第25話 心臓がうるさすぎてフェスティバルだぜ

 一応ゲームの動作確認をしてから、6時前を迎えた。


 現在地点は僕の家。狭くてゲーム以外に目につくようなものはなにもない。そんな家。一応クーラーがあるから気にいっている。この狭さも……あんまり気にならない。


 唯一の問題は隣の部屋に住んでいる人が、夜中にロックを奏で始めることである。まぁ毎日じゃないから良しとしよう。


 それで……えーっと……また動作確認をした。時刻は5時55分だった。


 それから……部屋を見回してみる。しかし見慣れた部屋に見どころなんてあるはずもなく、またゲームの動作確認をした。


 時刻は5時56分だった。


 そして……そして……動作確認をした。


 時刻は5時56分だった。


 ……


 おかしい……時空が歪んでいる。緊張しすぎて時間を捻じ曲げてしまった。これが相対性理論か……


 落ち着けバカ野郎。こんな緊張しててゲームができるか。落ち着いて動作確認……じゃなくて深呼吸を……


 ああどうしよう……もうあと3分くらいしかない。3分くらいで雨霖うりんさんとゲームをする時間になってしまう。早く時間が来てほしいという願いと……こんな約束するんじゃなかったという思いが交錯している。


 落ち着け……落ち着くんだ。動作確認……じゃなくて素数を数えろ。素数ってなんだっけ。ヒツジを数えるんだっけ。ヒツジってなんだっけ。ヒツジは素数だっけ? 動作確認は終わったっけ?


 情けない情けない。直前になってこのザマとは。心臓がうるさすぎてフェスティバルだぜ。なにを言ってるのかわからん。混乱しすぎだ。


 ……


 大丈夫……きっと大丈夫。雨霖うりんさんとゲームをするだけだ。そして好きな食べ物を聞くというミッションをこなすだけ……大丈夫大丈夫。


 そう……大丈夫だ。雨霖うりんさんは僕を理不尽に否定したりしない。ゆっくりと僕の言葉を待ってくれる人だ


 雨霖うりんさんの姿を思い出すと、少し緊張が和らいできた。


 そもそも……もう時間だ。緊張していても仕方がない。


 覚悟を決めると、心臓の高鳴りは少しずつ収まっていった。


 そして……


『こんにちは』6時になると同時に雨霖うりんさんからチャットが来た。律儀な人だ。『こっちは準備できたよ』


 さて……


 雨霖うりんさんの好きな食べ物はなんだろう。


 これでレモネードだったらどうしよう。

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