31. もしかして……?

 単刀直入に聞いてみることにした。


 ……もし。


 もしそんな奇跡が起きているかもしれないのだったら、例え可能性が一パーセントでも賭けてみたくなる!


 あいつにもう一度会えるなら、どんな可能性でも信じてみたくなる!


「うちのクラスに膳瀬ぜんせさんなんていたっけ?」

「いねーよ!! 膳瀬ぜんせさんって誰だよ!?」


 だぁああああ!?


 素っ頓狂な答えが返ってきたのでつい声が裏返ってしまった!

 もうこいつのその手には惑わされないぞ。


「前世! ぜ・ん・せ! 前の人生ってやつ!」

「どちらかというと信じない」


 がぁあああああ!


 俺の淡い希望はあっさりと打ち砕かれた!


「そ、そっかぁ」

「なんであからさまにがっかりしてるのよ」

「別に……」


 木幡こはたの大きな瞳が俺のことをじっと見つめている。


「――まぁ、前まではそう思っていたんだけど最近はそうでもないないのかなって思ってるよ」

「どういうこと?」

「絶対ってことはないんだなぁって」

「まどろっこしい」

「うるさいなぁ」


 じゃあ結局どっちやねんと言いたくなってしまう。

 木幡こはたが何かを試すような聞き方を俺にしてくる。


「もし、会えないと思ってた人に会えるとしたらそんなに素敵なことってないと思わない?」


 木幡こはたが複雑な表情を浮かべてそんなことを言ってきた。


「……」

「な、何よ! 急に無言になって」

「もし、ないならないってはっきり言ってほしいんだけどさ」

「うん?」

「“体育祭に屋上で告白“に心当たりない?」

「へっ?」


 俺の言葉に木幡こはたの目が大きく見開く。


「ちょ、ちょっとー!!」


 あーー!

 琴乃ことのが戻ってきてしまった!


 俺と木幡こはたの間に無理矢理割り込んでくる!


「こ゛ばる゛ぢゃぁあん゛!!」

「そ、そんなに泣くことないでしょう!」

「油断するとこれなんだからーー!」

「べ、別に湯井ゆい君のことを取ろうとしているわけじゃないなって!」

「今、二人だけの空気流れてたもん!」

「えっ?」


 ちらっと木幡こはたが俺のことを見る。


「そ、そう?」

「ほらーー! 何かいつもと空気が違う!」

「こ、琴乃ことのはそういうのに敏感なのね」

心春こはるちゃんが鈍感なの!」


 琴乃ことのが俺の手をぎゅっと握り締める。


「ほら! 唯人ゆいと君! もう行こ!」

「お、おう」

「じゃあね心春こはるちゃん!」


 琴乃ことのが俺の手を力強く引っ張った。


「……」


 木幡こはたが何か言いたそうにこちらをずっと見つめていた。

 



※※※




 先日、オフクロが琴乃ことのにバラしてくれていたが、俺と前世の妻“古藤ことう美鈴みすず”は幼馴染だった。


 幼稚園のときからずっと一緒で、実家が近かったということもあり小学校のときからずっと一緒に登下校していた。


 その度に妻の兄の誠一郎せいいちろうさんが付いてきて、なんだかんだで三人で登下校するのが日常だった。


 俺はとりわけ朝が弱かったので、いつも二人を待たせていたっけなぁ……。

 その度に親父とオフクロにどやされて。


 兄妹がいない俺にとって、二人は本当の家族みたいなものだった。


 そんな幼少期を過ごしていたのだが、その関係がはっきりと変わったのが高校一年一学期の体育祭だ。


 ちょうど今、琴乃ことのが委員会で忙しく準備をしているやつだ。



(た、体育祭終わったら屋上に来てよ)

(えっ、何で? 俺ヤキでも入れられるの?)

(そんなわけないでしょう!)



 あの日、美鈴みすずから告白されて俺たちは付き合うことになった。


 俺のことを弟のように可愛がってくれていた誠一郎せいいちろうさんはその日から豹変!


 俺に美鈴みすずに相応しい男になるようにと、スパルタ特訓を課すことになる。


 ちなみ誠一郎せいいちろうさんは当時生徒会長を務めていた。その権力を思う存分に使って俺を散々痛めつけてくれたことをいまだに忘れてはいないが、それはまた別の話だ。


「体育祭までもう少しか……」


 自分の部屋に飾ってあるカレンダーを眺める。


 変な言い方だが、高校一年生で過ごす二度目の体育祭。


 体育祭なんて楽しみでも何でもないのに何故か胸の鼓動が収まらない。


 ただ漠然と何かが起きる予感がしていた。

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