エピローグ
日の沈んだ世界にある、吉備の神社。
神木はぼんやりと輝き、白い葉を踊らせるほどの風が、優しく吹いていた。その周りでは、苦楽を共に過ごした射手達と、射手守の姿があった。
そこでは盛大なパーティーが行われ、現在はその真っ只中。並べられた色鮮やかな料理に、みな華やかに舌鼓をうっている。周囲には眩いほどに光を灯らす提灯がユラユラと浮き、それに照らされる宴会場。
みな騒ぎ、舞い、至福のひと時を過ごしているかのようである。
「みなさ〜ん、このわたくしが、今から歌を歌い、舞を踊りますわ~!!」
騒ぐ場の中で、我が道を突き進む「星城 麻里奈」。そのドリルのような金髪の巻き髪をゆらし、進むは芸の道かと。
しかしそれを見て楽しむ、「水無瀬 静香」と「水無瀬 周」、赤いメッシュをギラつかせながらも、ガブガブと酒を飲む静香。隣には黒髪を指でイジリながらも、周が寄り添っていた。
「いいですね! 僕も踊りましょうか!?」
「珍しいね〜腹踊りでもする気かい?」
「いえ、振られた気晴らしですよ!」
「じゃあ浮気未遂だなあ、おんぶ!!」
「ええ? もしかして静香………ああ、焼酎をこんなにも飲んで………」
そう。弥生は周とお茶会をしたものの、周はあっさりと振られてしまい、その心意気である。しかし彼はくじける事はなかった。それはすでに愛しき人がいるのだから。
また静香も知っていた、その心では、繋がっている事を疑いもしていないのだから。
そしてここにも………。
「亮介しゃ〜〜ん! だっこ〜〜」
「おいこら、飲みすぎだぞ、ゆり子!!」
「いいじゃな~〜い、夫婦ですよぉ~?」
「人前ではやめろ! おいこら!!」
顔を紅く染め、袴姿の「神谷 亮介」にへばりつく、キツネ色のポニーテール。「神谷 ゆり子」の結んだ髪はゆらゆらと、それは幸せそうに踊っている。
そして―――。近くの長椅子に腰掛ける2人の巫女は、その姿を羨ましそうに見ていた。
顔を火照るように染めた「霜月 紗雪」が、しきりに水を飲んでいる。その隣には「朝倉 弥生」が心配そうな表情で、横顔を見つめていた。
「いいわね。夫婦って」
「あれ、おウマさんはどうしたんですか?」
「それはそれ、これはこれ」
「うーん。よくわかんないです」
紗雪はのっそり立ち上がると、フラフラと歩き始める。慌てた弥生は、その身体を支えるように、紗雪に寄り添った。
「弥生ちゃん。勝負しましょ」
「しょうぶ? 恋人を作る勝負ですか?」
「馬鹿ね。弓道に決まってるで――――しょ」
「あああああ! さゆきさ〜〜ん!!」
***
その光景を、本殿の屋根の上から眺めていたのは、白いキツネと、白い柴犬。
中間世界に陽の光が戻ったことにより、神達はまた、違う役目をになっていた。
「それにしてもじゃ。これから先はどうするんじゃ?」
「そうね。黄泉の国にでも、遊びに行こうかな~って」
「それはそれは………しかし、ワガママにもほどがあると思うがの、天津神としての
「まぁね〜。でもおかげで、願いがかなったわ」
ミコトは呆れたように、ため息をはいた。
白い柴犬は起き上がると、尻尾を振る。
「妾はもう自由よ! ねえミコトっち?」
「困ったものじゃ。みなが聞いたらさぞ怒るじゃろうに」
「そうね……でも、あの娘をみてると、昔の妾を思い出すの。それは何も知らない、陽だまりのような無垢な心を持っていた頃をね」
「さぁての、クワバラクワバラじゃ」
白い柴犬は本殿から飛び降りると、回廊の屋根を伝い、弓道場を目指した。
顔をしかめた白いキツネは、それを追いかけるように駆けりだす。やがて―――――。
『本当に、身勝手なお方じゃ……』
『ふふふ。さぁ勝負よ、ミコトっち!』
その者は
和弓に魅入られしその心は、時を忘れ、恋だと錯覚するほどに焦がれてしまう〝魔〟である。その魔を宿す者こそ、
その職業は、世間では認知されていない。弓を振るい念を鎮め、富を祝い、まるで歌うかのように風を鳴らす所業。それを退魔の射手と呼んでいた。
だが、陽の光が戻ったこの世界での名は、
弓をしならせ、その
的中とは偶然か必然か。それを知るすべは、定かにある。
――――― 退魔の射手 ―――― 終。
退魔の射手 〜かぐらの巫女〜 もっこす @gasuya02
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