第13話 あ、ごめんね

 高校生活という青春の中での一大イベント。


 あの憧れの人と隣の席になりたい。いや、なりたくない。なったらなったで緊張するけれど、結局遠く離れて落胆する。そんな悪魔のイベントである。


 特に僕の隣になった人なんて、その後の一ヶ月がつまらないものになるのが確定するようなものだ。貧乏くじってやつだな。申し訳ないが、僕だって高校くらい卒業したい。


 さてくじ引きで座席が指定される。まずは全員にくじを配って、その後一斉に座席を確認するというバラエティ番組みたいな発表の仕方だった。


 別に僕の座席なんてどこになっても構わない。この間揉めた女子グループと一緒になったら困るけれど……まぁしょうがない。


 ……

 

 そう……別にどこでも良い。誰かの隣になりたいなぁ、なんて思っていないし、思ってはいけない。あの人なら僕を受け入れてくれるかも、なんて淡い期待を持ってはいけない。


 他人に期待しない。それが僕が生きていく上で身につけた能力なのだ。期待しなければ裏切られないし……期待させなければ裏切ることもない。


 だから誰の隣になりたいとか、そんな事は考えていない。考えてはいけない。


 クラスがざわつき始める。全員が次の座席位置……青春の位置に心を踊らせているようだった。


 僕には関係ない……はずなのに、心臓が勝手に高鳴ってしまう。


「全員に行き渡ったな? じゃあ、一斉に番号を確認しろ」


 言われるがまま、僕は紙を開いて座席番号を確認した。


――2――


 ……2……


 座席番号は左前が1、その1つ後ろが2という形になっている。そして左は窓際だ。


 ……窓際の前から2番目か……悪くないのではないだろうか。問題は前後左右の生徒だけれど……


「じゃあ移動しろ」


 先生の言葉を合図に、全員が動き始める。そしてクラスの所々から歓声が聞こえ始めていた。


 友達の隣になれたとか、好きな子の隣になれたとか……そんな想いが交錯しているのだろう。僕には……関係のない話だ。


 そんな事を考えつつも……とある人物の動きを目で追ってしまう。自分でも気持ち悪いと思うが……ほぼ無意識なのだ。


 雨霖うりんさんは……後方の席にいるようだった。近くの席の人が知り合いだったのか……あるいは持ち前のコミュニケーション能力を発揮しているのか、親しげに誰かと会話していた。


 ……結構、離れてしまった。そりゃ直線距離なら大したことない距離だけれど……教室の中でのこの距離はかなり遠い。


 ……


 いい加減、認めろよ。僕は身分違いの恋をしていると。叶うはずのない恋をしていると。雨霖うりんさんのことが好きなのだということを。


 まったく恥ずかしい限りだ。ちょっと優しくされたからって……それだけで惚れてしまうとは。

 何度もいうが男子なんてのは単純なもので……本当に単純なものなのである。とくに僕は単純らしい。


 ……とはいえ……まぁ離れてしまったものはしょうがない。


 そうこうしているうちに、僕の隣と前後の席が埋まっていく。どうやら隣も前後も男子らしい。これはかなりの確率の……ラッキーなのではないだろうか。異性が隣よりは緊張しない。


 ……そうだ。別に女子が隣じゃなくたって青春はあり得るのだ。隣の男子とラブロマンス……じゃなくて友情を育むことだって可能かもしれない。


 そっちのほうが無難だろう。ヘタに好きな人の隣に行くより――


「あ、ごめんね」


 不意に教室後方の席からそんな声が聞こえてきて……一気に教室がざわついた。


 何事かと僕も振り返ると……


 びしょ濡れになった雨霖うりんさんの姿が目に入った。

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