第5話

「よし、片付け完了っと!」


 手狭なアパートの一室を清掃し、片付けを終えた。これは吉備の神社に就職が決まったことで、引っ越しをするためだ。


 敷地内にある、寮のような建物へと引っ越すんだけど、神谷かみや亮介りょうすけさんが手配してくれた、引っ越し業者が来てくれている。

 あ、亮介さんはあのおっさんのことで、紫色の袴を着てて、無愛想な人なんだ。

 ちょっと苦手なんだけど、ゆり子さんの旦那さんだから、きっといい人だと思う。たぶん。


「お〜い朝倉さん、このダンボールで最後かい?」

「あ、はい。あとは私が持っていきま〜す!」

「よっしゃ分かった。おい下っ端ぁ、トロトロせずこれ持ってけぇ!!」

「へい、親方!」


(あはは……ガテン系って、やっぱり勢いあるわ~。でも、なんだか楽しそうに働いてる!)


 私はリュックを背負う前に、忘れ物がないかの確認をする。あ、乳液はあるけど、洗面所に化粧水を置いたままだ。


「あぶないあぶない」


 あの神社には様々なルールがあって、頻繁に外出が出来ないんだって。ちょっとコンビニへとかも駄目。

 それに、敷地を囲っているのは結界らしくて、関係者以外立ち入り禁止。まるで工事現場みたい。

 スマホの電波も敷地の中だと届かないんだって、色々と不便な気がするんだけど、仕方ないかな~って思う。といっても、もともとスマホを触らないから大丈夫。


 私にはよくわかんないルールだけど、やっぱりちょっと特殊な神社なんだってさ。

 でもね、ワクワクしてるんだ。新しい生活が、私を待ってるから!


「お父さん、お母さん。私、就職できたよ! 危険な仕事だけど、でもやりたいことなんだ。だから天国で見守っててね」


 下駄箱に置いてあった写真立てをバックにしまう。

 お気に入りの白いスニーカーを履いて、白いパーカーに、紺色のデニム。トドメはブラウンのカーディガン。


「よし! やよい出勤します!」

 

 勢いよく玄関を出ると、トラックの横にいたガテン系の親方が、満面の笑みで見送ってくれる。

 それが、なんだか嬉しくて。思わず手を振っちゃった。


「おう! 後の事は任せとけ。いってらっしゃい、お嬢ちゃん」

「夕方には荷物を届けとくッスから〜!」

「うん!! いってきまぁ〜す!!」


 晴天の空、心地よい春風。春だ、私の春。

 嬉しい気持ちがいっぱいで。

 黒いアスファルトの道路を駆け抜けていく。

 風を感じて、今まで曇っていた気持ちを、かきわけて―――



 ***



 その職種は、世間では認知されていない。

 それは、選ばれし者によるものなのか。

 しかしその素質は、誰にでもあり得るもの。 

 人の念を貫き、災いを振り払うべく、その弓を振るう。

 それはかけに宿る、神の力があってこその所業。


 神の使い、否。〝退魔たいま射手いて〟と証される。

 

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