサツキは咄嗟にクラッシャーの腕を蹴り上げ、軌道を逸らさせる。


「クソッ!」


 クラッシャーのロケットは両腕に隠してある。次は左腕をサツキに向けた。


「やっぱりか」


 左腕のロケットを予想していたサツキは、向ける瞬間の隙を見逃さずクラッシャーの股間を勢いよく蹴り上げる。


「おぉうっ!?」


 股間を抑えて苦しんでいるうちにサツキは跳ね起きた。


「大丈夫?タマ潰れてない?」


「ふざけるなこの野郎!」


 襲いかかってくるクラッシャー。


 サツキは素早くポケットからスマートフォンを取り出し、彼の口の中に突っ込むと、アッパーを喰らわせた。


 これはかなり響いたらしくクラッシャーはふらついて転んだ。


「暴力反対だ、悪いことはやめて大人しく逮捕されようよ」


 手を差し伸べてサツキは懲りずに手錠を取り出すが、もちろんそんなことはクラッシャーのプライドが許さない。


「黙れ!殺す!ぶっ殺す!テメェはゆるさねぇー!!」


 狂ったように爆弾を投げ始めた。

 あちこちで爆発が起こる。


「あぶねっ!!そこは手を握る流れじゃないかなぁ!?もう嫌だぁ!怖いぃ!」


 小心者のサツキは急いでその場から逃げようとした。だが、ご存知の通りコイツは極度のビビリだ。あまりの恐怖に腰を抜かし転んでしまった。


「怖いぃ。あ、足が。足の震えが止まらん、、、」


「おい、お前」


「え?なに?」


 クラッシャーがこれはチャンスだと思い、爆弾をサツキに投げた。


 そして、避ければいいものを馬鹿なことにサツキは反射的に受け止めてしまった。


「とっちゃった!うぎゃー!!とっちゃったよ!!どうしよう!!」


「ガヒャヒャヒャヒャ!!この俺の勝ちだ!爆散して死にやがれ!!」


 あっちこっちあたふたとサツキが走り回る様子はとても街の治安を守るものとは思えないほど情けないものだ。


「もういやだ!やっぱり死ぬんだ!あー!最悪だ!ここに来なきゃよかった!」


 サツキはあまりにもパニックになったせいで爆弾を投げた。


「うりゃあー!」


 爆弾が勢いよく投げられる。これが街のビルや一般人に当たれば大ごとになってしまうだろう。


 だが、爆弾が突っ込んだ先は高笑いをしていたクラッシャーの口の中だった。


「あがっ」


 クラッシャーは喉を詰まらせた。


「ごががっ!!ガハッ、、、!!」


 鉄球同然のものが口に入ったのだ。当然、彼は苦しみ始める。


「あー!なんてこった!」


 サツキはクラッシャーの苦しむ様子をみて、またしても焦り始めた。


「うわ、どうしよう。逮捕しなきゃいけないのにこのままじゃ沢城さんに怒られちゃう結果になるぞ。いやまあ君の命の制限時間もやばいけど。どうしようか、何すればいい?そもそもその爆弾って爆破までどれくらいかかるんだろ」


「あがごっ!ご、ごがっ」


「うん。何か言いたいんだね。でも何を言いたいのかわからないんだ。取り出し方も分かんないし」


「ごかっ、、、」


「あ!いや分かるかも!実は昔、数少ない友達が餅を詰まらせたことがあってさ、その時に何かやった覚えがあるんだよ。あれ?でも、結局あいつ死んだんだっけ?」


ぐしゃ。


 その音が聞こえた瞬間、サツキの顔に液体がかかって来た。いや、液体だけじゃない。柔らかい物体もだ。


「あー、、、」


 クラッシャーの上半身はぐちゃぐちゃになっていて色々と飛び出しており、下半身だけの状態になっていた。

 いつまでも喋っているせいでクラッシャーは死んでしまったのだ。


「沢城さん怒るだろうなぁ、、、」


 当然説教をされることだろう。だが、それについては後で考えることにする。

 今、もっとも最優先なことが一つあるからだ。


「とりあえずお風呂入ろう」

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