第18話 最初で最後のデート②
「はぁ……はぁ……あ、すごい」
「うわ〜〜! すごいね〜!!!」
年中運動不足の身体で息を切らしながら、私たちは駅前の通りまで辿り着いた。
駅前の広場は光の実った木でいっぱいになっていた。街路樹の枝など至る所に括り付けられた電球が煌々と黄金の光を放っている。
でも私には、まるで夢の中にいるようで全く現実味がわかなかった。
仲良く手を繋いで歩く家族連れ、噴水の縁で人前にも構わず唇を重ねるカップル。
でも、どれも私の中にはないもので、この煌びやかな光景をどう受け取ったらいいのか困っている。ただ、すごいとか、綺麗とか、漠然とした感想しか湧かない。
「なんか美味しそうに見えるよね、この電球」
朝一さんの瞳に電球の灯りがきらきらと映り込む。
「ははっ、何言ってるんですか……」
思いもよらない朝一さんの発言に乾いた笑いが零れる。
現実味は全くなくても、イルミネーションの光に照らされた朝一さんの笑顔だけは間違いなく綺麗だった。
ぐうううう〜〜
と朝一さんの方からお腹のなる音がした。本当に電球が美味しそうに見えてたのか……
「う……そ、そういえばお腹空いたね〜」
すると駅前の広場から少し遠くにある電光掲示板に一瞬チラリと広告が見える。
そこには、雪の中、ベンチで男女が並んでグラタンカツバーガーを食べる様子が電光掲示板に映し出されていた。
『復刻! グラタンカツバーガー! 大好評発売中!!!』
「あれ、食べに行きませんか?」
「あれって何?」
「ナックのグラカツです、冬限定なんで……」
私が尻すぼみになりながらそう言うと朝一さんは
「清水さんから提案なんて珍しいね〜全然いいよ!」
と快く承諾してくれた。
私たちは駅前のナックに向かうことにした。
◇ ◇ ◇
「グラタンカツバーガーのセットを二個お願いします」
メニューを指差しながら朝一さんが注文する。店内を見渡すと結構な人で賑わっている。ハンバーガーはいつ食べても美味しいからしょうがない。
「清水さん、サイドとドリンク何にする?」
朝一さんが聞いてきた。
「じゃあ、ポテトとホットコーヒー、ミルクとお砂糖はつけてください」
「了解〜」
それから、私たちはグラタンカツバーガーを持って二階建てのナックの店内の二階へ上って、外の様子が見える大きな窓がある席が運よく空いていたのでそこに座った。
外の様子を上から眺めると、駅前の人の波が時に激しく動き、時に穏やかになる。まるで夜の海のようだった。
人の波を見ていると、その中にいろんな人が見えてくる。忙しそうな人、嬉しそうな顔の人、虚ろな表情な人。
世間はクリスマス一色だけど、いつもと特に変わらないこんな食事をしている。特別ば要素といえば、期間限定のグラタンカツバーガーを食べていることぐらいかな。
「自分で提案して文句言うのもあれですけど、朝一さんは夜ご飯、本当にここでよかったですか?」
私はお揃いのグラタンカツバーガーの包み紙を剥きながら朝一さんに訊ねる。
本当なら、素敵なディナーを家で用意するとか、そう言うことも十分できたはずだ。
朝一さんはサクサクのグラタンカツバーガーを一口、口いっぱいに頬張って、頼んだコーラで喉奥に流し込んだ。
「ふぅ……値段の高いディナーよりも、清水さんといることの方が私にとっては、よっぽど贅沢だと思うよ」
そう言って、口元にグラタンソースがついたまま朝一さんは笑った。
私は朝一さんの頬についたグラタンソースを親指で拭って、ペロリと舐めた。
「ついてましたよ、グラタンソース、……あ、すみません……」
「そういうとこだよ! ……まぁ、そういう清水さんのとこが好きなんだけど」
「!?」
ブワッと体温と室内温度が上がった、心なしか店内の上着を脱ぐ人が増えた気がする。
でも、朝一さんの一言で私もこの景色の中に居て良いって言われた気がして、夢の中だったキラキラした世界が、少しだけ近くなった気がした。
外の景色を眺めながら考えていると突然朝一さんが言った。
「清水さん、私からも大事な話があるんだけど、いいかな?」
————————————次回「私だけの暖房」
※次回タイトルは変わる可能性があります…ご了承ください
カクヨムコン9参戦作品です!
作品を作る糧になりますのでこの作品が良いなと思ったら☆、♡、ブクマ、応援コメよろしくお願いします!また誤字などの指摘も気軽にしてくれるとありがたいです!
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