第24話

「ロマンチックだよね~。認め合った関係どうしで、誓いのキスをしちゃんだもんね!」

「………すやすや」


 使い魔とキス? うーん、なんともいえない気持ちです。

 でもそしたら……紗雪さんは牛とキスを!?


「弥生サン。もし次に異形の化け物が現れたら、射手達についていってくだサイナ!」

「もうちょっとしたら道具が届くはずだから~。それが届き次第になると思う!」

「えっと。化け物の近くへと、使い魔が集まって来るってことですか?」


 赤い勾玉をぶらさげた、タキリ様が首を横に振る。


「使い魔との出会いは、ホントに運。つまり運命なのデスヨ。中間世界をウロウロしていれば、出会う確率も向上するのデスヨ」



 *



 私は物思いにふけっていた。桟橋に座り、深緑の海にポツンと浮かぶ、紅い鳥居を眺めながら。

 退魔の射手になるためには、使い魔との絆が必要。それはキスをすることで絆が結ばれる。それはそれで、別にいいと思うんだけど、私が悩んでいたのはそこじゃなかった。


「はぁ……私、化け物と戦えるくらい、弓が上達しているのかな……」


 弓の稽古をしていた期間は約二か月。朝から晩まで練習していたけど、28メートル先の的に当たる矢の数は、80本くらい射って5割以下。紗雪さんや、ゆり子さんは8割9割的に当てる。こんな私で大丈夫なのかなって考えてます。


「おやおや、何か悩んでいるみたいだねぇ?」

「……水無瀬お姉さま」


 相変わらず大人の魅惑が素敵なお姉さま。私の横に座って、心を見透かしたかのような表情で、笑ってくれた。


「あたい、弥生の気持ちがわかるよ。弓の腕の事で悩んでんだろ?」

「はい、そうなんです。私、矢のコントロールがまだまだ下手だから。狙ったところに飛ばないんです」

「なるほどねぇ……でもさ。正直実際の弓道と、異形と戦うための弓術はちょっと違うんだよ」

「え?」


 その言葉に海を眺める、お姉さまのほうに顔を向けた。


「使い魔と絆を結んで持つ弓はちょっと特殊でね。うまく説明できないけど、格段に弓が扱いやすくなるのさ。それは使い魔と繋がると分かる事だけど」

「じゃあ、少しは弓が上手くなるってことですか?」

「まぁ簡単に言うとそうだね。ちょっと来なよ」


 お姉さまは立ち上がると、私についてくるように言いました。どこに行くのかと、お姉さまの背中を追いかけます。桟橋を踏むたびギシギシと音が鳴る。しばらく歩くと―――。


「ここって、弓道場ですか!?」

「そうさ、だから今から練習するよ。あたいがしごいてやるよ!」


 私のほうを見て、お姉様はニッコリと笑った。その時のお姉さまは、頼れる感じで、とってもカッコよく思えましたぁ!! 

 波打つ深い緑色の海。その上に浮かぶ弓道場は、やっぱり素敵な場所だった。桟橋に沿うように作られた、射場と的場。それを挟むように緑色の海。もし矢を落としたら水没しちゃうかも。

 まるで街路灯のように設置された松明の灯り。建物の輪郭がわかるくらいに、くっきりと弓道場を照らしていた。


 射場の玄関、引き戸をガラガラと開けて中に入ると、そこは控室のような空間。でも、隅っこに8畳ほどの畳が敷いてあって、なごめちゃう感じ!

 右側には綺麗なフローリングの射場があって、仕切りをまたいで神棚を探します。


「あれ? 神棚がないです……」

ゆうかい? それなら、本殿のほうに向かってするんだよ。それがこの弓道場の神棚代わりさ」


 神棚がないかわりに、さっきいた建物に体を向けて浅い礼をした。

 的場を見てみると、そこには安土のかわりに部厚いクッション、マットレスみたいなものが敷きつめてあった。


「うわぁ! 雰囲気が違う。でもなんだか楽しそうです!」

「はっはっは! あたいもそうだけど、弥生ちゃんは本当に弓道が好きなんだね〜。技術が向上したら、射手の仕事は抜群に向いてそうだねぇ」


 的場を眺めていると、空には大きな黒い鳥。パタパタと飛んできて、だんだんと近付いてきて……矢道にゆっくりと着水した。カモさんみたい。


「でっかいカラスさん!?」

「届いたようだね。他の荷物は降ろしてきたのかい?」

「おうさ。さっき本殿に置いてきたっぺ、ここにあるのは全部弓具だっぺ」


 背負っていた大きな風呂敷をクチバシで咥えて、ゆっくりと射場に置くと、元気よく空にとびたちました。足が3本もある、不思議なカラスさん。

 和弓よりデカかったな………身体の大きさも3メートルくらいあったし。それに、宿屋にいたカラスさんと同じ喋り方だし。


「弥生ちゃんの弓具だけみたいだね。ほら、開けてごらんよ」

「はい!!」


 風呂敷を開けると、いつも使っている弓具が一式入っていましたぁ!! 

 おかえりなさい、私の和弓ちゃん。あれ、でも胸当てはあるけど袴が入ってない……うぅ、私の弓道着。


「袴なんていらないさ。もう巫女姿だろぉ? この世界では、それがユニフォームさ」

「あ……そうですね!!」 


 そうだった。ここは中間世界で、現世の世界じゃなかったんだ。


(忘れるくらい、楽しいって思ってたんだ。やっぱり和弓は凄いや!!)


 



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る