第14話

 その人の人となりは、接している時間が長いほど分かってくる。イオルク、ユニス、ティーナの人となりも、三ヶ月の間にそれぞれが分かったつもりでいた。

 しかし、突然起きた暗殺事件で見習い上がりの少年騎士が見せた一面は、今までそうだと思っていた人間像とかけ離れたものだった。


 ――イオルクの過去に何があったのか?


 小さな好奇心から側に置いた少年騎士の過去の経歴調査は、ずっと先送りになっていた。

 普段、お調子者の一面しか見せない少年が見せた騎士然とした態度に、いつも見ている姿とのあまりの違いに、主であるユニスの好奇心に火が点いた。

 しかし、まだ少女であるユニスは知らない。本当に好奇心だけが、自分を動かしてしまったのではないということを……。


 …


 翌日からティーナはユニスの部屋を頻繁に空けることになる。

 依頼のあった『イオルクの見習い時代に何があったのか?』という調査を実行に移したからだ。

 まず、ティーナはイオルクの見習い在籍期間内の同期生を調べ、その同期生達が、今、どの部隊に所属しているかを調べた。結果、三桁にも登る同期生すべてに話を聞いていては時間がいくらあっても足りないと判断した。

 そこでティーナは期の途中で入隊した見習いを除外し、期の初めからイオルクと面識のある人物を絞り込みで選り分け、更にその中から数人をランダムに選んで聞き取りを行うことにした。

「さて、新しく鉄の鎧の騎士になった者から聞いてみるか」

 最初、部隊ごとにまとめて聞こうかとも思ったが、ティーナはそれでは話に偏りが出るかもしれないと、少々手間だが見習いに入った期ごとに訪ねることにした。

 本来の任務の合間合間にいくつかの部隊部屋を訪ね、ティーナは調査を進めていく。イオルクが在籍していた二年ほど前の同期の騎士達の話を聞き終えるまでに要した日数は三日だった。

(これなら、それほど時間を掛けずに調査は終わりそうだ。しかし……)

 調査する過程でおかしなことが分かってくる。イオルクの印象が一年前を境にがらりと変わるのだ。一年前までの期間は、ティーナが目にしているお調子者のイオルクである印象が強かった。

 しかし、一年より前を遡ると話が一変する。確かに普段のイオルクはお調子者であることは変わらないのだが、戦場に出るとユニスの言ったように騎士然とした態度に一変するのだ。

(どういうことだ?)

 ティーナには、この境が何であるか分からなかった。四日目、五日目と調査を進め、過去に遡っていくほど、イオルクが強さを手に入れんがために狂気じみた戦い方をしていたことが浮かび上がってくる。

(何なのだ、これは?)

 ティーナは、このままでは埒が明かないと思った。何事にも切っ掛けがある。この狂気じみた戦い方にも切っ掛けがあるはずで、イオルクが三年の間、この国で一番多く敵を倒したことにも理由があるはずだった。その始まりが見習い在籍の一年目から始まっているのなら、イオルクの入隊と同じ期に入った見習いの同期に話を聞くのが一番の近道だと思った。

 しかし、実際、ティーナがイオルクの最初の同期を訪ねて当時のあり方を聞くと、イオルクの同期の騎士達は、皆、いい顔をしなかった。話すことを渋るのである。

 今、訪ねている鋼鉄の鎧の騎士も、今まで訊ねた同期と同じように反応が良くない。

 ティーナは自分に非があるのかを訊ねる形で、もう一度会話を試みる。

「あまりに不躾な質問だっただろうか? それとも、私の質問の仕方が悪かったのだろうか? 同じ部隊の上司として、イオルクの見習い時代のことを訊ねたいだけなのだ」

「…………」

 ティーナが訊ねた鋼鉄の鎧の騎士は視線を下に向け、無言を貫いていた。

(どうしたものか……)

 ティーナが内心で溜息を吐きながらイオルクの同期の鋼鉄の鎧の騎士を見続けていると、あることに気付いた。

「?」

 時折、彼の視線が俯き加減から上にあがり、ティーナの胸元に目が行っているのだ。

(これを気にしているのか?)

 ティーナが自分の銀の軽鎧にそっと手を当てると、鋼鉄の鎧の彼は慌てたように視線を外した。

 彼が気にしていたのは、ティーナの位――銀の鎧という位置付けだったのである。

(何故、銀の鎧の位を気にするのかは分からないが、ここは本当のことを明かした方がよいかもしれない)

 ティーナは少しだけ頭を下げ、謝罪を入れる。

「すまないな。なるべく公にしたくなかったので黙っていたのだが、私の一存で調査をしているわけではないのだ」

 イオルクの同期の鋼鉄の騎士が警戒するように顔を上げた。

「このことを気にされているのは、私ではない。イオルクを自分の騎士として選んだ姫様なのだ。姫様は、イオルクが姫様を暗殺者から守った時の言葉遣いを気にされている。姫様――しいてはイオルクのために、イオルクに何があったか教えてくれないか?」

「……イオルクに守るべき人が出来たのですか?」

「?」

 聞き返された言葉の意味が、ティーナには分からなかった。特に『守るべき人』という言い回しがよく分からなかった。

 分からないながらも、ティーナは答える。

「騎士であれば弱き者のために体を張って、誰であろうと守るべきだと思うが」

 ティーナの言葉を聞くと、鋼鉄の騎士が答えた。

「……イオルクは貴族を嫌っているはずだから、進んで貴族の主である姫様を守るとは……」

 その言葉を聞くと、ティーナは腰に片手を当てて溜息交じりに言う。

「今一、言っていることが分からないな。私の記憶では、イオルクがそういう態度をしたことはない。どちらかというと、アイツは貴族として避けず、会う人間を貴族として扱わないで接する。姫様にも私にもタメ口を叩く時があるし、我々を貴族として見ていないような節が強い」

 その言葉が切っ掛けだった。

「イオルクが、そんな態度を……? そうか――」

 イオルクの同期の鋼鉄の鎧の騎士は、警戒していた顔から安堵した表情に変わった。

「――姫様もあなたも、イオルクが心を許した存在なんですね」

 そう言ってから、彼はイオルクの過去をティーナに語ってくれた。

 そして、その過去はティーナが予想したものと大きく掛け離れ、ティーナを大きく動揺させた。

「……本当に、そんなことが?」

 イオルクの同期の鋼鉄の騎士は、苦虫を噛み潰したように頷いた。

(何てことだ……。こんなことがまかり通っていたなんて……)

 ティーナはイオルクの同期の鋼鉄の騎士に礼を言うと、その場を後にした。

 その後、全てが真実ではないと信じたくなかったティーナは、他のイオルクの過去を知る同期に訪ねて回った。それだけではなく、当時の資料も集められるだけ集め、当時の状況の調査と確認を行った。そして、調査をして浮き上がる隠されていた真実を知るほど、ティーナはイオルクとの日々の会話が少なくなっていった。

 調査から二週間後、ティーナは調査を中止して、ユニスと二人で話しをすることに決めた。


 …


 ユニスの仮の部屋――。

 イオルクが帰ったあと、ユニスがティーナを心配して話し掛ける。

「ティーナ。最近、おかしいけど……」

 ここ最近、ティーナの口数が少なくなっていたのは、ユニスも気が付いていた。イオルクに必要以上に声を掛けなくなったし、何かを押し殺すように考え事をすることが多くなっていた。

 ユニスの言葉を切っ掛けにするように、ティーナは告白した。

「……姫様、申し訳ありません。私は……もう、イオルクのプライバシーを調べられません」

「それは、この前に依頼したイオルクの過去に関係があるの?」

「はい……。聞かれますか?」

 ティーナの目は、これから辛いことを話すと物語っていた。

 ユニスはそれを感じ取ると、机の前の椅子に座り直して姿勢を正し、静かに答える。

「ええ、教えて」

「では、少しお待ちください。別室に調査した資料がありますので」

「分かったわ」

 ティーナは小さく頭を下げると足早にユニスの仮の部屋を出て、付き人に用意された客間に置いてある資料を取りに行く。再びティーナが戻るまで五分ほどの時間を要した。

 ユニスの机の前で、ティーナは調査資料の紙束を片手に重く口を開く。

「まず、イオルクが変わった根底にある事実をお伝えしておきます。……イオルクは、四年前に友達を亡くしていました」

「友達?」

「はい。親友と言っていいと思います。名前は、クロトル」

「クロトル……? 聞いたことがないわ。その人物がイオルクに大きく関わっているの?」

「はい」

 ユニスが机の上で両手を組む。

「そのクロトルという騎士は、どういった人物だったの?」

「気さくな男です。簡単に言えば、今のイオルクです」

「イオルク?」

 ティーナは頷くと、イオルクの過去を語り出した。

「当時のイオルク――つまり、見習い騎士に志願したばかりの頃のイオルクは、お堅い貴族の子でした。そして、見習いに入隊したイオルクはクロトルという三つ年上の少年と出会います。イオルクが歳の割に背が高かったこともあって、クロトルは最初に同い年の少年だと思ってイオルクに声を掛け、そこから二人の交流が始まったようです。イオルクは貴族ではない自由な考えを持つクロトルの影響を受けて変わっていき、一ヶ月という短い期間で、二人は何でも語り合える親友になったそうです」

「一ヶ月……。ジェム様の話と同じですね」

 ティーナは無言で頷くと話を続ける。

「このクロトルという男……間違いなく天才の類です。商家の出なのですが、実技、学力ともにズバ抜けています」

「天才?」

「はい。恐ろしく飲み込みが早いのです。訓練期間も短いはずなのに、実力はイオルクと拮抗していたということです」

 ユニスは少し難しい顔を浮かべて訊ねる。

「クロトルが天才ということは、イオルクも天才なの?」

「いいえ、そういう意味ではありません。イオルクは幼い時から訓練を受けていたから、騎士としての実力が備わっており、そのイオルクに僅か一ヶ月でクロトルは負けないぐらいの技術を身につけた……ということです」

 ティーナの説明で、ユニスはイオルクとの会話を思い出していた。


『俺や隊長の家は騎士になるのを生業にしているんで、小さい頃から剣を振ってるんです。生まれてくる子供達も遺伝の関係で、筋肉が付きやすかったりして反則です。皆、背が高いし』

『それで、インチキ?』

『そう、インチキ』


 ユニスは、そっと折り曲げた右手の人差し指を顎に当てる。

(確か、このような会話があったはず)

「イオルクの言っていたインチキって、このことだったのね……。本物の天才を知っていたから、自分のことをインチキと……」

「姫様?」

 ティーナの呼びかけにハッとし、ユニスは何でもないと両手を振る。

「ごめんなさい、こっちのこと。続けて」

 ティーナは一拍置いて話を続ける。

「二人はお互い認め合ったライバルになり、派遣された戦場でも背中を預けて戦果をあげています。この国の一番東の町が盗賊団に襲われた事件を覚えていますか?」

「ええ。情報のミスで少数対軍隊みたいになったって……」

「はい。そこに派遣され、撃退した見習いの騎士二人がイオルクとクロトルです」

 ユニスは記憶の中にある記録と違うことが分かると、机を両手で叩いて立ち上がった。

「それ、報告と違うわ! 危機に陥った見習いを少数の鋼鉄の鎧の部隊が助けたはずよ!」

 ティーナは首を振る。

「イオルクと一緒に戦場へ派遣された、イオルクの同期が話してくれました。今、話したことが真実です。当時、鋼鉄の鎧だったドルズド・メペルトが嘘の申請書を出し、自分の手柄にしてしまったのです」

「そんな……」

 ユニスは茫然とし、やがて両手を胸で組んで言う。

「今直ぐ申請の撤回を報告すべきです」

 ティーナが首を振る。

「今更、無理です。それに鋼鉄の鎧と皮の鎧では報告の信頼性が違います」

 ユニスは悔しそうに俯き、力なく椅子に腰を下ろした。

「許せない……。メペルトは、わたしの親戚の家系じゃない……」

 そこで、ユニスはジェムの言葉を思い出す。

(もしかして、ジェム様が言っていた『その頃、見習いだった者なら知っているかもしれません』って、記録に残っていないから……)

 ユニスは、ジェムの言葉が面として言えない遠回しの助言だったのではないかと思う。記録にない真実は当事者しか分からず、その言葉は身分と権力の中に隠されてしまう。

 ユニスの背筋が伸び、凛とした空気が流れる。その空気は幼く小さくとも王族の威厳を漂わせていた。

 その空気を感じ取り、ティーナの口調も僅かに硬くなる。

「続けます。ドルズドは、この戦果に目をつけて、過酷な戦場にイオルクとクロトルを派遣し続けます。鋼鉄の鎧の中隊以上の戦力が必要な戦場で、二人は見習いの騎士を率いて、この後、三回も勝利へと導く戦果をあげています」

「ドルズドは、そんな所に見習いの騎士だけを送り込んだのですか?」

「そうです。そして、皮肉にもイオルクとクロトルが戦果をあげればあげるほど、ドルズドの評価は上がることになります。見習いだけを使い、少人数の編成で戦果が上がるわけですから……。今、ドルズドが銀の鎧にいるのは、彼らの戦果があればこそなのです」

 あまりに騎士とは掛け離れた行いにユニスは眉を顰めていた。しかし、ティーナの話を頭で反芻して、話にまだ先があることに気付く。

「先ほどの話では三回勝利に導いたと言いましたね? では、四回目の戦場は、どうなったのですか?」

 ティーナは苦々しく呟くように続ける。

「その四回目の戦場で、クロトルが怪我をします。不幸にも誰とも知れない折れた剣がクロトルの脇腹を貫いてしまったのです」

「クロトルは亡くなっていると、さっき……。では、それが致命傷になって――」

 ティーナは強く拳を握っていた。そして、続く言葉には怒気を込めていた。

「違うのです! クロトルは軽傷のドルズドの治療を優先されて手当てが遅れ、失血死で亡くなったのです!」

「……そんなことって」

 ユニスは両手を口元に当てて言葉を失った。生死が関わる場面で有り得ないことだった。何を優先するかなど、分からない訳がない。

 ユニスには、ドルズドの取った行動が信じられなかった。

 ティーナが絞り出すような声で続ける。

「イオルクは最前線からクロトルを背負って走って戻り、魔法使いに回復魔法を掛けて貰うように懇願しました。それが受け入れられないと、頭を地面に擦り付けて土下座し続けた。それでも、イオルクの言葉は無視された。それどころか、戦線から戻ったことを強く責められた。イオルクは、そこで薬草を使って包帯を巻いてやることしか出来なかった。最前線から戻っている間にも血が流れ続けて、クロトルは既に弱っていた。血を止めること――それが最善だったのに無視された。クロトルは、イオルクの手を握って死んで逝ったのです」

 助かる命が助からない。それが、どんなに辛いことかと、ユニスは胸の服を強く握った。

「イオルク……」

 話すティーナも気分の悪くなる話だった。騎士として恥ずべき行動というより、人として恥ずべき行動だった。

「その後、イオルクは叫び続けたあとに、ドルズドを殴って謹慎を受けています。当然、ドルズド・メペルトの家系も素性も全て知っていたでしょう。だけど、親友のために殴った。イオルクは……きっと、その時から王と国に命を捧げられなくなったのです。だから――」

「筆記試験の『騎士は、王と国に命を捧げなければならない。○か×か』という問いに×を書き続けた……。それが試験を落ち続けた、本当の理由なのね」

 ティーナが調べた資料を机に置くと、ユニスは目を向ける。

「これは?」

「イオルクの戦場での戦果です」

 ユニスは資料を手に取り上から下に目を通し、一枚ずつ確認する。

「見習い騎士になってから三年目まで、毎年、敵を殺した人数が減っていない……」

「ドルズド・メペルトは銀の鎧になるまで、イオルクを戦場に送り続けています」

 この記録はおかしかった。親友が死を迎えたあと、ドルズドの指揮の下で戦う理由はないはずだった。

「……何故? だって、イオルクは――」

「ドルズドの指揮の下でなど、戦いたくなかったはずです。しかし、戦わざるを得なかった。イオルクは、今度は最前線に他の見習いと無理やり送られたのです。そこでイオルクは、自分だけが助かるような戦いをしなかった。人質同様に送られた仲間を庇って戦い抜いた」

 ティーナは目を閉じ、怒りで興奮している自分を落ち着かせてから、改めてユニスを見て言う。

「当時の見習いの死傷者数を見てください」

 ユニスが資料を数枚捲り、該当する資料を確認する。そこに載っていたのは、使い捨てや人数合わせにされるはずの見習いの死傷者数が、イオルクの在籍した期間だけ明らかに違うということだった。

「イオルクの在籍していない期間の見習いの小隊よりも少ない……」

「はい。それがイオルクの戦い抜いた戦果です。見習いに居た年数が長かったからと深く考えませんでしたが、あの歳で一番人を殺しているなんておかしかったのです」

 ティーナは説明を加えるように話す。

「上辺だけの資料の上では、この国で一番人を殺しているだけとしか記載されません。しかし、もっと詳細に資料を見れば、はっきりと分かります。普通に戦っていては、こうはなりません。つまり、イオルクは仲間のために進んで死地に足を踏み入れていたということです。――先日、暗殺者に襲われた姫様なら、その時にどういう恐怖が付き纏うか、御分かりなりますよね?」

 ユニスは深く頷いた。

「今まで感じたことがないほどの恐怖を感じ、誰かが傷つくかもしれない、死んでしまうかもしれないと、胸を締め付けられました」

「それを十二歳だった少年が、騎士の家系に生まれてしまったが故に持っていた力のせいで、三年間続けたのです。――いいえ、三年間続けさせられたのです」

 ユニスは自分のドレスの裾を強く握る。

「……だから、昔の話を聞いたら、あんな、はぐらかす様なことばかりを」

 俯くユニスに、ティーナは静かに続ける。

「イオルクが落ち着いたのは、ドルズド・メペルトが銀の鎧に上がったあと――ここ一年なのです。……そして、これが姫様の知りたかった答えです。イオルクは、ドルズドによって派遣された戦場では常に貴族のようだったらしいのです。恐らく真剣になると押さえていた自我が現われると思われます。普段の言動は意識してなのか、亡き親友のためなのかは分かりません。私は、これ以上、調べられませんでした。当時のイオルクの同期に戦場でのあり方をこれ以上聞くなど……。イオルクが王と国に命を捧げられなくなってしまったのは、イオルクのせいではなかった」

 イオルクの過去を知ったユニスは小さく言葉を発した。

「……貴族の見栄や欲が原因で辛い目にあわされたイオルクは、貴族を嫌って、あの話し方になったのかもしれませんね」

「姫様……」

「そして、イオルクは、わたしのことも嫌っているのかもしれない……」

 ティーナは首を振る。

「アイツは、そういう奴ではありません」

「…………」

 暫し静寂が部屋の中を支配したあと、ユニスは自分のドレスの裾を強く握ったまま呟く。

「何故、イオルクは笑っていられるのかしら……」

「……分かりません」

「ジェム様の話では、家族には何も知らせてないようだった……。隠していたの?」

「……そうかもしれません」

 ユニスは力なく顔をあげる。

「ティーナ。嫌な仕事をさせて、ごめんなさい」

「いえ……」

「明日、イオルクに謝ります」

「はい。私も……」

 その夜、ユニスもティーナも、中々寝付くことが出来なかった。

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