第30話「あはは、ありがとうだけでいいよ。 本当に感謝します!なんて他人行儀だよぉ!」

「凜! おめでとう!」


と、大きな声で心のこもったお祝いの言葉を告げてくれた遥。


私は感激し、


「ありがとう!」


と、これまた大きな声で返していた。


しかし、これから先の事を考えると、少し気が重くなる。

乗り越えねばならない高いハードルがたくさんあるからだ。


「でも、遥。これからが大変なの」


とつい愚痴ってしまった。


すると遥も、


「うん! 分かるよ」


と、同意してくれた。


ああ、遥……

私の事情を察してくれて、いろいろ相談に乗ってくれそうだ。


本当に、ありがたい!


「それでね、遥……」


と、言いかけた私だったが……


「ストップ!」


とさえぎられてしまった。


「え?」


な、なぜ?


しかし遥は、


「その先は、言わなくてもOK! 全部言わなくとも、分かっているから」


「えええ!? 言わなくても? 分かってるからって!?」


「うふふ、言葉通りよ! 凛と颯真君が上手く行くように、私と海斗が協力すれば良いんでしょ」


「遥! どうして!?」


思わず私は遥の名前を呼び、絶句した。


「当り前じゃない! ツーと言えばカー、私は凛の親友なのよ!」


ああ、スマホの向こうで優しく微笑む遥の笑顔が目に浮かぶ。


「それで、凛、段取りは? 私と海斗は、いつ何をどこでどうすれば良いのかな? 5W1Hを教えてくれる?」


「あ、ありがとう!」


「いいって、いいって! 恋愛の先輩、遥様にまっかせなさ~い!」


「ありがとう! 本当にありがとう!」


「あ、そうだ! 凛の幸せを聞いたから、うっかりして伝えるのを忘れてた!」


「え? 伝えるのを? うっかりして忘れてたって何?」


遥が、私にうっかりして言い忘れた事?


少し緊張しながら、私は遥の言葉を待った。


「凛!」


「は、はい!」


「言い忘れていたのって、例の相原亮あいはら・りょうさんの事なんだけど……」


え?

相原さん!?


私を強引に誘った事を、潔く謝罪し、去っていったけれど……

その相原さんが、一体どうしたというのだろう?


私は大いに不安となった。


しかし……心配は杞憂きゆうに終わった。


「大丈夫、凛。安心して良いよ」


と、遥がきっぱりと言い切ったのだ。


ということは……

悪い話ではないみたい。


だけど……意味が分からない。


「私が安心?」


「ほら! 私が海斗へさ、言ったじゃない。「海斗は、相原さんと話してくれる? もうあんな事しないよう、ちゃんと言っといて!」ってさ」


「あ、そうだよね……」


「それでさ! 海斗があの後、相原さんとふたりきりで、いろいろと話をしたんだって。そうしたら、どうなったと思う?」


うう、なんとなく予想はつくけれど……遥がらす。


「ええっと……どうなったのか、教えて! 遥様! お願いします!」


「あはは! 凛! もったいぶってごめん! ばっちり話がついたのよ」


「え? ばっちり話がついた? じゃ、じゃあ!」


「うん! ウチのクラスでは既にオープンにしているし、凛と颯真君には申し訳ないと思ったけど、海斗がね、凛と颯真君のなれそめ、『10年前の出会い』を相原さんへ話したのよ。それでもう凛には、二度とアプローチしないでくれって、頼んだの」


「そ、そうだったの……」


……確かに、颯真君が転入して来た日。

私と颯真君の幼い頃の『出会い』は、クラスメート達に対し、オープンとなった。


颯真君自身の口から語られた。

事前に私の了解を得てから……


話を聞いたクラスメート達は、颯真君に興味を持った、

他のクラスの女子生徒たちにも話しているという。


だから、他クラスの相原さんに、いまさら隠す必要はない……といえる。


「ええ、他のクラスの人も多分知っていると思う。だから颯真君との出会いを話すのは、構わないけれど……」


「サンキュー! それでね! 相原さん! そんな素敵な出会いをして、これから恋に落ちるふたりの間に、第三者の俺は入れないよって、笑いながら話してくれたって!」


「え!? は、遥! ほ、本当に!?」


「そうよ凛! 本当の本当!!」


「あ、ありがとう! 遥!」


「うふふ、どういたしまして! 後で海斗にもケアしておいてね。あいつさ、あんな事になったのは、俺にも原因がある。これからは、なんでも協力する、凛と颯真君の恋を大いに応援するって約束してくれたんだよ!」


ああ!

まずは、相原さんを説得してくれた海斗君に感謝!

そして海斗君に、相原さんの説得を頼んでくれた遥にまた感謝!


相原さん……海斗君の言うように、誠実で素敵な人だった。

私への誘い方はちょっと強引だったけれど……


相原さん……ごめんなさい!


と、私は心の中で、両手を合わせていた。


という事で、相原さんの件は無事解決した。

海斗君に会ったら、お礼を言わないといけないな。


万が一、相原さんが心変わりする可能性もある。

けれど、私にはもう心に決めた相手が居ると、きっぱりお断りすれば良い。


よし!

自ら協力を申し出てくれた遥に、次の段取りを相談しよう!


「ねえ、遥」


「なあに?」


「遥に電話する前に、お母さんと話した。公園で颯真君と話し込んで、だいぶ遅く帰って来たから、理由と一緒に」


「うん、良いんじゃない。彩乃ママに遥の初恋の応援をして貰おうって、勧めたのは私だし」


「そ、それでね、お母さん、私へ、アドバイスしてくれたの」


「凛へ、アドバイス?」


「うん! ひとつはね、遥が察してくれたように、遥と海斗君に協力して貰えって事。詳しい事は後で話すけど、ダブルデートして、既成事実を作れって言われたよ」


「ダブルデート? 既成事実?」


「ええ、私と颯真君、遥と海斗君、4人で何回かデートしろって」


「おお、それで?」


「そうすれば、一見友だち4人で遊んでいるように見えるから、誰かに見られても、そう厳しく追及されないだろうって。私と颯真君が、いろいろ話し、付き合っている既成事実が出来つつ、遥と海斗君が、颯真君とも話して遊んで仲良くなれるからって」


「わお! 成る程ぉ! それ! ナイスアイディア! 大いに納得! 一石二鳥! さっすが彩乃ママ! あったまい~!」


やはりというか、遥に詳しい説明は不要だった。

すぐにお母さんの意図を理解したらしい。


「凛! 了解! ダブルデート! 私も大賛成! 海斗にも頼んでおく。多分、大丈夫だよ!」


「ありがとう! よろしくお願いします。本当に感謝します!」


「あはは、ありがとうだけでいいよ。 よろしくお願いします。本当に感謝します!なんて他人行儀だよぉ!」


いやいや!

そう言われても、遥には言いますって。

私の素直な感謝の気持ちを伝えておきたいから。


でもこれで、遥と海斗君の協力はほぼ得られる。


問題は……もうひとつの方だ。


私は軽く息を吐き、遥に話を始めたのである。

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