第18話 鏡を見るのは苦手かい?

 雨霖うりんさんの恋人になって彼女を支える。


 そんな事が僕にできるわけがない。


 ともあれ……僕の意見を伝えなくては。僕がスマホを取り出すと、


「チャットで会話する? オッケー、ちょっとまってね」2人とも僕の考えを察してくれたようだった。「そうかそうか。なんが機械音痴だから、なんか勝手にキミも機械が苦手なんだと思ってたよ」


 そんなに僕となんという人物は似ているのだろうか。一度会ってみたいな。


 アドレスを交換して、さっそく地平ちひらさんからチャットが来た。


『やっほー』なんとも地平ちひらさんらしい第一声だった。

『届いた?』これまたしずかさんらしい言葉だった。

『この3人だけのグループチャットね』チャットでもおしゃべりなのが地平ちひらさん。『すずには内緒だぜ』


 ……そうなのか。まぁ雨霖うりんさんには聞かれたくない会話なんだろうな。


 次にしずかさんからのチャットが飛んでくる。


『私は文字を打ち込むのが遅いから、そこは勘弁してほしい』

『了解しました』僕のやり方に付き合ってもらうのだから、そりゃ勘弁する。『ちなみに、ナンさんというのは?』


 漢字がわからないので、カレーが似合いそうな表記になってしまった。


喋喋ちょうちょうなんだよ』チャットでも主に地平ちひらさんが会話してくれるようだ。『知らない? 結構目立つ女子だと思うけど』

『すいません……』

『謝らなくていいよ。まぁ今日はなんは休みだから、明日にでも紹介しよう』体調不良か何かだろうか、と思っていると、『なんはちょっと病気持ちでね。定期的に通院しないといけないんだって』


 病気か……僕は意外にも健康体なので、ちょっと申し訳なく感じてしまう。


なんがいれば、今日の騒ぎも起きなかっただろうにね』よほど信頼されている人物なんだな。『神って呼ばれてるくらいだからね』


 神……?


なんのあだ名だよ』

『なぜそんなあだ名に……』

『神っぽいからじゃない?』ボカロの名曲かよ。『もしかしたら人間じゃないのかもね。まぁ、なんでもいいけど』


 本当に何者なんだろう。なん……喋喋ちょうちょうなんという人物が気になってきた。


『話がそれたね』たしかにそうかもしれない。『私のお願いは1つ。雨霖うりんすずと恋人になって欲しいの。できることなら、守ってあげてほしい』


 ……聞けば聞くほど荒唐無稽な話だな。


『他に候補がいると思いますが』

『そうかな。私は……簡単に頼んでるつもりはないよ』簡単に見えるけれど。『キミのことは、少し前から気になってた。強い人だって思ってた』

『失礼ながら見る目のない人ですね』

『キミもだよ。鏡を見るのは苦手かい?』

『得意だと思ってますよ』


 鏡で自分を見ても、強い人間には見えない。毎日見ているけれど、ヘッポコで弱っちそうだ。


『キミは覚えてないようだけれど、私とキミは1年生のときも同じクラスだったんだよ』本当に覚えてないから申し訳ない。『私がキミに惚れた理由を、1つずつ解説してあげよう』


 惚れたってのは勘違いする表現だな。要するに……合格点をつけてくれた要素ってことだろう。


 しかし1年生のときか……まったく覚えてないな。本当に学校での人間関係なんて興味がなかったからな。クラスに誰がいて、誰がいないなんてのを気にしたことがなかった。


『まず最初に、キミは自分の機嫌を自分で取れる人なのさ』

『友達がいないだけですよ』

 

 僕の機嫌を取ってくれる人間がいないだけである。


『人間関係がゼロってわけじゃないでしょ? キミはどんな状況でも、常に自分の中で自分をコントロールしてきた。不機嫌になって相手に当たり散らしたりしなかった』

『友達がいないだけですよ』


 当たる相手がいないだけである。


『次に、キミは相手によって態度を変えない。確固たる自分があるよね。割と頑固というか……あと、打たれ強かったりする』

『打たれ弱いと思いますよ』

『見られたくないノートの中身を見られて、翌日に学校に行ける人は打たれ強いよ』そうかもしれない。『そういえば言うの遅くなったけど、昨日は助けてあげられなくてごめん。気づくのが遅れちゃって……』

『気にしてませんよ』助けてもらったら嬉しいけれど。『もしも地平ちひらさんに助けられていたら、あなたに惚れてしまってた可能性もありますからね』

 

 そうなれば、僕と雨霖うりんさんが恋人になるという計画はお陀仏だ。


『今からでも遅くないよ?』

『本気にしちゃいますから、やめてください』

『歯が浮くようなセリフを言うんだね。すずには効くだろう』


 地平ちひらさんにはあんまり効かないようだ。こういう表現に慣れているのだろうか。


 というか僕は……なんでこんなにチャットだと強気になるのだろうか。本来の僕はここまで饒舌なやつなのだろうか。純粋に言葉として発するのが苦手なだけなのだろうか。

 

 そして……アレだな。プレイボーイな言動が一番効くのは、しずかさんらしい。僕と地平ちひらさんの会話を見て、勝手に顔を赤くしていた。いや……チャット入力が苦手なだけか?


 ……雨霖うりんさんのグループ……雨霖うりんさんと地平ちひらさんとしずかさん。かなり正反対の人達が集まっている集団に思えるのだが、どんな接点で繋がった人たちなのだろう?

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