第8話 誘拐犯と警察、そして、毒親

 アドラスが馬車を勧めている中で、サーリャは悪寒を感じてしまう。


 アドラスが疲労困憊して居眠りをしてしまい、凶相を感じてしまっていた。


「やれやれ、アドラスめ………道を間違えおったか、休む時は馬車を止めろと申したというのに………」


 このまま馬車を止めて引き返すこともできる。


 しかし、方角がわからない。


「むッ!!?」


 周囲を見渡せば、山に囲まれていた。


 この道はアドラスの不注意だけではない。


「やられたか………果たして、アドラスを守れるだろうか………」


 馬は既に中毒を起こしていた。


 取り憑かれるようにして、ある食材を追い求めている。


 人工的に育てられた痕跡も見える。


 サーリャは馬を止めても無意味と悟り、アドラスと場所を入れ替わる。


 手綱を引けば、敵の罠に向かっていることを覚悟する。


「大抵は罠が待っている。もし、罠でなければ………ドーピング戦士のような猛者が待っておろうな………」


 しかし、後者ではないようだ。


 罠は馬を狙った。


 足を奪われて馬が転倒、落とし穴に落とされる。


 サーリャは手綱を離して、アドラスを抱えれば馬車から飛び降りた。


 アドラスは昏睡状態となっていた。


 次の瞬間、背後を奪われていた。


 殺気を感じなかった。


「くッ!!?」


 サーリャは敵の攻撃をなんとか捌き切って距離を取った。


「何が目的じゃ?」


 殺気も無く、攻撃もぬるかった。


 故に、アドラスを担ぎながら捌くことができた。


「………」


 相手からの返答はない。


 しかし、正々堂々と構えてくる。


 殺意はないが闘志が現れている。


「次は本気で行く………」


 その男が刀を構えるとサーリャはアドラスをおろしてから槍を手に取った。


 槍を構えれば、互いに殺気は存在しない。


「よくわからぬが、そのセリフ、そっくり返してくれるわ!!」


 先に仕掛けたのはサーリャの方である。


 リーチを活かした攻撃は刀ではとても届かず、円運動で槍の二撃目も速い。


 剣や刀で槍に勝つためには3倍の実力差が必要と言われる。


 その意味こそ、槍の二撃目が速すぎるからである。


 刀を一度振れば、振り切った時に隙が生じる。


 しかし、槍は振り切っても二撃目が続き、振り回すことで隙の無い連撃が可能となる。


 サーリャの言葉通り、一方的に攻めている。


 サーリャは本気であって殺意はない。


 実力は五分のようだ。


 実力が五分ならサーリャに負ける要素はない。


「このまま完封してくれる!!」


 サーリャが一気に攻め立てると男は上着を脱ぎ捨てて槍を封じてきた。


 サーリャは視界が悪くなり、男を見失ってしまう。


「なッ!!?」


 気が付いたときには、一本取られていた。


 サーリャは槍を構えて一歩下がり、挨拶する。


「参りました。」


 男も刀を構えて一歩下がれば挨拶を返した。


「こちらこそ、無礼を申し訳ございません。我が隠れ家へとご案内します。」


 サーリャは男の隠れ家に案内された。


 隠れ家には、たくさんの子供達が居た。


 サーリャは敢て訪ねた。


「この子供達は一体?」


 その話となれば、奥の部屋へと案内させられる。


「親から虐待を受けて警察からも慰め者にされているかわいそうな子供達ですよ。」


 案の定、無能な大人たちのせいで苦しんでいる子供達だった。


「それで、あなたが子供達を守っているのですね。馬はもう使い物になりません。子供達に差し上げます。」


 サーリャが馬を差し出すと子供達は喜んでサーリャを歓迎した。


 子供達が寝静まるとサーリャとアドラスは男から話を聞いた。


「私は元警察であり、国の平和のため、この身を捧げました。しかし、上司が幼女を慰めものにしていたために、私は上司を射殺しました。それからはこの有り様です。たくさんの子供達を匿うだけで学校にも行かせられません。不自由な暮らしをさせてしまってるだけの犯罪者です。」


 それを聞いたサーリャは巨峰を食べながら言う。


「フン、下らん。子供達が不自由しとるように見えるのか? 我には偽りの楽園よりも、ここの生活の方が子供達は喜んでおると見えるぞ。この巨峰もお主が子供達に育て方を教えたのであろう? そこらの高級巨峰よりも美味よ。」


 それを聞いた男は、涙を流しながら訴える。


「この子供達は、毎日2時間も睡眠が取れませんでした。食べ物ももらえず、毎日骨が折れるほど殴られていたとか、中には、警察に助けを求めても慰め者にされたとか、お、俺は、俺は………」


 男の涙には嬉し泣きから悔し泣きに変わっていた。


「俺は誘拐犯なんかではない!! 俺こそが真の警察なんだ!!」


 サーリャは巨峰を食べ終えれば、その日は子供達と一緒に寝ることにした。


 アドラス抜きで国と戦う。


 銃や火器を相手にするのは、普通の人間では至難であろう。


(返せ………私の………返せ!!)


「な、何じゃ!!?」


 いつの間にか眠ってしまったのだろう。


 サーリャは嫌な夢を見て飛び起きたようだ。


「凶相、凶夢、まさかな………」


 翌日を超えて翌晩となる。


 サーリャと男はアドラスを置いて国に潜入した。


 サーリャが囮を引き受けて男が暗殺を行う模様、サーリャは爆弾をたくさんの交番に設置する。


 距離を取れば爆破した。


 爆破行為は多数で一斉に起きたために、警察は混乱状態となる。


「くそ!!? 放火犯はどっちだ!!?」


 困ってる警察官に子供達が教えた。


「あっちだよ。」


 その言葉に警察官は御礼を言って向かう。


「地獄があっちなんだけどね。」


 子供達は皆、サーリャの味方であった。


 一箇所に集められた警察官は催眠ガスで眠って貰う。


「小奴らは働き者の善人であろうか? それとも、税金欲しさに命を賭けてないゴミか、今は放置しといてやるぞ。さて、我は我で悪人を殺してやるとするか………」


 サーリャは交番の中に通報人として入り込めば部下を顎先で使う上司を騙して殺害していった。


「天誅じゃな。」


 銃を手に入れれば、次からは警察を射殺していった。


 国中にサーリャの顔が売れてしまう。


「はっはっはっは、このままこの国の警察は我が全員殺してやるわ~!!」


 その大声が囮とも知らずに国王や重役らは己の欲望を優先した。


 食欲旺盛な者は美味な料理を貪り、性欲の強い者は風俗に通った。


 元警察の男は国王や重役達を殺害した後で、国の悪政に縛られていた善良な警察官達を叩き起こす。


「お前ら!! いつまで寝てるんだ!! 令状だぞ!! 毒親共を全て逮捕にして死刑にせよ!!」


 元警察の男は腹心を起こして令状を渡した。


 これにより、たくさんの問題ある両親や欲望だけで子供を生む猿のような親も逮捕された。


 全員がとりあえず、死刑となり、子供達は帰る家を手に入れることができた。


「とりあえず、皆で野良仕事をしますよ。牧場は我ら警察が頑張ります。」


 思ったよりも楽しめたが、物足りないサーリャは大いに頷いて言う。


「お主が居れば国が再び悪政に陥っても子供達は守られるであろうな。」


 皆が幸せそうに笑っている中で、事件が起こる。


「姫様、お、お逃げ、ください………」


 アドラスがボロボロになりながらもサーリャのために知らせてくれた。


 サーリャは負傷しているとはいえ、アドラスがやられたことに驚いた。


「アドラス!!? 貴様がやられるなど、一体、何があったのじゃ!!?」


 サーリャはアドラスを抱き起こした。


 そして、アドラスからあるものの名を聞いて青ざめる。


「探しましたよ。サーリャ様………」


 その男は黒と金の甲冑で見を包めていた。


「誰かと思えば、お主か………ラバルドア!!」


 サーリャが眉間を狙って不意打ちを仕掛けたが簡単に避けられてしまう。


「外したか!!?」


 サーリャがラバルドアの背後を取り、構えると『ゴフッ!!?』と口から血を吐き出していた。


 気がつけば腹部を刺されていた。


「外しましたよ。心臓を………」


 ラバルドアはサーリャの顔を掴み上げる。


 それを見て静観できぬ元警察の男が立ち向かおうとした。


「がはッ!!? く、くるな………これは、我の問題じゃ!!」


 サーリャは男を静止させた。


 意識は朦朧としている中で、サーリャの目から闘志は消えていない。


「勇ましいいですね。ですが、あなたは我が主のペットになる宿命なんですよ。」


 ラバルドアの言葉にアドラスが必死に言う。


「き、貴様、サーリャ様の父親なのであろう!!? サーリャを………自分の娘を人身売買して親を名乗れるのか!!? ガハッ!!?」


 アドラスも一撃を受けて気絶してしまう。


「フン、この二匹を売ればしばらくは遊んで暮らせるな。今どきの親は娘を男共に売らせて金にするんだよ。しかも、サーリャ、喜べ、お前は信じられん程に高く売れる。俺の娘でありがとうよ。大丈夫だ。道徳とか倫理だとかは、買い手にはわからん。奴らは性欲のために金を払い。貴様を慰めにする。全く俺は運がいいぜ。最高だ!!」


 サーリャとアドラスは連行されてしまう。


 二人共瀕死の重傷で抵抗もできない。


 それを見守ることしかできなかった。


 元警察の男は嘆いた。


「ち、畜生!! 国のために無償で手を貸してくれた少女が、なんて仕打ちを受けなければならないんだ!!」


 そんな時に、一人の少女が現れた。


「さ、サーリャの匂い!!? こ、これはサーリャの血!!? な、何が、何が遭ったの!!?」


 そう、ラフィーリである。


 元警察の男が事情を話すと、ラフィーリはサーリャの連れ去られた方角を向く。


「東ね!! サーリャは物じゃないわ!! 絶対に許さない!! 待ってなさい。今すぐ助けるから!! サーリャは私の物なんだからね!!」


 ラフィーリは圧倒的な魔力でサーリャの方向へと飛んで行く。


 ラフィーリの欲望に元警察の男は自分も向かわねばならないと思ったのであった。

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