第41話 そんなことにはなりませんけど

 途中までは想定された動きだった。あんな張り紙があったら学校が騒ぎになることはわかっていた。それに俎上そじょうさんが食いついてくることも想定内だった。


 雨霖うりんさんグループの誰かと衝突する可能性もあると思っていた。だけれど……この流れは想定していない。


「そうだと思ってたんだよねぇ……」俎上そじょうさんが雨霖うりんさんの周りをぐるぐる回って、「やたら仲良いじゃん? 雨霖うりんさん、あのチート野郎のこと好きなんでしょ?」

「どうだろうね? あなたには教えない」

 

 ……珍しく好戦的だな。そこまで雨霖うりんさんが怒ることは想定外だ。いつもみたいに笑って受け流すと思っていた。


「ふーん……」俎上そじょうさんも楽しそうだな……人が困ってるのを見るのが楽しいのは同意するけれど……「あんなのの、どこがいいんだろうね?」


 それは僕も思う。僕のどこが良いのか、僕にはわからない。なんで雨霖うりんさんたちが僕に好意的に接してくれるのか理解できない。僕なら僕のことを嫌いになる。


 ともあれ……このまま雨霖うりんさんに注目を集めさせる訳にはいかない。しかも気がつけば俎上そじょうさんと雨霖うりんさんのグループが集まっていて、抗争寸前になっていた。


 クラスの巨大グループがぶつかることは望んでいない。


 僕は深呼吸を1つしてから、俎上そじょうさんに近づいていった。


 すると雨霖うりんさんが僕の手を握って、


「行こう。相手にしなくていいよ」


 雨霖うりんさんとしてはそうだろう。でも、僕としては俎上そじょうさんを相手にしないといけない。というより、ここに集まった生徒全員を相手にしないといけない。


 これは僕のけじめだ。


 僕はスマホを取り出して、とある文章を打ち込む。そしてその画面を俎上そじょうさんに見せつけた。


「なに……?」俎上そじょうさんはスマホを覗き込んで、その文章を読み上げる。「『オフラインの大会で優勝したら、チート疑惑は晴れますか?』」


 いつかやらないといけなかったことだ。いつまでもチート扱いされるのは腹が立つし……なにより、大会には出たいと思っていた。今までは逃げていたけれど、これ以上逃げるのは嫌だった。


「ふーん……」俎上そじょうさんが……ようやく僕を見てくれた気がする。「そりゃデカい大会で優勝したら認めるけどさ……でも、いいの? 負けたらチート野郎確定だよ?」


 そうはならないだろう。オフラインでも同じような実力を見せることができたら、チートを使っていない証明になる。優勝だけが求められるわけじゃない。


 だけれど……緊張でプレイがボロボロになってしまったりしては別だ。オンラインとオフラインの動きに違いがありすぎたらギルティ。完全にチートプレイが露見することになる。


 まぁ……運営にアカウントを消されていない以上、ある程度はシロなんだけど。そんなことを俎上そじょうさんに説明しても納得してくれるわけがない。


 実力で黙らせるしかないのだ。俎上そじょうさんも、世間も……僕自身も。


 だからこそ自分を追い詰める必要がる。そうじゃないと意味がない。

 

 僕はさらにスマホに文章を打ち込んで、


『優勝できなかったらチート扱いでいいですよ』その覚悟はとうにできている。『逆に優勝した場合は、チート疑惑を取り下げてください。そして、二度と僕たちに危害を加えないでください』

「自信がありそうだねぇ……オフラインでもチートってできるの?」


 やろうと思えばできるだろうな。というかチートは本来オフラインで楽しむべきものだ。それでもルール違反だろうけど……オンラインでやるよりはマシだろう。


 ともあれ……


『条件を飲んでくれるんですか? くれないんですか? どっちかハッキリしてください』


 折角のチャンスなのだ。ここで俎上そじょうさんとも決着をつけてしまえば手っ取り早い。


「ふぅん……大会って、なんの大会?」

『そうですね。じゃあ火種とかどうですか』

「火種……ああ、なんか聞いたことあるね」そいつは話が早い。「いいの? 国内最大級の大会でしょ?」

『だからこそ最大の証明になるでしょう?』


 チートしなくても国内最強だと、せっかくだから示しておきたい。


 というより……出場してみたかったのだ。国内最強を決める戦いに参加してみたかったのだ。俎上そじょうさんと揉めなくても、いつか出ていただろう。


 さてこの条件を俎上そじょうさんが受け入れてくれるとありがたいのだが……


「いいよ」どうせ優勝できないと思っているんだろうな。「逆に優勝できなかったら、私は公認であなたたちに手を出せるってことだよね?」

『僕にならいいですよ』雨霖うりんさんに被害が行くのは困る。『まぁ、そんなことにはなりませんけど』


 どうせ僕は優勝するのだ。ゲームに関しては結構自信家なのだ。ライバルであるミラージュ897さんがいない今、誰と対戦したって負ける気はしない。


 ……


 いや、嘘だ。自信なんてない。負ける可能性だってある。その可能性のほうが高いかもしれない。

 チート野郎扱いされるかもしれない。これからの人生……これからの学校生活を俎上そじょうさんにいじめられ続けるかもしれない。


 そうなってもいい。それでも、挑戦したいと思ってしまった。


 まぁ、あれだ……


 やるからには負けるつもりはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る