30. 前世って信じる?

 それから一ヶ月ほどが経ち、月は七月に差し掛かろうとしていた。


 琴乃ことののぐいぐいは相変わらずだったが、特に大きな事件もなく穏やかな日が続いていた。


唯人ゆいと君! 今日はどこにお出かけする?」

琴乃ことのの行きたいところでいいよ」

「えー! たまには唯人ゆいと君の行きたいところがいい!」


 この一か月は、琴乃ことのと放課後にどこかに出かけるのが日課になっていた。


 オフクロからは、時々救援物資が送られてきたがそれらはもちろん全て廃棄処分している!


 ……一つだけ変わったことがある。


 俺は木幡こはたのことがずっと気になっていた。


 授業中つまらなさそうにしている仕草も、時々はにかむように笑う表情もどこかアイツに似ているような気がしてしまっている。


 そして、何よりも……。


 木幡こはた心春こはるはしきりに古藤ことう琴乃ことののことを気にしている。


 その時の優しい表情がどうしてもアイツとダブってしまう。


 気のせいかもしれない。


 ただの勘違いかもしれないが、心の奥底でアイツと木幡こはたを結びつけてしまっていた。


「じゃあね心春こはるちゃんバイバーイ!」

「うん。家についたら連絡してね。湯井ゆい君も琴乃ことののことお願いね」


 俺は木幡こはたと話したいことが沢山あったが、琴乃ことのの手前、中々木幡こはたに話しかけることができずにいた。

 



※※※




「もしだけどさ」

「ん?」


 放課後デートの最中に、琴乃ことのに恐る恐るあることを聞いてみる。


琴乃ことのは両親が今でも生きてたらって考えたことある?」

「お父さんとお母さんが?」


 俺の質問に琴乃ことのが嬉しそうに笑った。


「えへへへ。そりゃいっぱいあるよ」

「そっか」

「きっと楽しかったんだろうなぁ。お父さんとデート行ったり、お母さんと買い物と行ったり」

「お父さんとは普通はデートに行かないと思うけど……」

「えー! いいじゃん! なんか憧れるなぁそういうの!」

「……きっとお父さんが生きてたら琴乃ことのは普通の女子高生になってたんだろうなぁ」

「?」


 俺の言葉の意味が分からず、琴乃ことのが不思議そうな顔で俺を見つめる。


「どうしたの? 唯人ゆいと君からそういう話をしてくるのは珍しいね」

「ちょっと聞きたくなっちゃって」

「えへへへ。私に興味もってもらえるの嬉しいなぁ」

「俺はいつでも琴乃ことのに興味あるけど……」

「えっ」


 琴乃の目が急にきゅぴーんと輝き出した!

 

「本当!?」

「本当だって! だからいきなりくっつくなって!」

「色々教えてあげるからね!」 


 し、しまった! また余計なことを言ってしまった!

 自分で琴乃ことののぐいぐいに加担してしまった。


「そ、それで琴乃ことののお母さんはどういう人だったの!?」


 その場を誤魔化すためにそんなことを琴乃ことのに聞いてみる。


「お母さん?」

「お父さんの話はよく聞くなぁと思ったけど、お母さんの話ってあんまり聞かないから」

「そんなにお母さんのこと話してなかっけ?」

「うん」

「私、あんまりお母さんのこと好きじゃなかったから」

「えっ」


 初めてそんなことを琴乃ことのから聞いてしまった。

 その言葉に、頭をハンマーで殴られたみたいにショックを受けてしまっていた。


「な、なんで?」

「お父さんの奥さんだから」

「は?」

「お父さんの奥さんには勝てっこないでしょ?」


 琴乃ことのの言葉の意味が分からない。

 奥さんも子供も唯一無二なものであって、そこで勝負するようなものじゃないのに。


「だから私、お母さんのことはずっとライバルだと思ってたんだ~。あははは」

「ライバルって……」

「ね? おかしいでしょ?」


 琴乃ことのが何かを思い出してケラケラと笑っていた。

 



※※※




唯人ゆいとくん! 次の授業、移動教室だって! 一緒に行こう!」


唯人ゆいと君! 一緒にご飯食べよ!」


唯人ゆいと君、今日一緒にお買い物行かない!?」



 琴乃ことのフィールド発動中!


 まるでバリアでも張られたみたいに木幡こはたに声をかけるタイミングがない。


 ――そんなこんなでずっと機会を逃していたのだが、六月最後の放課後に絶好のチャンスが到来した!


古藤ことうさーーん! 今日、体育委員会あるよーー!」

「あーー!」


 琴乃ことのが同じ委員会の女子に声をかけられている。


「ごめん! 唯人ゆいと君! 今日委員会あるから先帰ってていいよ!」

「いや、待ってるよ」

「それは悪いから……」

「いいからいいから」


 俺と琴乃ことのがそんな話をしていると、琴乃ことのに話しかけていた女子も俺たちの会話に混ざってきた。


湯井ゆい君は古藤ことうさんの彼氏だもんね。優しいね~」

「えへへへへ」


 く、くそぅ……!

 そりゃあんなに琴乃ことのとべったりしていたらそんな風に見られてしまうか!


 他の人に言われると、尚ダメージがでかくてガクッと力が抜けてしまった。


「じゃあ唯人ゆいと君、悪いけどちょっと待っててね~」


 すっかりその言葉に気を良くした琴乃ことのはそのまま委員会に行ってしまった。


「はぁ……」


 この混沌とした状況についため息が出てしまう。


「そ、そうだ!」


 そうこうしている場合じゃない!


 琴乃ことのが委員会に行ったので、木幡こはたに話をかけなければ!


「こ、木幡こはた!」

「何よ、そんなに焦って」


 帰り支度をしている木幡こはたに急いで声をかけた。


「ちょっと話したいことがあるんだけど!」

「話したいこと?」

「うん、ここではなんだから少し屋上でもいかないか?」

「え゛っ!?」


 木幡こはたの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「ま、まままま待ってよ! あなたには琴乃ことのいるでしょう!?」

「そうなんだよ! 琴乃ことのがいないうちに話がしたかったんだ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「いいから!」

「良くないわよ! ここで話は聞くから!」

「あんまり人がいないところで話したいんだけど……」

「ダメだって! ダメダメ! お互い好きな人がいるのにそんな不貞が許されるわけないでしょう!」


 またしても木幡こはたがわけの分からないことを言っている!


 木幡こはたの重い腰はこれ以上がることがなさそうなので、この場で聞いてみるしかないか……!


「じゃあさ、笑わないで聞いて欲しいんだけど」

「そ、そんなことで笑わないわよ!」

「真剣に聞いてくれる?」

「だから聞くって!」

「あのさ木幡こはたって……」

「うん」



「前世って信じる?」

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