第12話 席替え

 美少女と会話するというのは、緊張する……のだけれど、想像していたよりは緊張が少なかった気がする。


 夜は寝られたし、そこまで神経が高ぶっている様子もなかった。


 それはおそらく……雨霖うりんさんの接しやすさが影響しているのだろうな。なんだか彼女と話していると冷静になれる。


 待ってくれるからだと思う。僕が声をつまらせても、返答がなくても、チャットで返答をしても、そのすべてを受け入れてくれるからだと思う。


 だからこそ僕も言葉に気をつけないといけない。許してくれるのは雨霖うりんさんが優しいからなのだ。その優しさに甘えて彼女を傷つけてはいけないのだ。


 そんな決意をいだきながら、翌日の登校。


 朝に教室に入って、無意識に雨霖うりんさんを探してしまった。しかしまだ登校していないようで、彼女の姿はなかった。


 そりゃそうだろう。僕は登校の人ごみに紛れるのが嫌で、少し早めに登校しているのだ。この時間にいる人は数人しかいない。一番乗りしても気まずいので、いつもこれくらいの時間に登校しているのだ。


 この時間に目立つグループ……雨霖うりんさんが登校していないことは把握済みなのだ。なのに僕は雨霖うりんさんを探してしまった。男子なんてのは所詮単純なもので……って、何回僕は同じことを説明してるんだよ。


 ちょっとだけソワソワしながら、暇な時間を過ごす。まぁ家でゴロゴロしていたところで暇なことに変わりはないが。


 なんとなくスマホを操作して、僕が普段やっている格闘ゲームの情報を調べてみる。プレイ頻度は落ちても情報には目を通してしまうのだ。


 適当にサイトを確認していると……気になるスレッドを見つけた。


『ミラージュ897って急に消えたよな』


 ミラージュ897……僕が勝手にライバル視してた人か。操作速度と精度……そしてなにより成長性が半端じゃなかった人だ。


 その人が突然ゲームに現れなくなった。それも僕がゲームから離れた1つの理由でもある。


 なんでミラージュ897さんは突然いなくなったのだろう。そりゃもちろんゲームを辞めてしまうことはよくあることだろうけど、ミラージュ897さんほどの熱量がいきなりなくなるとも思えない。


 というより僕はミラージュ897さんに負け越しているので、このままいなくなられても困るのである。


 書き込みを見ていく。


『やっぱチートだったのかな』そんなわけがない。戦った僕がよく知ってる。

『純粋にPSプレイヤースキルが高い感じだったと思うけど』僕もそう思う。

『チートしてたのはスー・テランだろ?』

 

 そいつがチートをしていないことは僕が一番良く知ってる。


 だってそいつは……スー・テランは僕だ。僕の格闘ゲームをプレイするときの名前だ。


 僕はチートなんかしていない。一生懸命練習して強くなったのに……それでチートを疑われるとは悲しい限りである。


『チートしてないっていうのなら、表舞台に出てくれば良いのにな』

『オフラインで活躍すれば、チート疑惑も晴れるからな』


 オフラインか……嫌だ。絶対に参加したくない。ノートに落書きしていただけで、あんなにバカにされるのだ。格闘ゲームの大会になんて出たら、もっとバカにされる。


 さて、そんなことを調べている間に、教室が賑わってきた。


 いつの間にか雨霖うりんさんも教室に姿を表していた。彼女の席は前のほうなので、教室に現れたことに気が付かなかった。


 そして彼女から話しかけてくることもない……なんて思っていると、突然スマホが振動した。


『おはよ』


 慌てて雨霖うりんさんのほうを見ると、小さく手を振ってくれた。


 ……なるほど……こうやって他の男子たちを落としているわけだ。魔性の女だな。しかし僕は勘違いなんてしない。


 さてそんなこんなで朝のホームルームの時間になって……教壇に立つ担任が宣言した。


「今日はかねてからの予告通り、席替えをやるぞ」


 ……


 そういえば、そんなイベントがあったな。

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