第15話  契約婚

 2回目を受験すると宣言したが、レイは受験をする気もなかった。

 二人とも自由と新婚生活に浮かれていた。

 ここでは、誰の目も気に得ずに昼夜を問わずベッドの中にいることができる。

 働かなくても、お金は泉のように湧いてくる。

 働くのは庶民の勤めで、リコはそのお金で生活するのが仕事。

 その立場が揺るがないのが王女である証拠だ。

 リコは家事ができないので、食事の用意と買い物はレイの仕事だ。

 朝食以外のほとんどは外食で、出かけるのが面倒な時は、デリバリーにした。

 掃除と洗濯はハウスキーピングに任せていた。

 お金はリコの国の国務省が諸経費で支払っていた。

 リコの生活費は海外でも、制限なく使う事ができた。

 リコは王女の特権を、一般人になった今でもフル活用していた。

 でも、楽しいことは長く続かなかった。

 レイは、務めていた法律事務所を解雇された。

 理由は2回とも試験に受からなかったからだと、報道されていた。

 でもレイは今回も試験を受けていないし、それはリコも知っていた。

 元々リコの意向で始めたこの計画は、ニューヨークで生活したかったからだ。

 渡航して生活が始まった今では、弁護士にならなくても問題なかった。

 しかし、一連の出来事を一部の週刊誌が嗅ぎつけてきた。

『ロイヤル生活保護は永遠に続くのか?』

 この件でニューヨーク領事が解任された。

 リコは世間の目を逸らすために、国際機関に就職できるように父親に頼み込んだ。

 父親の皇太子は、楽なポジションで働けるようにレイをアシストした。

 レイとリコは、これで生活の安定を手に入れて2LDKの広いマンションに引っ越をした。

 仕事が決まりお金と住む所に心配することがなくなると、レイにはリコの傲慢さが鼻につき始めた。

 たとえ、リコのコネクションを使って決まった仕事でも働くのはレイだ。

 収入もあり、もう下僕しもべを演じる必要がなくなった。

 レイのリコに対する気持ちは冷めていった。

『釣った魚に餌はいらない、欲しければ自分で取ればいい』

 それはリコにとって最も苦手なことだった。

 レイはリコの弱点を熟知していた。

 レイが新しい職場でで働き始めると、リコはニューヨークの市立博物館に嘱託契約で働き始めた。

 期間は2年となっていて、延長はできない。

 もちろん、ロイヤルチートを使っての勤務だ。

 仕事の内容は、資料の翻訳や書棚の並べ替える倉庫内での活動がほとんどだった。

 リコが希望したイベントや企画をする、キュレーターのアシスタントではない。

 スキルのないリコには、雑用が主な仕事だ。

 現状のリコの英語力では、翻訳や編集作業などはできなかった。

 この場所では仕事のできないリコに、周りの視線は厳しかった。

 自分の思い通りにならない職場で、リコは度々癇癪を起こして周りに迷惑をかけた。

 自分のミスを認めなく、リコは謝ることもしなかった。

 上から目線の態度と、元プリンセスの肩書がますますリコを孤立させていった。

 仕事から帰るとリコは、職場でのイライラをレイにぶつけた。

 レイもリコの態度には、我慢しなかった。

 二人とも我が強く喧嘩をしたら、絶対に引かなかった。

 価値観も育ちも違う為に、二人の言い争いは留まるところがなかった。

 お互いの悪いところを罵り合う、毎日がその繰り返しになった。

 リコの癇癪もうんざりしたレイは、夜の街のバーに出かけ一人で飲むことが増えた。

 二人が知り合ってから、すでに十年が経っていた。

 それでも、身体の関係は続いていたが、愛は無く欲だけになっていた。

 そんな爛れた《ただれた》関係も程なく終わり、喧嘩どころか口も聞かなくなった。

 お互いを無視し、レイの寝る場所はゲストルームになり、週末は外泊を繰り返すようになった。

 レイに愛人ができたことは、わかっていたがリコは動揺しなかった。

 リコにも愛人ができたからだ。

 リコは元プリンセスで正真正銘のセレブだ。

 いろんな男が、金と利権を欲しさに近づいてくる。

 欲しいものを手に入れた二人は、もう互いを必要とはしない。

 レイは仕事も決まり安定した収入も確保し、さらに国際機関の職員というステータスも手にいれた。

 そもそも二人にとっては、この結婚自体が契約婚だった。

 全て予定通りになった今は、どちらかが契約を解除しても構わないことになっていた。

 期間は二年で、それが予定通りになっただけだった。

 レイはもうリコに、全てを依存する必要は無くなった。

 レイはリコに別れを伝えることを決心した。

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