第15話 君と僕のネコ話

――長い夢から覚めると、そこは気を失う前にいた神社の境内だった。どうやら参拝の後、僕はしばらく気を失っていたらしい。


あの摩訶不思議な猫神との対話は、ただの夢だったのだろうか? いや、違う。証拠になる物品は何もないけれど、僕の胸の高鳴りがそれを証明している。


長いこと止まっていた心臓がかつてないほど強く脈打ち、僕の全身の隅々まで血液を送り出している。肺、肝臓、腎臓、脾臓、五臓六腑とそれを構成する60兆の細胞がかつてないほど喜んでいるのを感じた。これがきっと、かの猫から僕へのエールなんだろう。20年以上も黙々と働き続けてきた潜在意識の愛情に、僕は生まれて初めて感謝した。


どこからか野良猫の鳴き声が聞こえた気がして、ひょっとしたらと期待して神社のご神体の方を見たが、それは相変わらず沈黙したままだった。空も風も土も草も、何もかも眠る前と同じ。僕の世界は何も変わっていなかった・・・。


僕の財布は、依然として薄いままだ。スーパーに買い物に行けば、欲しいものに手が届かないと嘆くだろう。

僕の仕事はバイトのままだ。高給な正社員を見れば、羨ましいと嫉妬するだろう。

僕には彼女がいなくて、告白してもやっぱり振られるだろう。

病気だって完治したわけじゃない。きっとまた通院と投薬を行い、体の痛みに耐えて、せっかく動いてくれている内臓に文句を言うだろう。


でも、それでいい。クソッタレな世界に思い切り悪態をついて、エゴの感情を否定せず感じ切ろう。そして全部受け止め切ったら、それが僕の人生においてどんな意味があるのか、僕にどんな対処ができるのか、必死に考えてみよう。

僕の狭い視野だけではわからなくても、心の中にいる偏屈で優しい猫は、きっとその答えを知っているはずだ。


たとえまた間違えて失敗したとしても精一杯取り組んだなら、彼がそれを喜んでくれることを僕は既に知っている。人生がたった一度の晴れ舞台だというなら、全身全霊で踊って観客を驚かせてやろうじゃないか・・・!


「僕の熱演、見ていてくださいね――」


随分時間がかかってしまったけど、今ここから始めよう。出会ったばかりの不慣れな二人三脚でも、独りで歩くよりずっといい。

どうしようもなく不完全で、それでいて視点を変えれば完全になる美しい世界で、一人と一匹の共同生活は続いていく・・・


――その後、沼田健は医者の宣告よりも遥かに長生きして、愛する妻や子、飼い猫に見守られて大往生することになるが、それについていちいち語る必要はないだろう。

たとえハッピーエンドでなくとも、再び絶望に打ちひしがれて悲劇や惨劇の末に人生の幕を下ろしたとしても、彼が紡ぐストーリーは内なる魂に捧げる『神話』として空に届くのだから・・・


人生の困難に直面して袋小路に迷い込んだ時は、どうか思い出してほしい。

あなたの心の底にはどんな神様よりも慈悲深く、四六時中あなただけを応援しているネコがいることを――

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