第18話  新しい街で

 レイは、カフェでアンナを待っていた。

 パリはニューヨークと違い古い建物が多くて、歩いていてもとても落ち着く。

 どこを見ても、額縁がついた絵のように美しい街並みだ。

 レイはカフェ・ド・フルールでアンナと待ち合わせをした。

 これから、バスティーユ・オペラ座のニューイヤーコンサートを聞きに行く予定だ。

 美容院に行って髪をセットして美しく着飾ったアンナを、スーツを着てドレスアップしたレイが待っていた。

 レイは、パリの年末の街の装飾に感動した。

 クリスマスのイルミネーションで飾られたシャンゼリゼ通りは、ロックフェラーセンターのクリスマスイルミネーションとは、また違った美しさだった。

 パリでの生活はフランス語を使うことがほとんどで、英語はあまり歓迎されない。

 アンナはフランス語が堪能なので日常生活には不自由はしないし、レイのフランス語の先生としては充分過ぎた。

 お互いパートナーとして認め合う関係は、奴隷のような主従関係だったリコとは大違いだ。

 職場の仲間も優しく、仕事も生活も充実していた。

 道の向こうの側から、厚手のコートを着たアンナが手を振っていた。

 美しくセットしたブロンドのカールした髪を揺らしながら、アンナがゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 ドレスアップした装いに合わせて、メイクもいつもより少し濃くしていた。

 アンナはレイのとなりにきて、頬にキスをしてから椅子に座った。

レイはアンナから漂う甘い香水の香りを嗅ぐと、一緒にパリに来て本当によかったと感じた。

「とても素敵だよ」

「ありがとう」

 アンナは手をあげてギャルソンを呼び、コーヒーを頼んだ。

「今晩のコンサートなんだか凄く、ワクワクするわ」

「僕もだよ」

「レイとパリで暮らせて、とても嬉しいわ。幸せよ」

 二人が話していると、カフェの周りがざわつき始めた。

 2人は何事かと、騒がしい方へと振り返り当たりを見回した。

 アラブ系の男が、大きな声で叫んでいた。

「逃げろ」

 誰かがフランス語で叫んだ。

 大きな爆発音とともに、目の前で何かが吹っ飛んだ。

 それは、テーブルや椅子それと人間だった。

 気が付くとレイは倒れていた。

 目の前の石畳は黒い液体に覆われていて、アンナはどこだろうと探す為に起き上がろうと、手を地面に着いたが身体が動かなかた。

 程なくサイレンの音が聞こえてきた。

 数台の救急車とパトカーが来たようで、周りが急に騒がしくなった。

 多くの人が、大声で叫びながら、レイの側を行ったり来たりしていた。 

 レイが覚えていたのはそれだけだった。

 レイは瞼が重くなり、まもなく意識が無くなった。

 


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