第12話 いざ、観光へ!

「んで、どこ行くの?」


 ロビーでもらったマップを見ながら桜田さんは言う。


「んー、そうだね…、無難に温泉入りまくる?」


「まぁ、それもありっちゃありなんだけどねー、なんか他のこともしたくない?」


「まぁ、確かになぁ…」


 と言う感じで仲良く2人で話している。

 こっちはこっちで2人で話せるチャンス、つまり、例の計画を成功に導くチャンスである。僕は2人っきりと言う状況に緊張しながら、


「…三日月さん、ほんとまさかだね」


 意味のわからない話のスタートになってしまった。いろいろな捉え方が出来てしまう。

 やっちまったぁ!


「ほんとだよね…、まさか、私たちが出会ったこの場所で修学旅行だなんて、凄いこともあるもんだよね」


 三日月さんは話の意図を分かってくれていたようで、普通に話してくる。

 僕とはやっぱり普通に喋れるんだな、嬉しい限りだ。

 

「ほんとそれな!」


 いや待って、会話続けれん!

 緊張しすぎて頭回らん!


「というより、三日月旅館でお手伝いしてるんだよね? 大丈夫なの?」


「あー、あの時話したもんね。それは何故か知らないけど大丈夫になったのよ」


「ん、あのお母さんと仲直りしたの?」


 僕があんなに頑張ってお母さんに言ったのに、効果がなかったら困るし、本人の口から一応ね。

 まぁ、結果はイ◯ンショッピングモールで見かけたから大体見当はついてるんだけど。


「そう、まさかの仲直りできたの! 何だか知らないけど急に優しくなったの! 知らない女の人が何か言ってくれてるのを見たんだけど、その人が何かしてくれたのかなぁーって、私は思ってるんだけどね。だから、あれ以降は自由にしなさいってなったのよ!」


 三日月さんは嬉しそうに言う。


「そうなんだ! 良かったじゃん!」


 まじで、返し下手すぎてすいません。


「うん!」


 三日月さんはにこにこと微笑んだ。本当に彼女の笑顔は素敵である。


「ちょっと、何2人で盛り上がってるの?」


 そこに桜田さんが乱入してくる。


「いや、別に何にもないよ?」


 うんうん、と僕も頷く。


「そう? じゃあ、とりあえず温泉いっとこ!」


「「おー!」」


 僕もみんなに揃って手を上げる。

 僕は、ちょんちょんと肩を叩かれる。


「ねぇ、さっきの話、私達2人の秘密だよっ」

 

 耳元でそう囁いて、桜田さんの方へと行った。

 やばい、今の最高すぎた。


 それからと言うもの、コロッケを食べ歩きし、おみあげを少々購入した。

 たいして遠くないし、すぐ買いにこれるからいいかーと、僕の班みんななったのである。


 そして、僕らは温泉へと向かった。


「じゃあねー」


「おうー、上がったらこのたたみのとこ集合な」


 よく温泉にある、あそこである。


「わかったー」


 そういって、僕たちの班は別れる。


「おー、お前何がとは言わんがすごいな」


 颯太と脱衣所で更衣してあると、いきなりそう言ってきた。


「黙れ」


 取り敢えず、顔を引っ張っておいた。


 そこの温泉は湯加減も暑すぎず冷たすぎずでちょうど良かったし、いいにおいもして、正直最高だった。それから同じ学校の奴らも少数いた。颯太が少し喋っていたので、間違いないだろう。

 それから数分浸かり、


「はぁー、いい湯だったぁ…」


「そうだなぁー」


 更衣を終えた僕たちは集合場所の畳に来ていた。

 それから10分程度雑談を交わしながら待つが、

 

「女子遅いな…」


「それな」


 全然女子が上がってこないのである。

 ドライヤーとか時間かかるのはわかるが、待つ男子の気持ちも考えて欲しいものだ。


「すまんー、お手洗い行ってくるわ」


 お腹を抱えている。お腹を壊しているのだろうか。


「おけー」


 僕も行こうかと一瞬思ったが、申し訳ない気持ちがしたので、やめておいた。

 そして、スタスタとお手洗いに駆け込んで行ったのだった。

 

(まだ女子も帰ってきそうにないし、フルーツ牛乳でも飲むかー)


 と思って財布を開けるが、


(あ、このお札使えないのか…。って、あれ? 小銭全くないんだけど? おわた)


 と、呆然と眺めていると、


 チャリン、ピッ、ガシャーン


 言う音を立てて、何かが落ちてきた。


(人が使ってるのに横から割り込んでくるのは誰だ?)


 と、お金を入れ、ボタンを押した人を見ると、


「よっ」


 そこには、桜田さんがいた。


「フルーツ牛乳欲しいけど、お札しかなくて買えない顔をしてたから私が奢ってあげます!」


 サイコパス? とか思いながらも、申し訳なくなる気持ちがあった。今日知り合ったばかりの人に普通奢るだろうか。


「ぃや…」


 やっぱり声にならない、と言う事で、全力で首を振る。


「あれ、これじゃなかった? ごめん! どれ欲しかったの?」


 まさかの違う勘違いをされてしまった。言葉を発しない僕が悪いので、何とか気持ちを伝えようと、必死に言ってみると、


「いや、それで合ってるから!」


 なんと、しっかり声になったのである。しかも、結構大きな声。


「お! びっくりした。初めて喋ってくれた。私嬉しいよ!」


 と、言った後、


「じゃあこれお礼ね」


 と、フルーツ牛乳を渡してきた。


「ありがとう」


 え、また声になったんだけど。なんでや?


「どういたしまして。ふふっ、鳴釜くんが喋ってくれるのいいね」


 その言葉に不覚にもドキッとしてしまった。

 単純に女子からそう言うことを言われることに慣れていないのと言うことなのかもしれない。


 それからみんなで合流し、温泉巡りをした。 

 あれからも何度か喋ってみたが、普通に喋ることができた。これからも桜田さんとは普通に喋っていけそうである。

 そんな事をしていたら、夕方になったので自由時間は終わりで、旅館に戻るので合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る