貴方は私の主人公

@satsukixi

出会いと今

私は高校2年生の頃に後の親友、


いしざか、石坂ななみと出会った。




その時、


私は休み時間に次の授業の予習をしていて、


廊下がとても騒がしくてどうしても集中できず、


廊下の方に目をやると、六人くらいで話をしている様子が見えた。




主に中心になっている人がいるらしく、


その一人を囲むようにして、


ここからでは何かいじめを受けているように見えて余計に気になり、教室を出て


彼ら、彼女らの方に近づくと、中心の人物が見えた。




長く真っすぐで綺麗な黒髪に、程よく焼けた綺麗な褐色肌、


金色に輝くその瞳は太陽のように眩しく、


すべてに希望を抱いているかのように、曇りがない。




私は彼女を見るのは初めてだけど、彼女のうわさを聞いていたので、


私は彼女を知っている。



彼女の名前は石坂ななみ、隣のクラスの女の子。


いつも誰かと話をしていて、常にニコニコしている。



また、彼女はとても人懐っこいというか、人好きというか、人に対する好奇心が強い

みたいで、人の悩みを聞いて解決したり、助けたりすることが好きらしい。



そんな彼女についたあだ名は‘相談屋’。



何だか善人気取ってるみたいで、私はあまり好きじゃないが、


今日初めて彼女を見て、その噂とかじゃなくて彼女自身に対して少し興味が湧いた。



石坂さんが中心となり、話をしているということは、


この人らは相談事をしていたのだろう。



とりあえず、いじめじゃなかったことにほっとした。


確認できたし、予習の続きをしに教室に戻ろうとしたとき、


彼女と目が合った。




彼女はニコニコしながらこう言った。


「ねえ、何か悩んでることある?」



私は悩みが思いつかなかった。

「悩んでることはないけれど、少し石坂さんと話がしたいです。」



「いいよ。あ、でももうすぐチャイムなっちゃうから、放課後話しよ。」



「あ、ありがとうございます。」




急に話しかけたのに彼女は優しく接してくれた。



私は授業中にも関わらず、


放課後に会う約束をしている石坂さんのことをずっと考えてしまい、


あまり授業に集中できなかった。



咄嗟に話がしたいと言ったことは後悔していないが、


なんだか恥ずかしいような変な感じがする。




そうこうしている内に今日の授業がすべて終わり、放課後になった。



約束していた放課後になり、先にホームルームが終わった私は中庭にあるベンチで、


石坂さんが来るのを待っていた。




嬉しいような、恥ずかしいような変な感情と


本当に来るのかな、という不安感を持ち合わせて、


どんな話をしようか、どんな話が好きなのかな、などということを考えながら


下校している人達を見ていた。すると、


「ねえ、隣座っても良い?」


聞いたことのある声がした。



その声は私の全てを包み込むように柔らかく、


油断すると溶けてしまいそうなくらい甘い声。


私は聴いただけで誰の声なのかすぐに分かって、


隣を見るとそこには石坂さんの姿があった。




「待たせてごめんね、今日日直だったから。」


石坂さんは急いで来たのか、リュックの右チャックが半分空いている。


「あ、石坂さん、リュックの右チャック…。」


「えっ右のチャック、あっ本当だ。」


石坂さんは驚いてチャックを閉めた。


「全然気づかなかった。ありがとう。」




石坂さんの笑顔を見て、彼女はやっぱり可愛いなと思った。


それから私は石坂さんと日常的な会話をしたり、石坂さんのことを聞いたりした。


気づいたら、日が暮れるまで私たちは話をしていた。




そして帰る頃、私たちは帰る方向が一緒なので



「私のことはさん付けしなくてもいいよ、敬語も大丈夫。


あと、君のことは何て呼んだら良い?」



そういえば、石坂さんのことばかり聞いてて、


私自身は名前すら名乗ってなかった。



「私の名前は小金井(こがねい) 糸(いと)。どんな呼び方でも良いで…良いよ。」


「じゃあ、苗字のこ、と名前のいを合わせて、こいはどうかな?」



苗字か名前で呼ばれると思ってたから、予想外の返しに少し驚いたけれど、


自信満々にいう様が可愛くて、何でもいいかとなった。




「うん、大丈夫。私は石坂さ…、は呼び捨てだとちょっと…」


「じゃあ、私のことはみかん、みかんっていうのはどうだろ?」




これまた不思議な返しをされた。よく人助けをしていて、相談屋と呼ばれる


くらいだから、しっかりしているイメージだったのだけれど、


意外とそんなことはないかもしれないな。





「う、うん。でも、なんでみかんなの?」




「私の下の名前がななみで、後ろにみかんをつけると‘ななみかん‘になって、


スーパーで売ってるみかんの缶詰の名前になるから。


そう呼ばれてたわけじゃないけど、面白いかなって。」



「ふふっ、よく思いついたね。じゃあ、私はかなって呼ぶことにするよ。」



「今の言葉的にはみかんって呼ぶ流れになるのに、こいはおかしいよ。


でも、かなの方が呼びやすそうだね。かなで良いよ、あははっ。」





街灯に照らされた彼女の笑顔は、夜にも関わらず眩しい程に綺麗で、


私を見つめる真っすぐなその瞳を曇らせたくないと思った。








こうして私たちは仲良くなり、高校を卒業しても週一で会うくらいに


仲の良い親友になった。










あれから二年の時が過ぎ、今は私たちが出会った夏の季節だ。




私、小金井糸は高校を卒業して、中小都市にある人が少ない通りで


祖母が経営していた二階建ての喫茶店を営むことになった。


私は幼い頃から今に至るまで祖母に育てられて、この喫茶店で明るく一生懸命に働い


ている祖母の背中を見てきたので、祖母の為にもこの喫茶店がずっと続いていくよう


に一生懸命頑張ろうと思った。だが、現実は思い通りには行かないもので、喫茶店が


私の代になってからというもの、なかなか客が入ってこない。最近、近くにスーパー


ができたからなのか、もともと駐車しにくいスペースにあるからなのか、駅からはそ


れほど遠くないけど近くもない微妙な位置にあるからなのか、それとも根本的な原因


が私にあるからなのか。正直わからないけど、集客するために必要なことをこれから


勉強していこうかなと思っている。








私は高校を卒業して今に至るまで石坂ななみ(今はかな、と読んでいる。)、と週一で


会うくらい仲良くなっていたが、彼女と会わなくなってから、今日で一か月以上が経


つ。心配にはなるが、彼女の職務上こういうことが度々起きるから自然と気にしなく


なった。その職というのは‘探偵‘、映画やドラマ、本などで度々見かける職業だ。


だけれど実際の彼女がしていることといえば、浮気調査や猫探し、身内でのもめ事の


解決などであって、殺人事件や国の存亡に関わる機密文書などといった大層な物事に


は関わっていないのだ。また、基本的に予約制でちゃんと依頼の日時などは調整され


てたり、事前に仕事の量が決まっているので急に忙しくなったりすることもない。



そういう面でもかな、彼女に合っている仕事だろう。だが、一か月の仕事は長いな、


どんな内容の仕事なんだろう。




遠征とかかな、ちゃんと休めているのかな。連絡自体もずっと圏外だし、心配だ。そ


う思いながら、今日も喫茶店のテーブルを拭いたり、皿を拭いたりしてやることがな


くなったら、奥のキッチンで休憩したりしていた。




がちゃ、がららん。入口の方で音がした。お客さんが来たのかなと思い、急いで入口


に向かった。すると、「久しぶり、会いたかったよ、こいちゃん。」この高く、猫み


たいに柔らかく可愛らしい声を、私はずっと、一か月の間待っていた。


一目彼女を見ると、私の中で止まっていた時計の針がすごい速さで動き出して、胸の


鼓動が高鳴り、気づくと私は返事よりも先に石坂、かなを抱きしめていた。お客さん


がいないとは言っても、仕事中だったので反省した。




「かな、私も…私も会いたかった。」彼女が無事なことに私は安堵した。


「え、っとこいちゃん?…座って話したほうが、この状態だと、」


戸惑っている彼女の表情を見て私は冷静になった。


「…久しぶりだったからつい、ごめん。じゃあ座って話そっか。」


と私は彼女がいつも頼んでいたブラックコーヒーを入れた後に隣の席に座って、


今から一か月ぶりの会話をする。



かなはコーヒーが入ったマグカップを両手に持って一口目を飲むと、いつものような


笑顔になる。


「ああ、やっぱりこいちゃんが入れたコーヒーはすごい美味しいね。」


「ありがとう、いつも良い所から豆を仕入れているんだ。これからも良いコーヒーを提供できるように頑張るね。」


彼女の笑顔が見られるだけで、私は今日も生きてて良かったなと思う。って忘れそう


になってしまうが、かなに聞きたいことを聞こう。一か月とはいえ、久しぶりの彼女


の眩しい笑顔で聞きたいこと、話したい事を忘れそうになってしまっていた。


「かな、どうして一か月の間、連絡が取れなかったの?何かあったのか心配になって…」


かなは何か固まったような表情でマグカップを左手に持ち替え、コーヒーを飲むと、


「うーん、そうだね、話すと長くなるけど、時間大丈夫?」


私はすぐさま、ドアにクローズの紙を貼って、かなの近くに来る。


「うん、全然大丈夫だよ。明日も、一週間も、何十年でも暇になるよ。」


かなはまた笑顔に戻り、


「ふっ、あはは、さすがにそこまでかからないよ、ふふふっ、こいちゃんったら。」


やっぱり彼女には笑顔が良く似合う。


一息つくと、かなは一か月間のことについて話し始めた。




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