第7話 理論上無限と闇医者の烙印

 ドーピング戦士がサーリャを探す中で、アドラスは業火をサーリャに託した。


「225000000ヨタバイトジュールを集めようとしてしまったが、この高密度エネルギーを奴に叩き込んでくれる!!」


 先程、アドラスが過電流を覚悟で集めたエネルギーを掻き集める。


 因みに、225000000ヨタバイトジュールとは、地球を破壊するエネルギーのこと、しかし、サーリャがそれを止めたために中途半端な超エネルギーが体内に残ってしまった。


 地球を壊すエネルギーなら、核を超える破壊力があるだろう。


 だが、サーリャから新たな策を授けられた。


「おい!! そこのドーピング野郎!!」


 アドラスの挑発にドーピング戦士が振り返る。


「ん? なんだ、雑魚野郎?」


 最早、ドーピング戦士はアドラス達に興味を失っている様子だ。


「俺の最高の技って訳じゃないが、貴様もこれで終わりだ………」


 アドラスが高密度に蓄積したエネルギーの集合体を手から生み出した。


 それを見て、ドーピング戦士が言う。


「俺をそんなエネルギーでか? 笑わせる。もう、飽きた。一瞬で殺してやる!!」


 アドラスが静電気を周囲に飛散させる。


 つまり、『      』させられてしまう。


 これにより、ドーピング戦士とアドラスの距離が      となり、アドラスが攻撃する機会が得られるだろう。


 それを見ていたサーリャも急いで取り掛かる。


「アドラスの馬鹿者め!! 我に時間も与えぬつもりか!!? 全く、どっちが姫でどっちが従者なのかわかったものではないぞ!!」


 アドラスが即座に挑発して見つかったために、サーリャは作業を急ぐ。


「とりあえず、アドラスから貰った業火の中で石炭を燃やす。そして、水を入れてこれを我の魔力で圧縮する。時間が足りてるとは思えぬが、間に合うのか!?」


 サーリャは魔力で枝分かれした部屋を作る。


 石炭は真っ赤になり、水は水蒸気となる。


 サーリャの中では、この時、一つの懸念が生まれていた。


 それに気付くと思っていたのが落とし穴だった。


 アドラスは脳筋故に、それにすら配慮をしない。


「だが、一番の問題は、これを奴に当てなければならないということだ!!」


 考える時間を与えてくれないアドラスに対して、珍しくサーリャは焦りを見せ始めている。


 アドラスが理論上、無限のエネルギーを放った時、ドーピング戦士の動きが止めるはず、そこを狙い撃ちするしかない。


 だが、有能な人材は運良く、他にも居た。


「あ、あれは!!? そ、そうか!!」


 降参した賊がサーリャの策略に気が付くと、旅人の女性に訪ねた。


「君、卵の殻でもチョークでもなんでもいい!! なにか、炭素が含むものはないか!!?」


 女旅人は何がなんだかわからなかった。


「た、炭素ですか!!? え、えっと………」


 アドラスが攻撃を仕掛けようとする。


「喰らえ!! これが理論上、無限のエネルギーだ!! インフィニティ・レイ!!」


 アドラスがエネルギーの集合体をドーピング戦士に向かって放つ、その理論の仕組とは、『       』である。


 これにより、理論上は無限のエネルギーとなり、発生源のエネルギーもアドラスが地球を破壊するために生み出した超エネルギー、さすがのドーピング戦士もこれにはダメージを受けるはずだ。


「あのバカ!! もう攻撃を仕掛けおったのか!!?」


 サーリャの準備は半分程度だった。


 仕方なく、サーリャも攻撃を合わせようとするもドーピング戦士は、そのエネルギーの中でもなんとか歩みを進めていた。


「ふっはっはっはっは、残念だったな!! 俺の肉体も改造されてな。理論上、無限の防御力を持っているんだよ!!」


 動きは一瞬止まった。


 しかし、ドーピング戦士が歩いてくれば、それは徐々に加速し、仕舞には全速力で走り始める。


「ば、化け物じゃ!!?」


 サーリャがそう呟いたときには、アドラスが吹き飛ばされていた。


 ドーピング戦士の理論上、無限の防御とは、装甲の中に装甲を用意し、ある形状にして重ね合わせる。


 その『形状』に無限を生み出すことができる。


 これは、『     』といい、ある生物がこれを身に着けている。


 その防御力に目を付けてしまった闇医者がいた。


「あ、あんなヤツを生み出したというのなら、我は本当に吉の方位を進んでいたと言うんか!!?」


 サーリャはヤブ医者の住む村を一瞥する。


 もし、そんな有能な闇医者が存在するなら、ドーピング戦士にかまってる暇はないのではと考える。


 そんなサーリャの背後に賊が忍び寄る。


「残念ですが、その闇医者は私です。」


 サーリャは作業中で様々な思考に襲われていた。


 作業量は20人分を超えているかのように頭はパンク寸前だった。


「サーリャ様!! これを使ってください!!」


 賊である闇医者が渡したのは、一つの試験管だった。


「いいですか!!? サーリャさんは迷わず攻撃をしてください!! それが決まれば、奴は必ず、大きく息を吸います!!」


 それを聞いてサーリャは戸惑いながらも返答する。


「さ、左様か!!? な、なにがなんだかわからぬが、我の杞憂だったわ!! 全く、アドラスめ!! 我を取り乱せおってからに!!」


 サーリャが再び戦況を見るとアドラスが瀕死の状態であった。


 サーリャは一つの賭けに出る。


「ドーピング戦士よ。貴様もこれで終わりよ。」


 その冷静で小さな声に振り返ると賊の闇医者が太陽の光を反射させてドーピング戦士の目を照らした。


「なッ!!?」


 ドーピング戦士が一瞬目眩を起こした瞬間であった。


「サーリャ様!! 今です!!」


 賊の闇医者の掛け声に合わせてサーリャが魔力で相手を包み込んだ。


 先程の魔力空間には、一酸化炭素が生成されており、枝分かれした空間、つまり、一酸化炭素以外の物質は余所へと切り離した。


 一酸化炭素はヘモグロビンの酸素を求めて強制的に結合する。


 これにより、ヘモグロビンが運んでいる酸素が二酸化炭素となる。


 更に、酸素はO₂であるために、一酸化炭素がもう一つ結合してしまう。


 一つのヘモグロビンで2つの二酸化炭素が運搬されてしまう。


 ドーピング戦士の体や脳に二倍の二酸化炭素が運ばれてしまう。


「い、息が!!!? は、はぁあああぁあああ!!!」


 ドーピング戦士が魔力の結界を破壊すると酸素を求めて息を吸う。


 そこに、闇医者がくれた試験管をドーピング戦士に思いっきり吸わせた。


 これも同じく一酸化炭素、それを吸い込んだドーピング戦士は酸欠となり、気絶した。


「ふぅ~~~、全く、アドラスのバカめ、相手はヘモグロビンが三倍以上の戦士だと言ったであろうに!!」


 そう、ドーピング戦士を倒すには、人間の致死量の三倍は必要であった。


 アドラスはそこを計算していなかった。


「しかし、なぜ、闇医者のお主が我らを?」


 サーリャが尋ねると闇医者はアドラスを診察している。


「サーリャ様!! アドラス様は危険な状態です!! 私は闇医者ですが、アドラスを救ってみせます!! どうか信じてください!!」


 サーリャは闇医者を一先ず信じることにした。


 道具も薬品もほとんどない状態で応急処置を施してしまう。


 サーリャはその合間にラフィーリも運んでいた。


「よくわからんが、こやつも診てやってくれぬか?」


 サーリャの良心に闇医者も頷いた。


「本当は私も純粋に患者を助けたかったのです。しかし、私は検査だけのヤブ医者文化に嫌気が差したんです。そして、免許を返上しました。それからは闇医者呼ばわりされたのです。」


 話を聞けば、闇医者は優れた医学を持っており、秘薬も開発していた。


 当然、ヤブ医者たちは優れた名医に闇医者のレッテルを貼ったのである。


「あいつは免許も持ってない医者なんだぜ!! 闇医者注意!!」


 やがては、国の言葉に従うしかなくなった民たちは、闇医者を避けるようになった。


 それどころか、後ろ指を差してくるようになってしまったのだ。


「そして、私は医者をやめて賊となり、この国を変えようとしましたが、私には才能がありませんでした………」


 世の中には、仕方なくと甘えて生きているゴミ民が多い。


 悪事を働いて金を得る。


 それは仕方のないことなんだと、自分に言い聞かせている。


 そういう、自分に甘いクズ人間たちが闇医者を救わなかった。


 そのことに、サーリャは溜め息を付いて言った。


「どうやら、あの村には、お主のような仕方なく悪に従うクズ共で溢れているようだな。」


 サーリャは続けて言う。


「旅の女はお主と違って手を汚してはおらぬ。これからは、この女医の下で多くの患者を救うといい!!」


 賊の男は地面に頭を打ち付けて感謝した。


 村は数日もすれば、闇医者のことを名医と呼ぶようになっていた。


「これで、心の弱い連中が正義に歩めばいいのですがね。」


 そのアドラスの言葉を聞いたサーリャはこう返した。


「闇医者と言われながらも奴は戦おうとした。才能はなかったが、やつには医学の才能がある。今回はお主よりも医学の才に助けられた。いや、化学科もしれんな。」


 アドラスは耳が痛そうな顔をしてサーリャと共に次の街を目指した。


 数日後にして、ラフィーリが目覚める。


「さ、サーリャ様!!? サーリャ様はどちらに!!!?」


 ラフィーリは机の上に置かれた書き置きが目に入る。


「さ、サーリャ様の書き置きですわ!!!?」


 ラフィーリはそれだけでご乱心になり、急いでサーリャを追いかけたという。


 サーリャの旅は前方に悪事、後方からはストーカー、旅のお供は脳筋と並の者なら頭痛の種であろう。


 しかし、悩んでいるのはアドラスの方であった。


「おい、アドラス、重症でも姫を護送せよ。わかっておろうな!!」


 サーリャは怒り心頭でアドラスを扱き使ったという。


「ひ、姫様!! こ、腰が!!?」


 サーリャは馬車の中で寝転がって葡萄を食べて寛いでいた。


「無能なアドラスをこき使うのは最高じゃ~~~~!!!」


 この通り、ストレスはまったく無く、満面の笑みで至福の時を過ごしていた。


 サーリャ的には、アドラスが居ないほうが楽なのかも知れない。


 次の街でのアドラスに活躍は期待できるのであろうか?

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