第2話 外出

 まずは同封されていた「透明化ガイドブック」を読む。なるほど、透明化には利用のガイドラインとルールがあるとのこと。簡単な話だ。つまりはこれを用いての犯罪は絶対に許されない。姿が見えないことで悪事を働かぬよう、その対策として運営側が探知できるようにICタグが胃の中に装着されるらしい。この企業は非常に高いリスク管理とモラルがあるのは安心できる。しかし待てよとページをめくる指が止まる。

「タグ? 胃の中に装着?」

 慌ててスマホを取り出した。すでにカプセルは飲み込んでいますよ、私。焦りと同時に怒りがわいた。自分の体内しかも大切な消化器官に一体何をやってくれたのだと、場合によってはクレームを入れる必要がある。しかし読み進めるとタグは自然由来の身体に優しい素材なので2ヶ月で無事消化されるとのこと。深呼吸をしてスマホを元に戻した。とにかくこのシステムで利用者の動向は調べられ、怪しい動きがあれば即座に利用中止の措置を取られるとのこと。

 その他のルールもあるが事細かに挙げるとキリがない。例えば「路上では相手側は姿が見えてないので最新の注意をすること。透明化による利用者の行動によって生じるいかなる損害も当社は責任を負いません」という免責事項が長々と記載されていた。それらは軽く流し読みをした。


 とりあえず、外に出てみる。つべこべ考えたところで仕方がない。やってみるに越したことはない。透明だ、なんだの言っても家の中にいても始まらない。外に出ることで多くのコンタクトがあり、発見することや学ぶことはあるだろう。マンションの敷地を出て、歩道をしばらく歩くが、すれ違う通行人はまるで目を合わせようとしない。

(見えてないのだ)

 こちらが避けないとぶつかりそうになる。透明化は生身の体だけでなく衣服や靴も透明になるため、本当に見えていないのだ。

(これが見えてないということなのだ!)

 空を見上げた瞬間に風が横を過ぎてパーカーを着た男のフードが顔に当たった。この通り、意外にも危険であるとわかる。日常でもたまにスマホを見ながら前を向かずに歩いてくる危ない人はいるが、スケルトンになると全員が前を向きながら突進してくるのだ。また後ろからの自転車も恐ろしい。なにせ見えてないのだからノーブレーキで向かってくる。全て自分で避けないといけないのは大きな誤算だった。

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