中嶋ラモーンズ・幻覚4

高橋 拓

中嶋ラモーンズ・幻覚4


 湯沢駅で切符を買い、ホームへの階段を降りていくと丁度チャイムと共に横手駅行きの電車がやってきた。二両編成のいつも座る座席が空いているか確認して、ボタン式のドアの扉を開けたが下りる乗客は少ない。中嶋は、当たり前のように障害者用の指定席へ座った。すると電車はガタンと揺れると勢いよく出発してたちまち踏切を過ぎて、真っ白な雪原をドンドンと進み始めた。秋には稲穂が垂れる田圃の真ん中に奥羽本線は続いているのだが、春夏秋冬、どの景色も好きな中嶋は、ワクワクしながら車窓から見える雪景色を携帯電話で写真に撮った。時折、大きな川や林檎畑を通り過ぎる辺りにポイントを合わせて連続で写真を撮り続けた。たまに同じ車両にいる乗客を眺めてはそうこうしてるうちに、横手駅にゆっくりと電車は到着した。時間にして約三十分の小旅行を満喫した。


「横手〜横手〜横手〜。お忘れ物などないよう…。」


横手駅に着くと、人の流れに沿って階段を登り改札を出ると、キラキラ光るイルミネーションが飾ってあった。そのチカチカをやり過ごして、南口の階段を急いで降りて、昭和の雰囲気たっぷりの池田屋食堂の暖簾をくぐって開口一番こう言った。

「サッポロ金星と麻婆ラーメンを一つ。」


そそくさと店内に置いてあるスポーツ新聞を手に取り、競馬予想のページをめくると荒れそうな新馬戦を一つ二つ探して、瓶ビールが届くのを待った。競馬のことは良くわからないのだが、新馬戦なら誰もが予想できないだろうと、新馬戦しかやらない中嶋は、財布の中身を確認してから煙草に火を点けた。朝の情報ニュース番組を観ていたから、今日はラーメンを頼むと決めていた。それも寒い冬にぴったりの熱々の麻婆ラーメン。お酒を呑む時はツマミは食べないので、お腹が空っぽなのはいつものことだ。この思考は、僅か一分くらい、お待ちかねのサッポロ金星が、お店のお母さんから届いたので、早速、小さなコップにビールを半分だけ注いで勢いよく背中に流し混んだ。


 冷たいビールは、背中を流れ胃でピタリと止まった。店内にあるテレビは、地元の情報番組が流れておりコップに瓶ビールを半分だけ注ぎを繰り返しては麻婆ラーメンを待った。またおもむろに財布の中身を確認するのは中嶋の癖である。いつもギリギリまでお金をギャンブルや呑みに使ってしまう。最後の電車賃手前まで冷静に前金払で、生ビールをカフェで頼んだりしてしまう癖なのだ。まるで、ビールや馬券をチケットを買うようにお金に信頼を寄せていない貧乏丸出しの中嶋は、お金を貯めたことが皆無だ。正直に打ち明けると、ギャンブルも普通の仕事も日常生活もまともに送れたことが人生で一度もなく、今時は珍しくもない気質の人間で、今流行りで言うなら何か精神系の病気持ちの影響が素直に現れている純粋なる失格者だ。中嶋自身もそれを充分認識しているが、治そうとしても治らないから病院に定期通院をしている。精神科医からいつも言われることは一言は、


「中嶋さん、最近は眠れてますか?。」


治らないからイコール、定期通院をしている。病院帰りにコンビニエンスストアの前で缶ビールを呑んだりして、病気が治らないことに絶望と諦めで家路に着くという繰り返しを、もう二十年以上続けている。そもそも薬局から貰う処方箋には、お酒は飲まないでくださいと書いてある。試しに呑まなかった期間もあるが、ただ脳味噌がザラザラと砂混じりになるのと、一切のやる気が出ない症状がでるだけで、何も意味は無いような気がした。そもそももう全てが意味の無いことだからと中嶋は自分の心に決めていた。でもこの食堂で食べる麻婆ラーメンは、とても意味のあることだとも分かっている。


「おまたせしたっす、麻婆ラーメンです。」


そう言われると中嶋は笑顔になり割り箸を手に取った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中嶋ラモーンズ・幻覚4 高橋 拓 @taku1998

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ