第2話 力と報いと救い

転生してあの村を襲う盗賊を捕らえた時から私は決心した。

前世では奥手で人助けとか出来なかったけど、盗賊を捕らえるのを手助けして村のみんなにたくさん感謝されて思った。私は自分の精一杯の力で助けを求める人を救おうと。


そんなことを決心してあれからたくさんのことをした。

小さな依頼から大きな依頼まで沢山した。そのどれも転生してすぐに見つけた不思議な地図を使って。そのたびに私たちの名声と感謝してくる人は増えて行った。


そして転生してから5年が経った。私たちは今、王都に招集された。

呼ばれた理由はわかない。けど、より多くの人のために働ける。そう思うと胸が躍る。すごく楽しみ。


……王都 中央銀行……


私とライカさん(転生先での私の生みの親)と共にルミナス王国王都の銀行に来ていた。


『お初にお目にかかります。私は王立中央銀行紙幣局局長のアリヤと申します』

結構綺麗な部屋に案内されて待っていた女性がそう言った。


『初めまして、私は探偵のライカと娘のライナです。本日はご依頼いただきましてありがとうございます。その早速なのですが、どのような要件で私たちをお呼びになられたのですか?』

ライカさんが私の代わりに聞いてくれた。


『はい、現在、王都において偽札が密かに広まっています。


『え?』

(偽札?それってヤバいんじゃない?)


はい、驚かれますように。偽札製造は重罪です。またこのままでは信用崩壊が起こり王都での経済が破綻し、その余波が王国全体に広まってしまいます。そこで最近話題になっておりますライカ探偵団に偽札工場の発見を依頼したいのです。受けていただけますか?』

(すごく重要な依頼、国の存亡に関わる話、すごく大変そう。でも、これはみんなのためになる。やりたい)


『わかりました。アリヤ様、この依頼引き受けさせていただきます』

ライカさんもやる気があったみたいで引き受けることになった。



……銀行紙幣保管庫……


『こちらが、偽札と本物の紙幣です』

そう言ってアリヤさんが2枚の紙幣を見せてきた。


『ん?』

2枚の紙幣を見てみる。2枚の紙幣にはこの国の国王のサインと金額、あとは細々したイラストと国の紋章が描かれている。そしてその2枚とも全く同じ見た目同じ紙を使っていた。どっちが偽物で本物かわからない。


アリヤさんは説明を続けた。

『見てのとうり全く見た目での違いがありません、ですが、このどちらかは確実に偽物です。ここに刻印された数字をご覧ください』


言われたとうりに紙幣の端の方を見てみた。

『え?』

2枚とも同じ数字が書いてある。


『私たちが製造しております紙幣にはそれぞれ固有の数字を印字しております。ですがこの2枚は全く同じものつまりこの2枚のどちらかが偽物になります』


『え、と言うことは銀行側もこの2枚のどちらが偽物なのかわからないんですか?』


『はい、ですので、換金時や紙幣の預け入れ時などでの犯人の発見などができず、現在なんの手がかりも得られていません。それに現在この部屋にある紙幣全てが偽札になっています。それにこの銀行以外にも偽札が発見されていますので……』

そう言われると驚いた。この部屋は前世での小学校の体育館ぐらいある。その空間いっぱいに札束が積み重なっていた。


説明してくれたアリヤさんは深刻そうで悔しそうな顔だった。本当に大変な状況なんだとわかる。


『あの、アリヤさん少しだけこの偽札を借りていいですか?』

私には物や生物がたどる道のりがわかる<死神の地図>がある。これを使えば

どこでこの偽札が製造されたかわかるはず。


『ええ、まあ、後ほど返していただけるのでしたら』


『ありがとうございます』

『ちょっとライナちゃん何をするつもり?』

ライカさんが私に聞いてきた。


『部屋でじっくり調べたいの』

『そ、そう?ならいいけど。最近あなたのおかげでなんでも解決できてるけど、危ないことはしないでね』

ライカさんが心配そうに私を見てくる。私はまだライカさんに拾った地図のことを言ってないから不思議なのかな?でも、地図のことは言いたくない。大事なものは誰にも言いたくない、奪われてしまうかもしれないから。


その後はアリヤさんの勧めで紙幣の製造ラインの見学などをして私たちは銀行を後にした。




……宿……


私は早速部屋に入って銀行から借りた比較的最近見つかった偽札と思われるもの10枚を広げた。

『よーしやりますか』

私はそのうちの一枚を手に取り、空いている片方の手で地図に触れた。

(お願いこのお札の過去を見せて)

私は想念じた。

紙は一瞬で地図になった。そして一本の青い線が地図上を走る。


『んー流石にそう簡単ではないかな』

五年間何回かこの地図を使ってわかったことは調べる対象の未来を指す時は青色の線、過去の時は赤色。線の長さはその物が一日動いた距離になっていて、もう一度同じふうに念じると伸びていた線がもう1日分増える。そしてそれ以上できない時はバツ印がつく。


(もう一日分見せて)

私は同じ紙幣に念じた。

またしても王都中をぐるぐるまわるだけだった。

『もしかしたら、これ本物なのかな?なら次ね』


私はその後も何枚か調べたけどうまく行かなかた。調べた中に偽札があるのだろうけど王都中を何日もグルグルしてからここにきたのか全然変化しなかった。これは思った以上に大変そう。

それでも私はやめない。みんなが困ってるし。何より私にはこの方法しか思いつかない。他のはアリヤさん達がもうすでに試していた。


(今度こそ!お願いこのお札の過去を見せて)

私はまた一枚紙幣を手に取って念じた。


『ん?』

今までの紙幣とは明らかに違っている。

赤い線が綺麗に王都の大動脈中央通りを通ってる。


『これは』

(もう1日分見せて)

私はそう念じるとどんどん赤い線はまっすぐ伸びて行き、やがて

王都から大体100キロメートル先の山の奥でバツ印が現れて終わった。


『ここだわ』

王国で使われる紙幣全ては王都内にある工場でしか作られない。つまり、この今待ってる紙幣は偽札で。このバツ印があるのがおそらく偽札工場。ようやく見つけた。




『ライカさん?少しいいですか?』


『何?ライナちゃん?』

私がライカさんのことを(お母さん)て呼ばなくなったことにもうライカさんは

何も言ってこない。私はライカさんのことはまだ怖い。あの罵声と暴力を振るう前世の母親と全く同じくらいに見える顔のせいなのか、それ以外にあるのかわからない。けど、無条件で怖い。


『偽札の工場の目星がなんとなくできたので、調査のために出かけたいのですが。いいでしょうか?』


『え?いいけど、危ないことはしないでね。それともうあなたは大人なんだし、いちいち私に聞かないでもいいのよ。でも、報告してくれてありがとうね』

ライカさんは銀行からもたった資料の山を整理したり読んだいりしながそう言った。




『はい、行ってきます』

『気をつけてね?すぐに危なくなったら帰るのよ』

私は宿の外に出た。




……冒険者ギルド……


私は地図に現れた場所に行くために護衛とか移動手段とかを手に入れるために冒険者ギルドにきた。

冒険者は前世で言う何でも屋みたいなもので、物資の輸送、護衛、探偵、などたくさんの仕事をする。私たちが銀行の依頼を受けたのも冒険者ギルドの仲介があったからだ。



『いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?』

ギルドの店員さんが出迎えてきた。


『依頼を出しに来ました』


『そう、ですか。ではこちらの用紙に依頼内容をお書きください』

依頼を受けるのは何回かあったけど、依頼を出すのは初めて、少し緊張する。初めて何か書類とかを作る時はいつも心配と緊張で気分が悪い。




『これでいいかな?……お願いします』

私は書き終えた用紙を3周見直してからカウンターに持ち込んだ。


『はい、ありがとうございます』

カウンターにいた店員さんが受け取って目を通し始めた。



『これは、護衛依頼ですね。この距離ですと200バリスですね。よろしいですか』

1バリスが大体日本円だと100円ぐらいで、200バリスだと2万円ぐらいになる。王都だから少し高いみたい。


『ええ、お願いします』



……偽札工場近く……


なんだかんだでうまく目的のところ近くまできた。

地図ではわからなかったけどあの偽札が作られたとこは森林の中みたい。

念のためにここまでついてきてくれた護衛の人は置いていくことにした。本当に偽札工場があったら見られると良くない。


『あ』

地図のバツ印のところに向かってますぐ森を歩いていると、巨大な建物が目に入った。


私は物陰に隠れながら建物の周りを見る。

警備の人らしき人もいないので少し中を覗いてみた。


『これは』

銀行で見た紙幣の製造装置と似たものがずらりと並んでいる。素人の私でもわかる。ここは偽札工場に違いない。そう私は確信した。



……夜中……


私は宿泊している宿に戻った。


『ライナ!どこに行っていたの?心配したんだから』

ライカさんが泣きながら私を見るなり抱きしめてくる。少し怖かったけど、されてみたら心地い


『ごめんなさい。ライカさん』

いつもは顔が怖くて会話したくないけど今はすごく暖かい。


『偽札工場は見つかったの?』

『はい、それらしき所を見つけました』

『本当!?よかった。ふふふふ、でももうこんな遅くに帰ってこないでね』



……翌日……


私は昨日見つけた偽札工場らしき所についてアリヤさんに伝えに銀行まできた。

『おはようございます。ライカさん、ライナさん、本日はどのようなご用件で』


『偽札工場らしき所を発見しました』

『な、なんと!本当ですか!?』


『はい、場所は王都南街道を進んで100キロの森林地帯の中です。ここです』

私はあの地図を模写した地図を見せた


『なんと、そんなところに…………早速調査隊を派遣します。ありがとうございます。まさかこんなに早く見つかるなんて』

アリヤさんは早速調査隊を派遣してくれるそう。平民出身の探偵なんてそんな信用されないかと思ったらあっさり信じてくれた。


……3日後……


私たちはまた銀行に呼ばれた。


『この度は誠にありがとうございました!!』

アリヤさんの部屋に案内されて入った瞬間アリヤさん頭を下げられながら言われた。


『え』


『ライナ様のおっしゃった通りの場所を調査しましたら。巨大な偽札工場を発見できました。ありがとうございます』


『あら、そうなんですか。ライナちゃんやったわね』

ライカさんは嬉しそうに私に言ってくる。間違えてなくて安心。


『アリヤさん、お顔をお上げください』

ここまで堂々と感謝されるのは初めてで恥ずかしい。


『いえ、我々はこれぐらいしかできません。今回のことは内密に処理したいとの上層部の命令でライナ様たちへの大規模な褒賞ができません。報奨金すら国を救った英雄に対してあまりにも少ないこんな……』

いくら国を救ったからって今回のことは内密にしたいみたい。でも、人のためになったからいいや。


『大丈夫ですよ。アリヤさん』

『ライナさん、なんて、慈悲深のですか。あいりがとうございます』


『その、偽札を製造していた犯人は誰なんですか?』

まだ一番気になることがわからない。


『現在調査中です。それとライナさん、ライカさん今回の事件はもう調査しないで大丈夫です。今回のライナさん達のおかげで工場が見つかりました。しかし、国の捜査局が今回の発見でメンツが保たれないからと、すべての調査は捜査局が担当したいそうです。すみません』


『大丈夫ですよ。ちょうど新しい依頼が二件きていましたから私たちもこれで終わりにししようと思っていまし』

銀行に偽札工場と思われる所を報告してから冒険者ギルドにまた二件の依頼を受け取っていた。ある意味ここで偽札関係の仕事が終わって助かった。



……宿……


私は貰った報奨金の山を見ていた。アリヤさんは少ないとか言ってたけどそれなりにある。これだけで3年は贅沢な生活ができそう。


『やあ、きみ、僕の地図を楽しく使っているみたいだね』

私があの<死神の地図>を持っている時に男は現れた。


『誰!?』

『誰?とは失礼だな。ほれ君が持っている<死神の地図>の持ち主だよ』

『え』

『ま、驚くのも無理ないか。俺自身君の楽しんでる様子を見て何もしてこなかったからね。でもそろそろ伝えないとね。君はよく聞くだろ、何か特別な能力を持つものは良いこともできるけどその分報いを受ける。何かを得るには代償が必要なんだよ』

男は不気味に言ってくる。怖い。

『君はこの地図でたくさんのことをした。その使用料金として君の寿命の27年と半年をもらうよ』


『え!? ど、どう言うことよ!!』

私の寿命?何?何それ?!わけがわからない!


『この地図を使うたびに大量の魔力を使用する。不足していた場合は一回につき半年使用者の寿命を縮める。そういう地図さ。君は元々魔力が転生者なおかげで二人分ぐらいの量あるから30年程度でおさまったけど、この使用量だと一般レベルなら死んでたね』


『嘘』

私の寿命が減る。この地図は命を吸う。

なんでこんなに使っちゃったんだ。なんで。


『ま、これからも頑張ってねバイバイ。あ、そうそう一つだけアドバイスこの地図を使ってから10日後なら魔力も回復して寿命を使わずに一回だけできるよ』

男はそう言って消えた。


『どうして』

たった数分の出来事が私のここまでやってきたことを台無しにした。なんで、こんな…………寿命が減る。もう27年分が消えてしまった。

私は自分がしたことが正しかったのかどうかわからない。人助けをしたけど自分を犠牲にしたでは素直に喜べない。どうしたら



……三日後……


『行くわよ。ライナちゃん』


『はい、わかりました』

これから私は次の依頼主の所へ行く。あれからずっと悩んでいる。人助けをしたい、だけど寿命は減らしたくない。私はだから探偵を既に取っておいた依頼で最後にしようと思う。やっぱり自分の体を犠牲にするのは嫌だ。


……古い屋敷……


『ようこそおいでになってくれました。ライカさんライナさん』

出迎えたのは年老いたお爺さんと一人の執事だった。あんなに大きいお屋敷なのに出迎えがお爺さん一人とその執事なのは気になる。


『わざわざお出迎えありがとうございます。ハリス領地の当主ファマス様』


『立ち話もなんですお部屋に入りましょう』

結構煌びやかな部屋に案内された。


『すみません現在、私の領地ハマスは飢饉でして屋敷の経費などを減れしてできるだけ徴収を減らすようにしておりまして。部屋が少し汚れていますが許してください』


『それで依頼とは?』

早速ライカさんが聞いた。


『実は、先月予告状が届きまして8日後にここにある<女神の涙>という宝石を盗むと…………それを対処してほしいのです』


『わかりました。でその宝石の保管場所を見せていただけませんか?』


『ええ、良いですよ』


……宝石保管庫……


『これです』

宝石のある保管庫にきた。宝石はネックレスみたいだ。女神の涙と言われるのも納得できるぐらい綺麗な水色のクリスタル?がついている。


『この宝石は亡くなった妻の大事にしていた物で私の息子もすごく気に入っていました。でもここ5年で変わってしまって。まあ、飢饉がありましたから…………まあ、とにかく私にとってこのネックレスは妻との大切な思い出なんです。報奨金はそこまで多くは出せませんが、お願いします』

ファマスさんは頭を深々と下げてお願いしてきた。

なんかその奥さんが羨ましい私もそれぐらい大切にして欲しかった。


『わかりました。全力を尽くします』



ファマスさんは今領地の飢饉を乗り越えるために徴収を無くしている。だから私たち以上に人を雇うことができない。つまり私たちだけで宝石を守る必要がある。

単純に考えると屋敷の地下室などに隠して予告日までそこで保管するのが一番だと思う。しかも予告を出したのは最近話題になっている毎回予告どうり盗む怪盗ルッツだそう。つまり予告日前日に宝石を厳重に隠し、死神の地図で宝石の未来を確認して青い線が屋敷から出なかった完了。その計画しかない。

『ライカさん、私に考えがあります』

私はライカさんやファマスさんにこの計画を伝えた。もちろん死神の地図については隠して。

『なるほど、確かにそれしかありませんね』



……予告日前日……


『これで大丈夫ですね』

宝石は地下にある大量の荷物が入った部屋の中の奥に隠した。この地下室以外にたくさん地下には部屋があるのでみんなで手分けしてダミーの部屋を作ったので安心。それにみんなにバレないように死神の地図で確認したら宝石は大丈夫そうなのでよかった。なんとか一日分で済んだので自身の魔力だけで済んでくれた。私の寿命は減っていないはず。


『でも、少し心配ね』

『え?』

ライカさんは隠すだけでは少し心許ないと思っているそう。


『では、私が宝石の護衛をしてはどうでしょうか』

屋敷に唯一残った執事がそういった。

『一応私、これでも武術をしておりまして。最後の砦程度には役に立つと思います』

確かにそっちの方が安心できそう。

『そうですねお願いします』

執事さんには宝石を隠した部屋で隠れてもらうことにした。

一応最後にもう一度死神の地図でかくんした方がよかったけど、自分の寿命が減るのでやめることにした。




……予告日の夜……


私とファマスさんは宝石のダミーが置いてある部屋に、ライカさんはその隣の部屋で万が一の時に備えて待機している。宝石が入っていたケースにはガラスで作った宝石のダミーが置いてある。

あとはこの館の執事さんが本物の宝石が置いてある部屋で待機している。それに


(バリーン!!)

どこかの窓ガラスが割れた音が屋敷中に響いた。


『きた!』

私たちはできるだけの武器を持ってダミーの宝石を守るようにする。


(どん!!)

私たちのいる部屋に何者かが入った。


『ほう、この程度の護衛か、舐められたもだ』

入ってきたのは黒い覆面の男一人だけたった。


『やー!!!』

ファマスさんが持っていた件で男に襲いかかった。お爺さんの割にすごい早い。


(カーン!!)

男はそれを華麗に避けて私のほうへ来た。


(どん!)

気づいたら私は宙に待っていた。


『ふん、これは、違うな。ならば』

男はダミーの宝石を手に取ると少し見て床に捨てた。

そしてそのまま窓から飛び降りて消えた。


『終わったの?』

怪盗は諦めてくれたのかもしれない。


『わからないわ。一応本物の方を見に行きましょう』

確かに安心したいから観にいこう。



……地下……


私たちは地下に入った。


(タタタタタタタタ)

通路の奥から足音が聞こえた。


『何?』


『おっと……君たちか』

現れたのはさっき現れた覆面の男だった。


『なんで』

わけがわからない。さっき諦めて帰ったはずじゃ


『なんで、て本物を見つけられたからだよ。俺は人のいる位置が地下だろうと地上だろうと見えるからね。それにお前は殺す』

男はそういうとライカさんの方に向かって切り掛かってきた。

(カーン!!)

間一髪のところでファマスさんが男の刀を押さえてくれた。


『ち、これ以上は無理か……君たちがバカで助かったよ』

そう言って私たちを飛び越えて地上への出口の方へ行ってしまった。


『待てよ!!!返せ!!!』

ファマスさんがそれを負ったが追いつけずに男はどこかへ行ってしまった。


『ああああああ』

ファマスさんは男が消えるのを膝から崩れ落ちて泣きながら見た。




落ち込むファマスさんを支えながら宝石があった部屋の前まできた。

ドアが開いている。


(べちょ……)

そこにあったのは首から上がないあの執事さんだった。


『嘘……』

やってしまった。なんで、なんで


『ライナちゃん……』

ライカさんが私を見てくる。

私は失敗した。


『私は失敗した失敗した失敗した失敗した……』

自分の保身のために最後の確認を怠ったから、宝石も盗まれ、死人も出してしまった。どうして、どうして。


『ライナ。ライナ……ライナちゃん!!!』

ライカさんが私を強く肩を掴んで呼んでくる。怒られるんだ。殴られて、罵声を浴びる、怖い。

『お母さんごめんなさい。ごめんなさい』


『ライナ……ん、怖くない怖くないよ、ライナちゃん……誰も怒ってないよ』

ライカさんが抱きしめてそう言ってきた。


『私は……何も……』

『いいのライナ、もういいの。泣かないで。お母さんがついてる』

私の頭を撫でてくる。

殴られない。おかしい。


『ん!!……』

『大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くない』

必死に離れようとする私をライカさんが抑えて抱きしめてくる。


『グス……グス』

『ライナ、頑張ったね。今回はうまくいかなかったけど、お母さん怒ってないよ。だから泣かないで。ね』


『グス……』

『お母さん。嬉しいなここ数年でライナが大人になって。もう私がいなくても自立できそうなぐらいになって。私じゃ発見すらできなかったことを簡単に見つけて。そのおかげでここまで来れたの。ありがとね。ライナ』


『違う、私のおかげじゃない……』

『ライナちゃん……ライナちゃんのおかげで偽札のこともすぐに終わったし……』


違う、違う、私はなんの力もない。

『違うの!!!私は、私は……なんの力もない。ただの臆病者。保身のために……』


『ライナ』


『私は、自分の命が惜しくて逃げた卑怯者なの!!!』

そうだ、私は自分可愛さに他人を死地に追いやったんだ。


『ライナ』

また強く抱きしめられる。なんだか暖かい。


『ライナ、ねえ、ライナちゃんは何を苦しんでるの?ねえ、お母さんわからない。私ね、あなたの力になりたい、あなたを守りたい、私にもライナの苦しみを分けてよ』

すごく暖かい。


『私ね、死神の地図を持ってるの』

『死神?』


『死神の地図、私の寿命を犠牲にして対象の未来、過去を探れるの』

『それって』


『でね、今回も使ったの。でも寿命をケチってこんなことになっちゃた』

『ライナ……』


気づくとライカさんも泣いていた。


『ライナ!!!……ごめんね、ごめんね。辛かったね、お母さん気付けなくてごめんね!!ごめんね!!』

私の胸に頭を埋めながら謝ってくる。なのにすごく楽になった気がする。

『お母さん、もう。大丈夫』


『お母さん?……なんか久しぶりに聞いた』

間違えて言ってしまった。けど、なんだか心地よい。


『お母さんありがとう』


『そうね、ありがとう。ライカちゃん』

私たちはお互いにまた抱きしめあった。







































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