第4話 やぶ医者と名医

 サーリャは馬車の中から振り返って景色を眺める。


「アドラスよ。あの城壁はここから見てもさぞ堅牢じゃな。悪人が生まれぬうちは平和であろう。」


 アドラスは手綱を引きながら答える。


「サーリャ様の教育が浸透しています。世代が変わるまでは安泰でしょう。」


 サーリャは悪態を付いた。


「フン、人間なんぞ。ゴミクズよ。どうせ、また、税金だの闇金だの、不正に生きる悪党どもが現れる。おまけに、税金という名の賄賂に騙されるクズどもも現れれば、警察も民から金を奪い、女を食い物にする。それが人間よ。」


 馬車の窓を空けて両足を掛け、寝転がる。


 アドラスは言う。


「しかし、こんなボランティア活動をいつまで続けるつもりですか? もう大陸の半分を遠征してますよ? 大陸全てにサーリャ様の名を広げるつもりで?」


 サーリャは呆れて答えた。


「お主がもっと優秀なら我の名前は既に広まっとると思うぞ。何が言いたいかわかるか?」


 アドラスはサーリャの行っていることが理解できなかった。


 サーリャは呆れて言う。


「貴様が真面目にやれば、とっくに帰ることができたというわけじゃな。お主のせいで大陸全土を回る羽目になったのであろう!!」


 アドラスは己の無能さを棚に上げて言い返す。


「えええ!!? そ、それは言い掛かりです!!」


 サーリャは葡萄を手に取ると一粒口にして言う。


「こうだらけていると眠ってしまいそうだ。」


 サーリャがまったりしていると、アドラスが急に馬車を止める。


 サーリャは座席から急停止の反動で転げ降りてしまった。


「何事じゃ!!?」


 サーリャが倒れた馬車から顔を出す。


 すると、一人の女が賊に囲まれていた。


 賊はサーリャも囲んできた。


「う~む、よくわからぬが、追い剥ぎか?」


 サーリャが状況を尋ねるも問答無用で飛びかかってきた。


 サーリャは馬車を貰ったためにアックスを置いてきた。


 故に、アックスはない。


 サーリャはナイフを取り出せば、倒れた馬車にナイフを置いて手を挙げる。


「へ、聞き分けのいい女じゃねぇか!! 賢明な判断だぜ!!」


 賊がサーリャの潔さに調子付く、しかし、サーリャは賊の包囲を突破する。


 すると、賊は無惨にも切り裂かれてしまった。


「な、なんだ!!? 奴はナイフを手放したのではないのか!!?」


 賊が身構える。


「いや、切ったのは我ではないぞ。あ奴じゃな。」


 サーリャはアドラスに手を向ける。


 何もしてないアドラス驚いて言う。


「え!!? えええええ!!? 私ですか!!?」


 賊は本気で驚いてるようにしか見えないアドラスを見て、逆に戸惑う。


「よくわかんねぇが、ここは撤退だ!!」


 一人の賊が逃げようとする。


「いや、待て!!」


 冷静な賊は撤退を取消そうとした。


「馬鹿か!!? こんな連中を相手にしてたら、命が危ないぜ!!?」


 逃亡を計る賊の体が引き裂かれた。


「ほぉ~、逃げても無意味と悟ったか、さて、お主らは何者か教えてもらおう。教えなければ、痛い目に遭ってもらうとしようか………」


 サーリャが賊の覆面を取り外すと醜態を晒すような顔ではなく、思ったよりも整った顔であった。


「ほほぉ………お主、いい人相をしておるな。お主ほどの善人が賊のマネごとをしている?」


 賊は黙り込んでしまう。


 そして、口を開いた。


「俺を殺せ!!」


 サーリャがそれを聞いて、賊を殺そうとした。


 サーリャが目指してる街では名医と言われる医者が民を病から守っていた。


「はい、次の方………では、来週、来るように………」


 名医と言われる医者は仕事が早く、評判であった。


 しかし、やたら長引くために、中には通院をやめる者たちが現れる。


 通院をやめると軽い皮膚鍼の表情が現れてしまい、再び通院する羽目になる。


 やぶ医者と言われている病院では、検査が多くて時間もかかり、検査料金をたんまりふんだくってくる。


 この街の医療はまずまずで、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというクズな医者に溢れかえっていた。


 やぶ医者たちは集まっていう。


「おい、あの名医とか言われてる医者をどうする?」


 やぶ医者たちはどうやら患者を独占しようとしているみたいだ。


「無論、免許を持たない奴は全員死刑にし、俺らだけの天下にする。そうすれば、検査薬品も余らずに使いまわして金が永遠に流れてくるぜ。」


 まるで、日本の今ある老害医師たちのような未来を目指しているようだ。


「そうそう、有能な医者はいらない。俺達は無能だとしても有能と威張り散らせばいい。免許も取れないよう難題な試験にすれば、俺達以上の医者は現れねぇ!!」


 今の医者は知識だけで、医学を理解している訳ではない。


 寧ろ、魔女と言われた者たちの方が医学を理解していた。


 しかし、中には患者を実験動物のように扱うものも居た。


 無論、魔女は国から支援を受けているわけでもない。


 患者には、この方法なら可能かもしれませんが、これは試したこともなく、結果がわからない。


 そう、患者に説明したとしよう。


 それを承諾して金も貰わずに治療をしたが、最悪の結果に終わってしまう。


 そうなった時、患者の亭主が悪人であれば、それを国に訴えて国がその揚げ足を取り、死刑にする。


 気がつけば、無能な国からは魔女とレッテルを貼られるのだ。


「おい、お前、とりあえず、今日はこの検査をして、他の検査はできないと言い張り、凌げ、俺は二日酔いで頭が痛い。後はなんとかしろよ。」


 やぶ医者は素人にそう教えて女遊びに精を出した。


 素人は適当に検査をしては、検査に引っかかった者には薬を出した。


「はい、陽性ですね。では、この薬をどうぞ。」


 無論、やぶ医者もこれと同じである。


 やぶ医者はこれに検査キットが多くなっただけの存在でしかない。


 そんな時、一人の重病患者が現れた。


「た、頼む、もう死にそうなんだ。助けてくれ!!」


 しかし、素人医師は重病患者を受け入れなかった。


「だめだ!! 今は検査できない。さっさと帰れ!!」


 重病患者は余りの痛みに耐えかねて暴れ回った。


 そんな患者を素人医師は足蹴りしたのである。


 この酷い仕打ちをたまたま通りかかった旅人が重病患者を庇った。


「な、なんて酷いことを!!」


 素人医師は一言言い捨てた。


「うるさい!! そいつを連れてとっとと帰れ!! たく、こっちは定時で帰りたいのによぉ………」


 その傍若無人には、旅人も驚かされた。


「あ、頭が、頭が割れそうだ!!」


 旅人は真の名医であった。


「頭!!? 吐き気は!!?」


 真の名医は名医と呼ばれる医師を頼った。


 その医師は旅人に医療器具を貸し与えて手術を任せた。


「これより、術式を開始します。」


 旅人の手術は神技であった。


 患者の脳に脳腫瘍が存在した。


 術式を施せば、男はスッキリした様子で出てきたという。


「先生、あの割れるような痛みはなくなったよ。ありがとう。」


 手術した後なので、その痛みは残っているが、男は冷静さを取り戻すことができた。


 そんな出来事があり、旅人の医師は命を狙われるようになってしまったのである。


「なるほど、それでこちらの女旅人は追われていたという訳じゃな。」


 サーリャがすべてを知れば賊を殺すかは天に任せた。


 天の声を聞くために占えば、この賊は殺してはならないと出てしまった。


 こちらも訳ありなのやもしれん。


 そう思ったサーリャはとりあえず、生かしておいた。


 アドラスがサーリャに尋ねる。


「姫様、あの街のやぶ医者共をどうなさるおつもりで?」


 サーリャは答える。


「わかりきったことを聞くでない!! 悪は即座に罰する!! 法律で殺人を許さぬといい、国が悪人を裁かぬなら、その国は我が裁く!! ふざけた連中には天誅をくれてやるわ!!」


 こうして、サーリャとアドラスは老害の蔓延るやぶ医者たちを成敗に向かうのである。


「みぃ~つけた。サーリャ………サーリャサーリャサーリャ!!」


 なにかキーンという音が鳴り響いたかと思えば、サーリャとアドラスは意識を乗っ取られてしまう。


「やっと、やっと、やっと手に入れた!! サーリャを私はもう二度と手放さない!!」


 ラフィーリが現れた途端に状況は一変した。


 そう、サーリャがラフィーリに敵わない理由、それは、出逢えば問答無用で操られてしまうからである。


「サーリャは私の素敵なお人形なんだから、逃げたらだめだよ。」


 ラフィーリの言葉に操られたサーリャが返答する。


「はい、サーリャはラフィーリ様のお人形です。ラフィーリ様に寂しい思いをさせてしまっただめなお人形です。」


 ラフィーリはサーリャを見ての通りに狂愛していた。


 サーリャ運があったとすれば、互いに女性であったということであろう。


 果たして、サーリャと旅人の運命は一体、どうなってしまうのだろうか………

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