第19話 過去の話2

「こないだのことで迷惑かけたね」

 実は也夜なりやから携帯番号をもらっていたらい。メールもすぐその夜に返ってきて次の休みに会いたいと二日後に近くの喫茶店で落ち合うことになった。


 老舗の喫茶店で名物の鉄板スパを二人して注文して同じ物頼んだ! と笑いあう。

 色の薄いサングラスを外した也夜はポケットにしまった。


「いえ……僕もあそこまで切っちゃって」

「マネージャーは怒ったけど社長はすごくいいんじゃない? って言ってくれたんだ」

「そうなんだ……仕事には影響無さそう?」

「大丈夫、大丈夫。君も大輝さんに絞られた?」

「絞られましたよーほんとー、参った」

 そこに鉄板スパが二人の元に。店員は50代くらいの人たちが働いていて也夜のことは知らないようだ。


「也夜は、ここにはよく来るの?」

「子供の頃、親と来てたさ。ここは老舗だし若い人はあまりここ来ないだろ」

 周りを見渡すと確かにサラリーマンや高齢の人が多い。店の近くにはあったが來は一度大輝に連れられて入ったことはあるがそれっきりであった。


「やっぱりモデルさんだし、名古屋とかだとすぐ見つかっちゃうだろ」

「……そうだね。ありがたいことだ。こういう仕事も長く愛されるかどうか、難しいよね」

「なんか僕には体験できない世界だ……」

 すると也夜が來をじっと見る。その視線に來はどきっとする。

 先日の視線といい、目の合わせかたといい也夜は來の目をじっと見る。


「來くんもこっちの世界に入ったら絶対モテるよ。背も高いし。百八十は超えてるよね」

「はい……185あります」

「僕よりある……同じくらいかとは思ってたけど183なんだよ」

 モデルとして活躍している也夜よりも大きいのか、と來は少し驚くが背が高いことがあまりにもコンプレックスで猫背気味というのもあって姿勢もスタイルも良い也夜の方が背が高く感じた。


「絶対來くん、モデルやりなよ」

「いやー、無い。無理」

「今度社長に紹介するよ」

 ぐいぐいくる也夜。來はたじろきながらも

「也夜さんの髪型を変えた美容師野郎だって言われてしまうよ。僕は裏方で十分……」

 ふと也夜の手元を見ると左でフォークを使うのを見て左利きであることを知った來。


 鉄板スパはイタリアンスパゲッティであり、そのソースが也夜の口周りにつき唇が赤く紅を引いたかのように染まる。


 食べ終わるとペーパーて口を拭いているが拭いきれていない。

「也夜さん、まだついている」

 と來が拭く。柔らかい唇だ、ペーパー越しでもわかる。


「ありがとう……來くんこそ」

 と也夜は直接指で來の口元をなぞった。來はその指が自分の口元に来て入れられて反射的に舐めた。

 也夜の指はスッと出ていきそれを也夜が舐める。

 その行為に來は生唾を飲んだ。自然なのだ、そこまでの行為が。そしてその間はずっと來のことを見ていたのだ。

 だが也夜の指が自分の口の中に入ったからと來はあわててもう一枚ペーパーを取ろうとしたが焦ったためか何枚もくっついて取れてしまった。

 也夜は首を横に振る。

「いいよ、いいよ」

「良くない……僕の口の中に入ったし」

「その反応、好きだな」


 大輝と付き合った時以来の胸の高まり。それ以外の恋はしたことがなく恋の始まりがこんなものだったのか?

 也夜はまだ來を見つめる。


「ねぇ、來くんの家行きたい」

「……何も無いけど」

「じゃあ行こうか。今日は僕の奢りね。前のお詫びとこの髪型気に入っているからお礼も兼ねて」



 そこからが來の記憶は曖昧だ。二人並んで歩き、來のアパートまで案内し部屋に入った途端に來から也夜にキスをした。

 これは賭けだった。もし也夜が男を受け入れない人だったら……でもこの自分の中にある欲望をどうしてもぶつけたかった。

 すると也夜は來の舌を絡めて身体をより密着したのだ。


「……也夜さん」

「僕、來くんが大輝さんと付き合ってるの知ってたから……ああ、この子も同性愛者なんだなぁって」

 來はびっくりした。

「知ってたんですか?」

 也夜はふふっと笑った。

「だってボディーソープと柔軟剤の匂い同じだったもん」

 ふと先日の会話を思い出した。


「もう匂いが変わった、別れたんだって……だからチャンスと思った」

 來は少し身体を離した。

「……てか也夜さんも同性愛者……」

 人気モデルの也夜が、異性からモテている彼が自分と同じ同性愛者なのかと。


「ああ、そうだよ。男が好きだ」

 はっきりと也夜は言った。あんなにも女性のファンが多いのに……と來は自分と同じなのかと。

 確かにかっこいいとは思っていたようだがモデルの人と付き合うとかはありえないと思っていた。


 なのにこうして今2人きりになり同じく同性愛者だということを告白され、しかもキスをし舌を交わしている。


 來の情緒は掻き乱されて混乱している中でまた也夜は來を抱き寄せてキスをする。也夜の香水の香り。

 來はすごく好きだった。その奥から香る也夜の体臭を感じられるのはこんなに近い関係になったからか、と嬉しさと優越感に浸り舌を自分も絡ませる。

 也夜の舌遣いは濃厚で來は追いつかない。吸い付かれ甘噛みされ……気づくと也夜の両手は來のお尻をぐっと掴み、その瞬間……。


「はぁっ……ん……」

 來は声が出てしまった。ガクガクも震え息が上がる。


「來?」

「……んんっ」

「キスだけでイっちゃったのかい」

 耳元で囁かれるその也夜の声にゾクゾクとする來。


「シャワー浴びたい……」

「うん、浴びてきて」

 だがそれすらもできないほどクタンと尻もちをついてしまった來。脱力してしまった。


「大丈夫、着替えとかあるし。パンツは君はブリーフ? ボクサー?」

 もう恥じらいもない。也夜のキスでもう限界を超えてしまっていた。

「……ボクサーだよ」

「僕もだよ」

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