宇宙人

小学生のとき、自分の家の自分の部屋で呆然と立ち尽くした時間がある。


どうしてわたしはここにいるんだろう。

ここはわたしの居場所じゃない。

かえりたい。


そんな飢餓にも似た気持ちで佇んでいた。


べつに自分を取り巻く環境が悲惨だったわけではない。ちょっとした不和はありつつ、おおむね平穏だった。それでも、「ここにいる自分」に違和感があった。


夏の炎天下、小学校から自宅までの約三十分の帰り道を歩いているとき、頭のてっぺんを吊り上げられることがたびたびあった。


実際にはなにも起こっていない。ただそんな感覚に陥っただけ。


操り人形が糸に引っ張られて顔を上げるみたいに、自分の頭と空が糸で繋がっていて、だれかが、なにかがわたしを引っ張った。そんなふうに感じていた。


びっくりして、だけど、うれしかった。


宇宙が好きな子供だった。

科学的なことへの興味は薄い。難しいから。

星座もよくわからない。星の名前なんていくつも知らない。

でも好きだった。目を閉じれば宇宙に行けた。


自分の体から意識だけが空へと飛び上がって、自分を見下ろしながらぐんぐん昇って、名も知らない星、あるいは岩石みたいなものの間を進んで、太陽まで行く。


時には太陽を越えて、どことも知れない惑星を見下ろす。


気が済んだら自分の体に戻る。そんな旅をよくしていた。

もちろん空想だ。

でも、宇宙こそ居場所のような気がしていた。


聞き流されることが続いたから小学生のうちに口を噤んだ。


時は過ぎ、令和五年も終わりが近づいている今。

こういう話を、また言ってもいいかと思うようになったのです。

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