11話から20話までのあらすじ・登場人物

 毒殺未遂事件が強引に解決された結果、ダンタリオンの失脚を期待していたザガムは落胆し、ダンタリオン母子はザガムが首謀者であったと確信していた。

 一方、フォルカスの妹グレモリーに、豪商ベムブルが求婚する。

 気位の高いグレモリーは平民の求婚に眉を顰めるが、結婚と引き換えに贈られる宝石の素晴らしさに心を動かされる。

 グレモリーはベムブルの醜い容貌に嫌悪感を覚えていたが、その凡庸な息子のスロールは、グレモリーの美しさに心惹かれていた。


 ヨトゥンヘイムで、アールヴは快活に日々を過ごし、以前より元気になった孫の姿にスリュムは満足していた。

 一方、戦がなくなった為に無聊をかこつようになったギリングは、自分が無用の存在になったように感じる。

 ギリングはスリュムが成人する前の若い頃に生まれた息子で、長い年月を共に戦い、ヨトゥンヘイム建国に少なからず貢献した自覚がある。

 だが、武力では抑えられなかった豪族の反乱がオリアスの進める宥和政策で鎮まった事、かつて独断で兵を進めた結果、窮地に陥ってオリアスに生命を救われた事など認めざるを得ず、オリアスに全幅の信頼を置くスリュムに反論できない。

 鬱々とした気持ちで帰宅したギリングは、妻のメニヤから戦がなくなって息子のエーギルが戦功をたてる機会が失われ、それと共にギリングの領地を相続できなくなる可能性について苦言を呈される。

 オリアスはヨトゥンヘイム王よりもヘルヘイム皇帝の方が相応しいというメニヤの言葉をギリングは口では否定したが、オリアスがヘルヘイム皇帝となり、ヨトゥンヘイムは自分と異母弟たちで継ぐという案は悪くないと、内心で考える。


 グレモリーは亡き母グレータの言葉を思い出し、何かが欲しければ、時には自分の心を殺して策を弄さなければ望みは叶わないのだと実感するが、平民の身分である上に容貌の醜いベムブルの求婚を受け入れる決心がつかずに悩む。

 その夜、フォルカスは薄い金色の髪をした侍女と密会する。

 数日後、不審な手紙がフレイヤの元に届けられた。

 アールヴの暗殺未遂事件の首謀者がザガムであり、ダンタリオンを陥れるのが目的であったのだとほのめかす内容だった。

 アグレウスはそれがヴィトルの仕業であり、アールヴのヨトゥンヘイム滞在を長引かせるのが目的ではないかと疑う。

 フレイヤの侍女を拷問する事はできない為、アグレウスは不審な手紙の事件は無かった事として済ませた。


 ドロテアはアグレウスから指示を受け、アールヴをヘルヘイムに帰らせるよう、オリアスに頼んだが、オリアスは暗殺未遂事件は未解決だとしてアールヴをヨトゥンヘイムに留まらせる。

 ヨトゥンヘイムでは、戦がなくなって暇を持て余す兵士・戦士の不満を鎮めるために大規模な武術競技会が計画され、その会場となる円形闘技場の建設準備が進められていた。


 ヴィトルはリディアの素性を調べ、数百年前に闇の妖精によって滅ぼされた妖精王の姫であったとオリアスに報告する。

 闇の妖精王はいまだに妖精王の血族を探し根絶やしにしようとしており、アールヴが妖精王の血族である事と特別な能力を持つ事に、何らかの関連があるとオリアスは考えるが、アールヴを護る為にこの事を秘密にする。

 ドロテアからの文を受け取ったアグレウスは、オリアスがアールヴを返す気の無いことに苛立つと共にヴィトルに対する疑惑を強め、自分の立場が思っていたより脅かされているのだと、危機感を新たにする。


 円形闘技場の建設に十年以上かかると聞かされたスリュムは、オリアスが豪族を甘やかして多くの領土を安堵したために予算が不足しているのだと非難する。

 やむを得ずオリアスは、豪族たちに闘技場建設のための費用の一部を提供させる事を決める。


 ベムブルの二度目の訪問を受けたグレモリーは、彼が離宮に匹敵する壮麗さの別宅建築を進めていると聞き、再び心を動かされる。

 ベムブルがグレモリーに求婚しているとの噂を聞きつけたダンタリオンは、それによってフォルカスが権力を得るのを防ぐ為、婚姻を邪魔する決意をする。


 ヘルヘイムの後宮で、フォルカスがグレモリーとベムブルとの婚姻を、秘密裏に進めようとしているとする怪文書がばら撒かれた。

 アグレウスはフォルカスを詰問するが、フォルカスは断るつもりだったとうそぶく。

 ベムブルが戦の勝敗さえ左右しかねない影響力を持つ存在である事を重く見たアグレウスは、フォルカス兄妹がベムブルと接触する事を禁ずる。


 ヨトゥンヘイムでは豪族たちに闘技場建設のための費用の一部を提供させるための会議が行われていたが、その席で逆上した豪族のバウギが暴言を吐き、オリアスに処刑される。

 暴言はフレイヤを侮辱する内容であった為、怒ったスリュムはバウギの領地に攻め入ろうとしたが、騒ぎを大きくすれば暴言がフレイヤの耳に入る事になるとして、オリアスはそれを止めた。

 それでもスリュムの怒りは収まらなかったが、ヴィトルからオリアスが一時の感情で行動してしまった事を後悔しているだろうと聞かされ、バウギの領地攻略は取りやめる。


 グレモリーに三度目の会見を申し入れるべく皇宮を訪れたベムブルは、アグレウスからそのまま帰宅するように命じられたが、その帰途、何者かに殺害される。

 殺害に使用された懐剣はかつてアールヴ付きだった侍女の持ち物で、彼女は前日から失踪していた。

 だが侍女とベムブルの間に接点は無く、捜査は迷宮入りする。


 バウギの領地侵略を止めたオリアスを、ギリングは生ぬるいと評したが、スリュムから理由を聞かされ考えを改める。

 だがヨトゥンヘイムではオリアスは無駄な苦労を背負い込む事になり、ヘルヘイム皇帝となった方が良いという考えをスリュムに話す。

 その頃、ヘルヘイム後宮では二度目の怪文書がばら撒かれ、事態の収拾と豪商の影響力を手に入れる為、アグレウスはグレモリーとスロールの婚姻を決める。

 この結婚によってフォルカスが権力を得る事を危惧し、ザガムとダンタリオンはフォルカスを危険視する。


 ヨトゥンヘイムでは円形闘技場の建築が開始され、完成までの間に合わせとして平原で開催される武術競技会の準備も進められていた。

 オリアスは使用する武器や戦い方に制約を設け、死者や重傷者が出ないよう配慮すべきだと主張したが、スリュムや異母兄たちから「生ぬるい」と撥ね付けられ、対戦相手を殺す事のみ禁止し、それ以外には一切、制約を課さない事で決着した。

 オリアスの側近護衛官の一人であるヒルドは、気疲れしているであろうオリアスをいたわろうとしたが、気持ちが先走って不用意な発言をしてしまい、恥じ入る。



 20話までの登場人物


 □ ヘルヘイム側


 ベムブル


 グレモリーに求婚した豪商。

 小柄でずんぐりと太り、額は広く禿げ上がり頭の頂も薄く、赤ら顔で瞼は垂れ下がっていて唇は分厚い。

 ヘルヘイム皇家にも匹敵する莫大な財産と多くの鉱山・兵器工場を持ち、戦の結果を左右するほどの影響力を持つ。

 番頭たちを信用するなと息子に言い聞かせていた。



 スロール


 ベムブルの長男。外見も印象も平凡な男。

 グレモリーの美貌に憧れている。

 貴族出身の母親に貴族的に育てられた為、商売には疎く、番頭たちを頼っている。



 エリゴス


 ザガムの妹の夫。

 侯爵の称号を持つ大貴族であり、宮中の勢力図でザガムを擁する一派の頭首と目されている。

 宮中護衛兵の長官でもある。



 グレータ


 アグレウスの側室の一人。フォルカスとグレモリーの母。

 アグレウスに侵略され、滅ぼされた国の元王女。

 美しく誇り高い女性で、故国が滅ぼされた事を怨んでアグレウスに媚を売らなかった為に寵愛を得られなかった。

 その結果、グレモリーが内親王の宣下を受けられなかった事に落胆し、生命を落とす。



 □ ヨトゥンヘイム側


 メニヤ


 ギリングの妻。

 元はスリュムの主君の孫であったが戦で一族を滅ぼされた結果、奴隷の身分に落とされていた。

 ふとしたきっかけから素性が明らかになり、スリュムの勧めでギリングの側室となり、息子が生まれたのを機に正室となった。

 短気な夫が声を荒げても動じない気丈さを持つが、それはギリングが女に手を上げるようなまねは決してしないのだと判っているからでもある。



 エーギル


 ギリングとメニヤの息子。

 精悍な顔立ちで文武両面で全体的に優れているのだが、全てが中途半端で、何か抜きん出て優れた点は見られない。

 全ての点において非の打ち所の無いオリアスに心酔し、政治手腕を学ぼうとしている。



 ヒルド


 オリアスの側近護衛官。戦乙女ヴァルキュリヤとも呼ばれる女戦士。

 銀髪と蒼にも翠にも見える薄い色をした瞳の持ち主。

 すんなりとした手足と整った顔立ちをしており、肌は陽に焼けて褐色。

 十三歳で初めてオリアスに会った時にその美しさと優しさに惹かれ、オリアスの側近となる事を目標として努力してきた。

 目立つ外見のせいで他の女戦士に辛くあたられたり、男たちから下品な言葉ではやし立てられるのが日常茶飯事だが、それを気にしないほどの気丈さを持つ。

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